第31話 とある恐怖のハンバーガーと三匹の魔族

とある村の村長宅。


村の住民が円を組み

話し合いをしていた。


その中で、一人のコック姿の男が

席を立ち、朗々と話を始める。


「最近、魔族の被害は増えるばかりです。

そこで我々はひとつの策を講じることにいたしました。

その策というのが、このハンバーガーです」


「そのハンバーガーが何なのですか?」


コックの言葉に、一人の若者が疑問符を浮かべる。

コックがひとつ頷き、ハンバーガーを高らかに掲げる。


「私がこのハンバーガーを村で販売を開始します。

ただそれだけで、魔族の被害は減ると思われます」


「それを売るだけで魔族の被害が?

にわかに信じられませんな」


「どういった理由から

魔族の被害が減るのですか?」


「申し訳ありませんが、それは言えません。

万が一にも、魔族にその理由が漏れては困りますので」


「ふーむ、理由もなくそのハンバーガーを

信じるのは難しいですな」


言葉通りに難しい顔をする村人に、

コックが真剣な面持ちで語る。


「おっしゃることはわかります。

しかしやらせてください。

必ずや魔族の被害を減らしてみせます!」


村人は互いに顔を見合わせた後、

コックにこくりとうなずいた。



====================


「というような話し合いが、人間の中であったのだが……」


人間にばけて会議に侵入していた魔族が、

仲間に会議の内容を共有する。


ハンバーガーを訝しげに見る魔族Aに、

仲間の魔族も怪訝に眉をひそめる。


「む。そのハンバーガーが、我らの被害を減らす?

