第25話 とある城のちいさきメダル王

「ちいさきメダルじゃ。ちいさきメダルじゃ」


ちいさきメダルを掲げ、王様がはしゃぐ。


その姿を見ていた従者の青年が、苦笑交じりに言う。


「本当に王様はちいさきメダルが大好きですね」


「うむうむ。この味わい深い色とツヤ。

ずっと見ていても飽きが来ることはないわ」


「ふーん、でもいくら好きでも

同じメダルを何枚も集めなくていいんじゃないですか?

しかも高価な景品と引き換えにしてまで」


王様がコレクションするちいさきメダルは、

旅人が旅の途中で拾ったものを、

高価な景品と交換して集めたものだ。


従者の言葉に、王様は頭を振る。


「そんなことはないぞ。一見して同じように見えて

全てのメダルに微妙な違いがあるのじゃよ」


「そうなんですか。ぼくには分かりませんが」


「ちいさきメダルじゃ。ちいさきメダルじゃ」


また王様が、メダルを掲げてはしゃぎ始める。




――とある日


「こうして眺めているだけでも飽きることはないのう」


メダルをテーブル一杯に並べる王様に、

従者が呆れ口調で言う。


「やっぱり、ぼくには全部同じに見えます。

ちゃんとあとで片付けてくださいね」


「うむうむ。ああ、素晴らしいのう」




――とある日


「何を分けてるんですか? 王様」


「うむ。やはり男女がおなじ箱の中では

心安らげぬと思ってな、別々の箱に

メダルを入れ替えているんじゃよ」


「……男女って、メダルに性別があるんですか?」


「当然じゃろ? ほれ、この丸みがあるのが

女のメダルで、このごついのが男のメダルじゃ」


「……はあ、そうですか。何でもいいんで、

早く終わらせて公務に戻ってくださいね」




――とある日


「ふむふむ。ほうほう」


「何しているんですか? 王様」


「メダルたちと話をしているんじゃよ。

いやあ、皆なかなかに饒舌でのう、

楽しくて仕方ないわい」


「……あの王様。言い難いんですが

……ちょっとやばくないですか?」


「やばいとは?」


「いえ……やっぱり何でもありません」




――とある日


「病めるときも健やかなるときも、

喜びのときも悲しみのときも――」


「ちょちょちょ……何しているんですか!」


「何って? メダル同士の結婚式じゃよ。

いやあ、めでたいのう。二つのメダルが

仲いいことには気付いておったが、

ここまで関係が進展しておるとは――」


「王様! いい加減にしてください!

さすがにメダル好きの度を越してますよ!」


「む? 何のことじゃ」


「だから、メダルにまるで意思があるような

接し方は控えてください! みんな気味悪がってます!」


「そうは言ってものう、このメダル達には

きちんと意志があるゆえ、仕方なかろう」


「ああもう……とにかく少しは自重してください。

これでは公務にも影響が出ますから!」




――とある日


「それじゃあ、僕は出掛けますから、

留守番よろしくお願いしますね。王様」


「うむ。いってらっしゃい」


「またメダルで気味悪いことしないでくださいよ」


「うーむ……しかし彼らも――」


「とにかく大人しくしていてくださいね」


そう念押しして、従者の青年が出掛ける。


王様は早速メダルを取り出すと、

全てのメダルの汚れを拭きとり、

全てのメダルの声を聞き、

全てのメダルに声を掛け、

全てのメダルを愛で始める。


すると――


「ここか! ちいさきメダル王のいる城は!?」


「む? 主は誰かな?」


突然、玉座の間に現れた魔族に、

王様が首を傾げる。


魔族が剣を掲げ、威圧的に声を上げる。


「てめえ、随分と物珍しい武器やら道具やらを

ちいさきメダルと交換しているらしいな!

その高価な物を俺様によこしやがれ!」


「ほうほう。して、ちいさきメダルはどこじゃ?」


「んなもん、あるわけねえだろ!

さっさと道具を出さねえと酷いめにあうぜ!」


魔族がそう哄笑する。


城にいるのは、老人である王様ひとり。


どうやら魔族はこれを機に、王様が所有する珍しい

道具を強奪するつもりらしい。


それを理解した王様は

「ほうほう」と頷きながら――


まったく関係のない話を始める。


「ところで、このちいさきメダルが何なのか

お主は考えたことがあるか?」


「は? 何の話だじじい!」


興奮する魔族を「まあまあ」と

宥めつつ王様が続ける。


「どうして、このようなメダルが存在する?

これが貨幣に使われた記録もなく、記念品として

扱われた記録もない。ではこのメダルは

何のために存在するのかのう?」


「そんなメダルなんぞどうでもいいんだよ!

さっさと出すもん出しやがれ!」


「正解を教えよう。

これはとある者がコレクションのためだけに

生み出したメダルなんじゃよ。

他に用途など何もない。収集するためだけに

このメダルは存在しておる」


「だから――何の話だ!」


地団太を踏む魔族。


だが王様は魔族を気にも留めず、

話を続ける。


「では次の問題じゃ。どうして、

どのメダルも見た目がこれほど似ておるのか?

もちろんわしから見れば、どれも個性的なメダルじゃが

コレクション用のメダルとするならば、

もっと異なる見た目にしたほうが楽しかろう」


「んなもん知るか! いいから――」


「正解はこのメダルにとって

外観はさほど重要ではないからじゃ。


このメダルはその内面――

このメダルに封じ込められた『魂』にこそ意味がある」


この王様の言葉に――


声をがなり上げていた魔族の背筋が、途端に冷えた。


「いいことを教えよう。魔族の者よ。

メダル王は代々、人や魔族をメダルに変える

魔術を用いる。ここにある、ちいさきメダルの全てが――

もと人間であり魔族である、唯一無二のメダルなのじゃよ」


「で……でたらめ……言ってんじゃねえぞ! そ……そんな」


「デタラメか? ならばその身をもって知るがいい。

わがメダル王に宿りし能力――『オシリス神』の力を!」


王様の両眼が赤い光に激しく輝く。


その光に当てられた魔族は――


瞬く間に、ちいさきメダルへと変えられた。





――そして


「ただいま。王様、ちゃんと留守番してましたか?」


「ちいさきメダルじゃ。ちいさきメダルじゃ」


「ああ! なんですか? また新しいメダルが

増えてるじゃないですか! もういい加減にしてくださいよ!」


憤慨する従者に、王様がきょとんと首を傾げる。


「お主、よくこれが新しいメダルだと気付いたのう?」


「え? ああ、そういえばそうですね。なんでしょう。

他のメダルと見た目が同じなんですが、何となく

違うような気がして……」


「そうかそうか。やはり出来立ては生きがいいのかのう」


よく分からないことを話す王様に――


従者は深々と溜息を吐いた。

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