第54話 とある猿顔の大泥棒とケツ顎のおっちゃん
「む・・・なんだこれは?」
深い森の中。
魔族は屈み込んでそれを拾い上げた。
それは虹色の輝く
美しい宝石であった。
「ただの石ころか。下らん」
そう独りごちて、
石ころを捨てようとしたところ――
「ちょぉおおおっとまったぁあああ!」
いやに間延びした声が聞こえてきた。
声に振り返る魔族。
するとそこには猿顔の赤いジャケットの
人間が立っていた。
「その宝石を、あ、こっちらに
わったしてもらっおうかなぁあああ」
虹色の宝石を指さして、
特徴的な口調で猿顔がそう言った。
するとそこに――
「そうはさせんぞぉおおお!」
コートを着たケツ顎の
男が慌ただしく現れる。
ケツ顎の登場に猿顔が
ぎょっと驚いた。
「げげ。おっちゃぁああああん!?」
「今日こそ逮捕だ! レパーーーン!」
「・・・なんだ?」
首を傾げる魔族。
ケツ顎が猿顔に掴み掛かる。
暴れる二人に土煙が大きく舞い上がる。
そして土煙が晴れると――
手錠で拘束した手首を高々と上げる
ケツ顎がいた。
「ふはははは! どうやら
年貢の納め時のようだな!
レパ――やや!?」
目を丸くするケツ顎。
手錠が拘束した手首は
人形のものであったのだ。
「あまいぜぇええ。おっちゃぁあああん」
猿顔がいつのまにか
近くの木の枝まで移動していた。
しかもその男の手には――
魔族が持っていたはずの虹色の宝石がある。
「なに? いつの間に――」
「おのれ! レパーーーーン!」
「んじゃ、さいな・・・のわああああ!?」
猿顔の男が足をのせていた枝が
ボキリと折れる。
為すすべなく地面に落下する猿顔。
すると男の手から虹色の宝石が
ポーンと放られて――
魔族の手のひらにポトリと落ちる。
「くっそぉおおおお。やりやがったな。
この大泥棒レパンからモノを盗むとは、
ふてぇ野郎だぁああああ」
「・・・いや、俺は何も」
「仕方ねえ。仕切り直しだ。
そんじゃま、ばいばぁああああい」
言うが早いか、
森の奥へと消える猿顔。
その男の背中を睨み据え
ケツ顎が悔しそうに歯噛みする。
「ぬううう。おのれレパンめ。
まんまと盗みおったな」
「・・・いや、何も盗めてないだろ?」
怪訝にそう尋ねる。
ケツ顎の男が頭を振り、
キリリと表情を引き締めた。
「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました――」
ケツ顎が魔族に振り返り――
こう告げる。
「あなたの心です」
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