教室で肩を押さえつけられる幼馴染百合

 今私、若宮わかみや あかは隣の席の幼馴染、広沢ひろさわ 紗気さきに肩を押さえつけられながら見つめられている。

 この状況はまるで、紗気が私に告白をしようとしているようにしか思えない状況。

 ただそんなことはありえない。

 だって私と紗気はちょっとだけ人よりも仲がいい、ただの幼馴染なのだから。


 私と紗季は同じ病院で生まれたらしい。

 時期は紗気の方が先なのでお姉ちゃんなのは、紗気だ。

 たまに私の方が先に生まれたかったと思うこともあるけれど、それは本当にたまにで、普段の生活の中ではどちらが先に生まれたとかの話題は、全くと言っていいほど出ない。

 たまにでる先に生まれたとかの話題もそこまでキツイやつではなく時々、紗気が冗談でアイス買ってきてとか言うぐらいの軽いやつ。

 それも結局は二人で買いに行くハメになるのが、私達の普段の流れ。

 それだけ仲がいい私達は家が隣同士ということも幸いして、物心つく前からよく一緒に遊んでいたらしい。

 それに加え親同士も仲がいいというのも、私達が幼馴染になった理由かもしれない。

 そんな昔から仲がいいというより運命さえ感じてしまう私達には、もう一つ自慢できることがある。

 それは小学校から現在の高校に至るまで、お互いクラスが違ったことがない。

 紗気とは一度もクラスが違ったことが、ない。

 これは運命を通り越してむしろ気持ち悪いまで、あるかもしれない。

 でももし紗気と違うクラスになった場合を想像すると、夜も眠れなくなりそうなほどに怖い。

 私はもう紗気なしでは、生きていけない体になっているのかもしれない。

 そんなこんなで時間を私が、紗気に告白されそうになっている時から少しだけ巻き戻す。


 私と紗気は誰もいない教室で、どうでもいいような雑談をしていた。

 本当は他のクラスの子たちと同じタイミングで、帰る予定だったのだけれどなんとなく椅子に座ったままでいたら、紗気も座ったままだったので、そのままなんとなく雑談を始めたら、いつのまにか教室に誰もいなくなっていた。

