第36話 とある研究者な少女とマゾッター三号

「にゃはははは! ついに完成したにゃりよ!」


白衣姿の少女はそう哄笑すると、

力強く目の前の物体を指差した。


「これぞ人類を魔族の恐怖から救う救世主!

マゾッター三号にゃりよ!」


少女の声に反応して、

魔族を模したロボットが力強くポーズを決める。


「さすがは天才学者にゃりね!

さあ、これで研究費用の工面は問題ないにゃり!

さっそく王様に報告するにゃりほろり!」


少女はそう独りごち、意気揚々と研究室を後にした。



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研究室から出て行く少女を

物陰から見やり、魔族はニヤリと笑みを浮かべた。


「ぐふふふ。魔族を駆逐する殺人兵器だと?

そうは問屋が卸さんぞ。この俺が魔族の未来のため

この場でその兵器を破壊してくれよう」


自身の目的を意味もなく口にして、

魔族は早速少女の研究室に侵入した。


目的のロボットはすぐに見つかった。

魔族を模したと聞いていたが、

鋼のその体は魔族に似ても似つかない。


「ふむ……これが脅威になるとは思えんが、

さっそく破壊しておこうか」


そう思い魔族がロボットに

一歩近づいたところで――


「ピピ……メテオライト起動開始」


そうロボットから音声が鳴り

その直後――


ロボットが頭上へと飛び上がり、

バカンと天井を抜けて空へと消えた。


「……な……なんだ?」


意味が分からず魔族がポカンとしていると

窓の外にこちらに来る少女の姿を発見した。


「しまった! まさかこうも早く帰ってくるとは!」


どうする? いっそのこと

研究室の外に出て少女を始末するか?


だが少女の背後には、二十名にもなる

武器を持った兵隊の姿もあった。


いかな魔族と言えど、あの数を相手に勝ち目はない。


「どどどど……どうする! どうする!」


慌てた魔族は――

ある決意をした。



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「さあさあ! 大臣さん!

ここがあたしの研究室であり

城であり都であり桃源郷であり

宇宙であり異世界であり――」


「まあどこでも良い。

それで本当に魔族に対抗できる

ロボットがいるのだろうな?」


「当然にゃりよ! 自信作にもほどがあり、

鼻から宝石を噴出可能にゃり!

すぽぽぽぽーん!」


「出ているのは鼻水だけだが、

何にせよ期待しているぞ。

軍への採用も意識しているがゆえ、

こうして我が兵にも見学してもらおうと

足を運んでもらっているのだからな」


「任せてくださいにゃほほほ!

さあごらん! これぞ人類の救世主にして

破壊者にしてジャンケンポン!

マゾッター三号にゃりよぼれえええ!」


そう少女が指差した先には、

どこからどうみても

生身の魔族にしか見えない

マゾッター三号が立っていた。


「おお。それか。なるほど。

随分とリアルな魔族のロボットだ。

これならば連中を騙すことも……

ん? どうした。呆然として?」


目を瞬かせる少女に、大臣が尋ねる。

少女は首を小さく傾げて怪訝に呟いた。


「いや……なんかグラフィックが

変化しているような……変化していないような。

ここまでリアルだったかにゃあ?」


少女の疑問に、大臣が「はっはっは」と笑う。


「どうした? 研究に根を詰めすぎて

疲れているのではないか? 見てみろ。

きちんと胸に『三号』と書いてあるではないか」


「……そんな文字を書いた記憶もにゃいけど

確かに書いてある以上、そうに違いないにゃりね。

にゃははははは! どうやら呆然としてしまった

にょうにゃりにょろおおおおお!」


「しっかりしてくれ。では早速だが

その性能をみせてくれないか?」


「もちろんでげす!」


「ぬ? 語尾が変化した」


少女が腕を組み、大仰に頷く。


「まずはこのロボットの最も

得意とする体術を見せるにゃり!

いけ! ゲボッダー三号!

ロケットパンチなり!」


「ぬ? 名前が変わった」


大臣の指摘は無視して、

少女は自身の自信作を

期待の目で見つめていた。


だがロボットは一向に動き出す気配がなく、

なぜかひどく焦っているようにダラダラと

汗を流すだけであった。


「ほう。代謝機能まで備えているのか。

思った以上にリアルなのだな」


「んん……そんな機能を搭載した記憶もにゃいけど、

まあ天才は無自覚に機能を搭載するものにゃりね」


「だがロケットパンチはどうした?」


「おかしいにゃりね。

ロケットパンチにゃりよ!

