第30話 とある人間と魔族のさるかに合戦

これは、とある異世界のお話です。


鉄の剣をもった魔族と、

吸血の魔剣を持った人間とが出会いました。


「やあやあ、人間さん。

さっそくで悪いのですが

ぶち殺して上げましょう」


「やあやあ、魔族さん。

そう焦ることもないでしょう。

おや、そんなことよりも

良い武器をお持ちですね」


「はい。とても鍛え上げられた剣です。

あなたの血を、この剣の錆としてくれましょう」


「いやいや。私の血を剣の錆にするなど

なんともったいない。それよりも、

私の剣を見てはくれませんか?」


「なんと禍々しい魔剣でしょうか?」


「吸血の魔剣です。人や魔族の血を吸うたびに

攻撃力を増していく、それはそれは

たいそう貴重な武器なのですよ」


「それはすごい」


「まだ攻撃力はひのきの棒なみではございますが

鍛えればどのような名刀にも負けませぬ。

そこでどうでしょう? あなたの鉄の剣と

こちらの魔剣、交換してみては?」


「しかし、まだその剣はひのきの棒なのでしょう?」


「いえいえ。すぐにでも強くなりますよ。

そうすればあなたは誰にも負けない、

一番の魔族となるでしょう」


「それは良いですね。わかりました。

この鉄の剣と魔剣を交換いたしましょう」


こうして魔族と人間は、

鉄の剣と魔剣を交換しました。


人間は鍛え上げられた鉄の剣により、

魔族をばったばったと打倒し、

またたく間に有名となりました。


対して、魔剣を手に入れた魔族は

ひのきの棒なみの武器に

人間の子供にすらなかなか勝てません。


しかし魔族はけっして諦めず

人間や動物、時には同族まで

一生懸命に魔剣で切り裂くことで

ついに、世界にただ一つの

最強の魔剣を作り上げました。


そんなある日――


「やあやあ、人間さん。おひさしぶりです」


「やあやあ、魔族さん。聞きましたよ。

その魔剣もそうとう強くなったそうですね」


「はい。もはやその鉄の剣など

ひとふりでへし折れるでしょう。

今度こそ、あなたをぶち殺してあげます」


「まあまあ、そう焦らずに。

それにしても、すばらしい魔剣に

成長したものです。

どうでしょう? その魔剣、

私に少し見せてはもらえませんか」


「この魔剣ですか? そうですね」


「いやですか? わたしに

魔剣を渡すのが怖いのでしょうか?」


「なにをおっしゃいますか、人間さん。

いいでしょう。魔剣をお見せしましょう」


「ありがとうございます。

やあやあ、なんとすばらしい魔剣でしょう

――えい」


「ぐわわわ」


人間に魔剣で切られた魔族は

悲鳴を上げて倒れてしまいます。


「これでわたしは最強の魔剣を手に入れた。

魔族さん、悪く思わないでくださいね」




この噂を聞きつけ、四人の魔族が集まりました。

一人は臼に似た魔族。

一人は蜂に似た魔族。

一人は栗に似た魔族。

一人は牛糞に似た魔族。


「なんとひどいことをする人間なのでしょう。

わたしたちでその人間を懲らしめようではないですか」


「賛成です。魔族の恐ろしさを教えてあげましょう」


「はい――ところで、なんで牛糞が?」


「……」


四人の魔族はさっそく人間の家に行き、

それぞれ隠れだします。


臼の魔族は屋根の上。

蜂の魔族は水桶の中。

栗の魔族は囲炉裏の中。

牛糞の魔族は土間。


そこに、人間が家に帰ってきました。


魔族は胸をドキドキとさせています。


「やあやあ、今日もたくさんの

魔族を意味もなくぶつ切りにしました。

とても清々しい気分ですね」


上機嫌な人間が囲炉裏の前に座り

鉄の棒で灰をかき混ぜ始めました。


次の瞬間――


「ポンポンポンー!」


栗の魔族が人間に弾けて飛びます。


人間は至極冷静に、鉄の棒で

栗の魔族を弾くと、

地面に落ちた魔族を拳で叩き割りました。


「おや? どうして魔族がこんなところに?」


ぐちゃりと潰れた魔族を見て、

人間が怪訝な顔をします。

だがすぐに人間はそんなどうでもいいことは

考えるのをやめてしまいました。


「それにしても喉が乾きましたね。

水でも飲みましょう」


人間が水桶へと近づき、

桶の蓋を取りました。


その時――

「ブーンブーン!」


水桶から蜂の魔族が現れ、

人間にお尻の針を突き刺そうとします。

ですが人間は、持っていた水桶の

蓋を振るい、魔族を叩き潰しました。


「はて? また魔族ですか?」


首をひねる人間ですが、

どうでも良いことと思い

水桶から水をすくい、喉を潤します。


そのついでに、

水桶の水を土間にぶちまけて

土間にいた牛糞の魔族を

洗い流しました。


「ぎぃええええ!」


牛糞の悪魔が悲鳴を上げます。


人間はさすがにおかしいと

思いました。


「これは村長あたりに相談した

ほうが良いかもしれませんね」


人間はそう決断すると、

村長宅に向かおうと家を出ました。


その時――

「潰れてしまえ!」


屋根の上から臼の魔族が落ちてきました。


あわや踏み潰されてしまう。

というところで――


人間は封印されていた魔眼のちからを開放します。


「ぐ!? 何だと!? 貴様、その眼は!?」


魔眼のちからにより、

宙吊りにされた魔族が

表情を強張らせます。


ぎらぎらと血のように赤く染まった魔眼。

それを射抜くように魔族に向け、

人間はほくそ笑みます。


「馬鹿な! 数千万人に一人といわれた

神の力を継承せし魔眼師が

このような辺境の村に!?

そんな……そんなバカなあああああ!」


魔族が悲鳴を上げます。

しかし人間は一切の容赦をしません。


魔眼のちからにより時空を歪め

虚数世界を導き出し、

神の法則を崩壊させ、

ビックバンの力を引き出しました。


「ぐぉおおおおおおおおおお!」


驚天動地。

魔眼のちからは

世界をも巻き込み

その猛威を見せつけます。


空は闇に包まれ

植物はまたたく間に枯れ

衰弱していた生物は息絶えます。


そんなこんなで――


魔族は魔眼のちからにより

チリ一つ残らずに消滅しました。


めでたしめでたし。

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