短編集/幼馴染百合は最高だぜ!
tada
近所の公園で雑談をする幼馴染百合
日が沈み始め空の色が、現実離れしたオレンジ色になっている、そんな時私は、家の近所の公園でブランコを漕いでいた。
若干の錆びつきによってブランコは、時々軋む音をを鳴らす。
私が思いっきり漕げば今にも壊れてしまうのではないか、そんな心配が出てくるぐらい脆いブランコを漕いでいると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「
公園の出入り口で長い黒髪を揺らしながら大声で、私の名前を呼んだのは、幼馴染の
友菜は私と同じマンションに住んでいて、昔からよく一緒にこの公園で遊んでいた。
と言っても昔からこの公園にはブランコ以外の遊具なんてものは、存在しなかったからオリジナルの遊びを二人で考えたりしていたのだけれど。
そんな何もない公園で遊ぶような年齢だった私と友菜は、あっという間に成長してここではもう高校生だ。
高校生になって何か変わったかと聞かれても何も答えられないぐらいに私は、変わっていないけれど、友菜は少しというかだいぶ成長したと思う。昔は私のほうが背も何もかもデカかったのに今ではもう。
私はそっと自分の胸元に目をやった。
やったはいいものの、ただ気分が落ち込むだけだったので、そんな気持ちを少しでも晴らそうと私は、いつのまにか隣のブランコに座っていた友菜に声をかける。
「どうしたの? 何か用事?」
「いや、別に用事ってわけじゃないんだけど、少し話したいなーって思って」
そう言って私が漕いでいるのよりもさらに錆びついたブランコを漕ぎ始めた友菜の目は、どこか悲しそうでもあり哀しそうでもある。そんな悲しいを二乗したような目をしている友菜は言った。
「蘭はさ、もし気持ちは言えてないけれど好きな人が死んだらどう思う?」
雑談にしては、話題が重い気もするけれど、幼馴染が真剣そうに聞いてきたことを適当に答えるなんて私はしない。
「うーん。どうだろ実際身近な人が死んだりとかって経験が、全くないから想像でになっちゃうけど、私は多分、言っとけばよかったなって思うかな。好きって一言言えてればって絶対思っちゃうな、だってその気持ちは一生自分の中であり続けはするものの、整理はつかない無くなりもしない、ただあり続けるだけのものになってしまう気がする。まぁそれが良いのか悪いのかは人それぞれだとは思うけれど、少なくとも私はちゃんと自分の気持ちとは向き合ってちゃんと整理したい」
何故だか語ってしまった私は、少し恥ずかしくなり照れ隠しのように、笑みをこぼした。
そんな少しだけ痛い私を見てなのかはわからないけれど、友菜はそっと呟いた。
「わたしもそう思う。気持ちは伝えたい」
友菜の表情は、何か決意はしたものの、心の中では悲しくあるような感じが、私にはした。
まるでもう意味なんてないと悟っているような、そんな感じ。
そんな表情をした友菜は、ブランコを漕ぐのを止め私の目を見つめてくる。なんだか小っ恥ずかしいこの状況に私は目を逸らしそうになるけれど、あまりに真剣な友菜の眼差しを見ていると、逸らすことはできなかった。
そして友菜は真剣な、口調で言った。
「蘭、わたし。蘭のこと好きだよ」
唐突な告白。
突然すぎる告白。
私は動揺していた。心臓の鼓動が早くなる。
着けている黒縁メガネが、ガタガタと揺れるほど動揺しているかもしれない。
艶のある長く伸びた黒髪を風で揺らしながら、見つめてくる友菜を見ているとこれが冗談ではなく、本気だということが伝わってくる。
これは何かの罰ゲームとかではなく、本気で友菜は私のことが好きなのだと、伝わってくる。
「それは、ライクじゃなく、ラブのほうですか?」