ロケットパンチ!

弾けろ!跳ねろ!千切れ飛べ!」


少女が声を上げてせかしてやると

ロボットがゆっくりと右腕を前方に伸ばして――


ビヨヨーンと体ごと前方に飛んだ。


ボゴンとロボットの体が壁に埋まる。


ぽかんと目を丸する少女と大臣。

大臣が首を傾げてぽつりと言う。


「……てっきり腕だけを飛ばすと思っていたが

体全体がロケットになる仕様であったか」


「……そうみたいにゃりね。

うーん……まあ二日前に搭載した機能にゃりから

あまり覚えてなかったみたいにゃり」


ロボットが埋まった壁から抜け出し、

頭から血を流したまま定位置につく。


血を流す機能も付けた覚えはないが、

愛情をもって製作したがゆえ、

きっと鋼に魂が宿り、血が流れたのだろう。


そう適当に少女は決めつけた。


「それで他に機能はあるのか?」


「むろんだ。愚図な貴様らとは出来が違うのだぞ」


「む。 キャラが違う」


少女は机の中から取り出した

足つぼマッサージのシートを掲げて見せる。


「このマゾッター三号は果てしなく

ジャンプを続けることができるにゃり」


「む? 一見無駄な機能に思えるが?」


「そんなことないにゃり。鋼の体ゆえ、

このマゾッター三号はクソ重いにゃり。

それに何度も潰されれば敵はすぐにミンチにゃろ」


「ほうほう。だがそのシートは?」


「魔族には硬質な外殻を持つ種族もいるにゃほ。

そんな相手でも問題なく踏めることを証明する

ためのシートにゃきょろま。ちなみに

足つぼとは名ばかりの、シートに張り付いているのは

カッターナイフの刃先でございにゃり」


「にゃるほど。それを何度も踏みつけられれば

魔族など余裕でごにゃるにゃ」


「人のアイデンティティを取らないで欲しいにゃ。

では早速シートを引いて、ゴー! マゾッター三号!」


だが少女が声を上げても、またもロボットは

汗をダラダラ流すだけで、なかなか動き出さない。


首を傾げる少女に、大臣が眉をひそめる。


「また停止したぞ? これでは実践に使えんぞ」


「変にゃりね……一旦バラバラに分解して

配線の確認を……」


そう話したところで、

ロボットが慌てたように

足つぼマッサージのシートに乗り、

ぴょんぴょんと何度も跳びはねた。


「おお、動き出したぞ」


「どうですか? 大臣どの。

素晴らしいと思うにゃろ?」


「うむ。足から噴き出す血が何ともリアルだ」


「眼から流れてる涙もイケてるにゃろ?

ちょっと呻き声も聞こえるけど、

きっとその機能も搭載したにゃりよ」


「他の機能も是非見せてくれ」


「もちろんにゃり。

マゾッター三号! 自分の歯を全部へし折れ!」


少女の命令に素直に従い、

ロボットが自分の顔をがむしゃらに殴り、

全ての歯をへし折った。


「すごいすごい! 是非他のも見せてくれ」


「マゾッター三号! 自分の目を指で突け!」


ロボットが躊躇なく自身の目を突き、

煌びやかな赤い噴水を眼孔から上げた。


「たいしたものだ! 他のもくれ!」


「では最終兵器行くにゃりよ――

マゾッター三号! メテオライト起動!」


少女のこの指示に、

これまで機敏に動いていたロボットがピタリと停止した。


眉をひそめる少女に、

大臣が訝しげに問うていくる。


「何だ? メテオライトというのは」


「えっと……敵の接近を感知した時とかに

自動起動する最終兵器にゃりが……

空高く舞い上がり死角となる頭上から

分子分解光線を噴出するにゃろ」


「――え?」


唐突にロボットが疑問符を浮かべた。

次の瞬間――


頭上より眩い光が降り注いだ。


大きく立ち上る土煙。

それが晴れた時には――

鋼の体を持つロボットが

床に立っていた。


「あれ? 何やら

途端にクオリティが下がったような」


疑問符を浮かべる少女に

大臣が嬉しそうに手を叩く。


「素晴らしい! 

早速実践投入を検討しよう!

むろん、研究費も何とかしよう!」


「ほんとにゃりね! やったにゃりよ!

げぼれごぼろぐろほろげまげごろろろ!」


「はっはっは。笑い方が怖いぞ」



――完!

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