第17話 とある宝箱にひそんだ魔族

とある洞窟に魔族がいた。


「くっくっく。勇者め、目にものを見せてくれるぞ」


だが彼は力のない魔族であった。

勇者に正面から立ち向かったところで勝ち目はない。


「だが俺に抜かりはない。これを見ろ!」


魔族がびしりと指をさす――ちなみに彼は一人きりだ――。

そこには空の宝箱がある。


「ふはははは! 宝箱の中に潜み、

勇者が間抜け面をして開けた時に、

奇襲をかける! 完璧な作戦だ!

因みに俺は、飲食不要で

何日も耐えられる素敵魔族だ!」


大胆な独り言をして、

魔族が宝箱の中に入る。


暗い箱の中で

魔族はほくそ笑む。


「くっくっく。

勇者が来るのが楽しみだ」




――次の日


「さあ、早く来い勇者。

ワクワクが止まらんぞ」




――二日後


「さて、どう脅かしてやろうか。

それともいきなり斬りつけてやろうか。

いやいや、馬鹿面を一度ぐらい見ないとな」



――三日後


「……それにしても遅いな。

まあ、奴にも都合があるからな。

だがこれだけの苦労を俺にさせたんだ。

それなりの覚悟をしてもらおうか」



――五日後


「……まだか? 少し遅すぎないか?

いやいや、世界を旅しているんだ。

これぐらいは普通か?

しかし少し寂しいな……」




――十日後


「……まだ? え? なんか間違えた?

もしかしてこの洞窟、勇者の通り道とは違う?

いやいや、まさかな。きちんと調べたし」




――二十日後


「……も、もう……駄目だ……

場所を移ろう。ああ、それがいい。

もう暗いのも限界だ。寂しくて死にそうだ。

ああ、日の光を浴びたい」


魔族はそう思い、自身が入っている

宝箱の蓋に手を掛ける。


――と


ぐらぐらと大きな地震が起こった。


「わわ!?」


宝箱の外側が、ガンガンと強く叩かれる。

洞窟が崩落しているのだ。


魔族は頭を抱えて、地震が収まるのを待った。


数分後。地震が収まる。


「……やれやれ。冗談じゃない。

洞窟が完全に崩落したらどうしてたんだ」


プリプリと怒り、魔族は改めて

宝箱の蓋に手を掛ける。

強く蓋を押す。だが――


「ん?」


幾ら蓋をおしてもビクともしない。


全力を込めて見るも、やはり蓋は開かない。


「……まさか、さっきの崩落の衝撃で

宝箱が歪んで、蓋が開かなくなった?」


魔物の顔が、さあっと青くなる。





――四十日後


「……一体……どれくらいの時間が経ったんだ。

日の光を浴びたい。誰かと会話をしたい」




――六十日後


「寂しいよう。寂しいよう。寂しいよう。

寂しいよう。寂しいよう。寂しいよう。

寂しいよう。寂しいよう。寂しいよう。

寂しいよう。寂しいよう。寂しいよう」




――百日後


「ポッププリンドコリンダッポ

シュリングパラパラリンゴロウン

ヒプログランセッタランクラホロロ」



――百二十日後


「………………………

…………………………

…………………………

…………………………

………………死のう」


その時、宝箱の外で物音がした。






===================


「へえ、何この洞窟?」


子供の質問に、親父が答える。


「俺の親父の親父のそのまた親父が、

倉庫として使うために造ったんだよ。

ひんやりと冷えていて、食いもんの

保存に便利だろ?」


「確かにひんやりしてるね。

魔族とかはでないの?」


「馬鹿言え。こんなところ

勇者も魔族も見向きもしないよ。

貴重品なんて何もないんだからな」


「まあ、そうか」


「ん? 何だこれ? 洞窟の中が

滅茶苦茶になってんな」


保管していた荷物に、

大きな岩が無数に落ちていた。


親父の疑問に、子供が答える。


「そういえば結構前に地震が

あったからね。そのせいじゃない」


「なるほどな。困ったな。

荷物壊れてなきゃいいけど……ん?」


親父が洞窟の中に

見慣れない宝箱を見つける。


「こんなものあったかな?」


宝箱を開けてみようとするも、

どこか歪んでいるのか蓋を開けることができない。


「おい。バール持ってこい」


「へーい」


子供の持ってきたバールで

親父は宝箱を


――開けた。



――その直後。




「びえええええええええええええ

ええええええええええええええええ

えええええええええええええええ!

怖かったよおおおおおおおお!

心細かったよおおおおおおおお!


うえええええええええええええん!」


涙で顔を濡らした魔族が、

宝箱から飛び出してきて

親父に抱きついた。

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