 誰もいない教室で勉強も何もせず、ただただ紗気と喋っているこの時間が、私にとってはなんとなく気持ちいいものだった。

「紅はさ、その、今、好きな人とかいないの?」

 紗気の質問に私は、口に含んでいたお茶を吹き出しそうになるのをなんとか抑え、質問を質問で返す。

「な、なに突然」

 私がここまで動揺している理由は、昔私がテレビに映っているアイドルを観て「この人カッコいいよね」と呟いただけで、紗気は台所にある包丁を手に取ろうとした。

 その一件以降私は、誰かをカッコいいと思うことは無くなった。

 もし幼馴染が殺人者にでもなったら嫌だから。

 そんなことがあってから私達の間で、恋バナは禁句中の禁句になったのだけれど、それを当の本人が破ったことが、私の動揺の原因。

 長い髪をクルクルさせながら照れを隠しながら紗気は、聞いてくる。

「そんな驚かなくても⋯⋯それでね、だからその、紅は今好きな人とかいるのかなって」

 驚いてる理由は、過去のあなたのせいですよ〜、と心の中で言っとく。

「いないよ。いない。だって私誰かをカッコいいとか思わないもん」

 可愛いとは時々思うけどね。

「そう。いないのかそっかそっかー」

 私の答えに安心したのか、私に隠しようにホッとため息をつく紗気。

「突然なんでそんな質問? さっきまで今日の朝見た猫の話してたのに」

「いや、別になんでもないよなんでも、なんかふと思ったから聞いてみただけ、ただそれだけだから!」

 明らかに動揺している紗気を私は、さらに問い詰めてみる。

「それ嘘でしょ。本当は聞いた理由があるんじゃないの〜?」

 私は紗気の片手を握り、ブランブランさせながら聞いてみた。

「うー、なんにもないってばー」

 紗気の困っている表情に目を合わせながら、私は自信たっぷりに言うのだった。

「無理だよ紗季、私に嘘はつけないよ。何年紗季の幼馴染やってると思ってるの? さぁ早く本当の理由を言いなさいな」

 うー、と困り果てているなんとも可愛らしい紗気は、とうとう観念したようで、人差し指をトントンと合わせながら照れた表情で聞いてくる。

「どんな理由でも引いたりしない?」

「もちろん、私紗気のこと大好きだし」

 すると紗気は、決心したのか顔は真っ赤にしながらもゆっくり喋り出した。

「あ、あのね。聞いた理由は、今日占いで⋯⋯想い人が誰かに取られちゃうかもって書いてあって、それが理由です」

 ん!? 私に好きな人がいるか聞いて、それを聞いた理由が、占いで想い人がどうのこうのっていう理由、ってことは紗気が好きなのって私!?

 私は動揺しながら隣に座って目線を照れ隠しなのか私と合わせようとしない、紗気の肩を押さえてまじまじと紗気の目を見る。

 この行動で何かを察した紗気は、一度首を縦に振ってから、私の手を掴んだ。

「ちょっと来て」

 言われるがまま引っ張られていくと、私の体は教室の一番後ろの壁に追いやられた。

 そして紗気は、数分前に私が紗気にやったのと同じように、肩を押さえつけられ見つめられる。

 まるで今から告白でもされるような状況だった。

「さ、紗気?」

 私の声は、震えていた。紗気が怖いとかではないのだけれど、なんだかいつもと雰囲気の違う紗気を見て動揺しているのかもしれない。

 そんな当の本人の紗気は、私の疑問なんて聞こえていないようだった。

「あのね、紅。私、紅のことが──」

 その瞬間だった。

 教室のドアが開かれた。

 ドアの先にいたのは、女子のクラスメイトだ。クラスメイトは、私たちのこの状況、人によってはキスでもしようとしているように見えるこの状況を見て、言った。

「お邪魔しましたー⋯⋯」

 クラスメイトは、スーッと優しくドアを閉めてその場から立ち去った。

 クラスメイトに言い訳しようにも、動けないので、一旦離してほしいと紗気に言おうと紗気に目をやると、紗気は顔を真っ赤に染め上げていた。

 今日何度も赤くしている紗気だけれど、今日のどれも敵にならないぐらい赤く染め上げていた。

 多分クラスメイトが来た時に、勢いだけで動いていた紗気の脳が、一旦冷静なったのだと思う。

 冷静になってこの状況を見て恥ずかしがらない紗気ではない。

「うー」

 とうなだれながら紗気は、私の肩から手を離した。

 私はとても恥ずかしそうにしている紗気に、そっと声をかける。

「帰ろっか」

 紗気はコクっと頷いた。


 夕日が私たち二人を照らす帰り道、赤くなっていた顔からだんだんと通常の肌色に戻り始めていた紗気に、私は聞いてみた。

「紗気は私のことが好きなの?」

 紗気は私とは目線を合わせようとはしないものの、コクっと小さく頷いた。

 私は続けて聞いてみる。

「その好きは、友達としてとかではなく、恋人にしたいとかそういうタイプの好き?」

 またしても紗気は、小さくコクっと頷くだけだった。

 私は、何気なく言う。友達にただなんでもないような話をする様に、言った。

「そっか。じゃあ付き合う?」

 私にとって紗気は、昔から隣にいてくれる幼馴染だった。私たちの関係を表すなら、友達以上、恋人未満、家族以上、そんな感じ。

 だけれど紗気にとっては違ったみたい、紗気は私のことが好きらしい。友達以上、恋人になりたいらしい。

 付き合ってみてどうなるかは正直わからないけれど、なんだか今よりももっと楽しくはなりそうだった。

 だから私は提案した。

 紗気は、数回小さくコクコクと頷いてから、今日の帰り道では初めて横目ではあったものの、私の顔を見て聞いてきた。

「いいの?」

「いいよ、私も紗気のこと大好きだし」

 決して嘘ではない。

 紗気は、満面の笑顔で言うのだった。

「ありがとう、これからよろしくね!」

 こんな笑顔の可愛い女の子に告白されて、落ちないやつがいるわけないじゃないか。

 私は頬を人差し指で、掻きながら照れ隠しをする。

「うん。よろしくね」

 私はいつのまにか、幼馴染の女の子、広沢 紗気の虜になっていた。

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