まったく、人間の考えることは分からんな」


「然り。やはり人間とは愚かな生き物だ」


魔族Bと魔族Cが首を傾げる。

魔族Aはとりあえず、ハンバーガーの包装紙を外し、

中身を取り出してみる。


「ふむ……普通のハンバーガーに見えるな」


「む。もしかすると、それを食べると

とんでもなく強くなれるのではないか?」


「然り。だがそのような漫画みたいなことがあろうか?」


魔族Aは怪訝に思いながらも、

ハンバーガーを一口パクリと食べた。


そして――


「ぐ……うぅおぉおおおおおおおおお!?」


「な……何事だ!?」


「まさか……毒か!?」


声を荒げる魔族Aに、

魔族Bと魔族Cが驚愕する。


プルプルと体を震わせた魔族Aが

絞り出すように声を出す。


「う……うまい」


魔族Aの言葉に、魔族BCが肩をこけさせる。


「む。なんだ……驚かすな」


「然り。肝が冷えたぞ」


苦言を言う魔族BCに、

魔族Aが言い訳するように言う。


「いや、しかしこれは絶品だぞ。

お前たちも食べてみると良い」


「む……ふむ。おお、なるほど」


「然り。これは絶品だな」


舌を唸らせる魔族ABC。

だがすぐに魔族らは首をひねる。


「しかし……これでどう被害を減らすと?」



――そして三日後。


「む。そのハンバーガー。

ついに販売を開始したのか?」


「ああ。早速人間にばけて買ってきたのだが……

やはりうまい。絶品だな」


魔族ABが話しているところに、

魔族Cが大量のハンバーガーを抱えて姿を現す。


「然り。これは病みつきになるな。

妙な薬物が入っているのかもしれん」


「バカを言うな。人間だって買っているんだ。

そんなもの入っているものか」


「む。俺もなんだか食べたくなってきたぞ。

その大量のハンバーガーを少し分けてくれ」


「然り。だがそれは無理な相談だ。

自分で買ってくれ」


美味しそうにハンバーガーを

頬張る魔族Cに魔族Bが渋い顔をした。




――そして一週間後。


「お前ら、またハンバーガーか?」


「む。そういうお前もそうではないか」


「然り。みな考えることは同じだな」


ハンバーガーを抱えた魔族らが、

腰を据えてハンバーガーをぱくつき始める。


「しかし……最近こればかりで

人間をひさしく食っていないな」


「む。確かに……この肉を一度口にしては

人間の肉などまずくて食えたものではないからな」


「然り。人間などぱさついてうまくなどない」


魔族らは自分らの言葉に、

ふと顔を見合わせる。


「まさか……このハンバーガーを売れば

被害が減るというのは?」


「む。確かに最近は人間を襲っていない。

襲う意味がないからな」


「然り。舌の肥えた我らに、人間はもうきつい」


ハンバーガーをぱくつきながら、

魔族はなんとも悩ましい顔つきをした。





――そして一ヶ月後


「お……おい! どうしたのだその怪我は」


「む。包帯など巻いて、何があった」


魔族ABの言葉に、魔族Cが苦い顔で答える。


「然り。何かがあったのだ。

人間の子供に、パチンコをぶつけられた。

かなり強烈なヤツでな、肉にめり込んで

パチンコ玉がとれんのだ。」


魔族Cの言葉に、魔族ABがひどく憤慨する。


「なんたることだ! 子供が魔族を舐めるとは!

おのれ! 最近おとなしくしてやれば

調子づきおって!」


「むむ! これは放ってはおけんぞ!

我らはやつらのハンバーガー作戦に

まんまと乗せられているのだ!

ここはひとつ、魔族の恐ろしさを

今一度教えるべきだろう!」


「然り! みんな! これから

村里に下り、奴らを皆殺しにしてくれよう!」


勢い込む魔族C。

だがその言葉に、途端に魔族ABの

意気が消沈する。


「……いや、皆殺しは……な」


「む。それは……な」


「然り? どうしたのだみんな?」


疑問符を浮かべる魔族Cに

魔族ABが躊躇いつつ答える。


「え……だって、このハンバーガーが食べられなくなるし」


「む。そのとおりだ。それはまずいだろう」


「然り!! 何を言っている!

それこそ人間の思惑通りではないか!」


「そう言われても……もし襲うつもりなら

別の者を頼ってくれないか?」


「む。そうだな……お前がそれをするなら

止めることはしない。だが我らがそれをするのはなしだ」


「し……然り……どういうわけか

最近は仲間がうまく捕まらん。

お前たちしか共にしてくれるものは……」


「なら諦めてくれ」


「む。すまない」


この魔族ABの言葉に

魔族Cはひどく不満げに眉をしかめた。




――それから三日後。


「結局、やつは人間を襲うのをやめたのだな」


「む。何も起こっていないということはそうなのだろう」


「これで安心してハンバーガーを食せるな」


「む。だがあれからやつの姿を見かけない。

どこかで拗ねているのだろうか?」


魔族Bの言葉に魔族Aが首をひねる。


「ふむ……そいつだけでなく、

最近は本当に仲間の姿を見かけなくなったな。

これほど美味しいハンバーガーがあるのに

不思議なものだ」


「む。確かに不思議なものだな」


魔族ABは首を傾げつつ、

ハンバーガーを口にした。



――そして一週間後


「おかしいな。誰の姿も見かけん。

せっかく昼食をともにしようと思ったのだが」


魔族Aは周りを見回し、首をひねる。

もとより魔族は群れることはあっても、

連絡を取り合うようなことはない。


なので出会わないときは、

とことん出会うことがない。


魔族Aはそれを考え、

まあいいかと、

一人でハンバーガーをぱくつき始める。


「それにしてもうまい。

本当にうまい。絶品だ」


もう数カ月、人間を口にしていない。

どころか人間を食べたいとも思わない。


まんまと人間の策にのせられたことになるが

魔族Aはもはやそんなこと気にしていなかった。


このハンバーガーが食べられるのなら、

奴らの策に乗るのもいいだろう。


「ふんふん……ん?」


ガリッと何かが口の中でなる。

どうやらハンバーガーの中に

なにか硬質なものが入っていたらしい。


魔族Aはペッと口から、

その異物を吐き出した。


それは――


パチンコの玉だった。


「……どうしてこんなものが……」





瞬間――



魔族Aは人間が仕掛けた本当の策を――


理解した。




そして魔族Aは人間はおろか――


肉そのものを食べられなくなった。

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