友菜が本気だということは、聞かなくても伝わっている。聞かなくてもわかっている。けれど聞かざるおえなかった、動揺を隠すという意味合いも強かったけれど、それよりも友菜の真剣な眼差しがどこを向いているのか、私はそれをちゃんと友菜の口から聞きたかった。
「もちろん──ラブのほう」
今まで友菜のことをそういう意味で見たことがないと言えば嘘になると思う。
何故なら友菜は、綺麗だから。
女が惚れる女と言った感じ。
別の友人から冗談まじりに言われたこともある。
『あんたたちって、ホント仲いいよね。まるで付き合ってるみたい』
その時私は考えた。
本当にもし、友菜と付き合うとなったらどんな気持ちになるのだろうと。
幼馴染で、家族同然に育ってきた友菜と恋人同士になる。これが、いいことなのか悪いことなのか私にはわからない。
だから私は、そこで考えることをやめた。
幼馴染。
この関係を壊さないのならば、それに越したことはないのだから。
そう思っていた。
けれど、実際に告白をされてみるとそんな考えは、どこかに消え去っていった。
友菜に、好きと言ってもらえた。
それだけで、私は鼓動が早くなり、表情も嬉しさで涙が漏れ出してきそうだった。
幼馴染という関係が壊れても、恋人という関係になれるのならば、それでもいいかもしれない。
私は友菜に言葉にできないほどの笑顔で、口を開いた。
「友菜⋯⋯私も友菜のこと──好きだよ」
その時の友菜の表情は、私とは真逆の言葉にできないほど悲しそうだった。
「もっと、早く知りたかった」
ベッドの上で目を覚ましたわたしは、顔に手を当て涙を流しながら、悔しさが滲み出た言葉で、そっと呟いた。
夢を見た。
もういない幼馴染と、ブランコ以外の遊具は存在しない近所の公園で、話している夢を。
夢の中で、わたしは幼馴染に告白をした。
現実では、言えなかった一言を幼馴染に、これが夢だとわかっていても真剣な眼差しで、言葉にした。
そして幼馴染は、言ったのだ。
『私も好きだよ』
現実では聞けなかったその言葉に私は、涙を流した。
涙を拭い私は、ベッドから起き上がる。
カーテンの空隙から差し込む日の光が、私の拭ったはずの涙を照らす。
今日も学校だ。
重い足取りで、リビングに向かい適当に食事を済まし、私は家を出た。
幼馴染と一緒に通う予定だった県立逢生高校に足を向ける前に私は、同じマンションの隣の部屋に足を向かわせた。
そして慣れた足取りで向かった先には、中学生の頃の笑顔で笑っている幼馴染の写真が立てかけてあった。
写真の幼馴染は、今日の日差しぐらい暖かく明るい笑顔をしていた。
私はその写真の前で手を合わせ、今日見た夢のことを声には出さずに幼馴染へ語りかける。
蘭、私今日蘭との夢見たよ。夢の中の蘭はもちろん成長してなかったけど、相変わらず綺麗で黒縁のメガネがチャームポイントの可愛い女の子だったよ。それでね夢の中だとあの公園のブランコまだ取り壊されてなかった、もう半年ぐらい経ったのに、取り壊されてなかった、私なんだか懐かしくなって漕いでみたけどやっぱり錆び付いてて変な音鳴りっぱなしだったよ。あとね、これが一番大事なんだけど、私夢の中で蘭に気持ち伝えたけど、どう? 蘭には届いた? なんて届くわけないよね勝手にみた夢の中で、勝手に気持ち伝えて届くわけないよね。はは。そうだよね。届かないよね。ごめんね変なこと言って。けどね夢の中での蘭が言ったんだ、『私も』って、多分わたしが言ってほしかった──願ってたことを夢の中だから言ってくれただけなのかもしれないけど、わたしは嬉しかった。思わず目覚ました時泣いちゃったよ。昔から泣くのは蘭の方って決まってたのにね。最近だと蘭はずっと笑ってるもんね。私が泣き虫になちゃったよ。
蘭、好きだよ。
私は、蘭にそう伝えて立ち上がった。
蘭からの返事はない。
私はそのことに一粒の涙を流した。
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