第15話 とある地面に突き刺さった魔剣
髭面の男が膝を伸ばした瞬間、
髭男が掴んでいた剣の刀身がぽっきりと折れた。
「は……え?」
地面に突き刺さった剣の刀身と、
半ばで折れた剣の柄を、
呆然と見比べる髭面の男。
とその時――
「あああああああああ!」
白髭の老人が現れ、絶叫する。
「貴様、選ばれし者にしか引き抜ける
伝説の魔剣をなんてことしてくれたんじゃ!」
「は……いや」
白髭老人の剣幕に、一瞬怯む髭面男だが
すぐに血管を浮かべ怒声を上げる。
「ふざけんな! 魔剣がこんな簡単に折れるものか!
テメエじじい、インチキしやがったな!
詐欺だ! 参加費を返しやがれ!」
「誰が返すか! 失せろ失せろ!
さもなくば、わしがたたっきるぞ!」
「わっわ、あぶねえから剣を振り回すな!
くそ、二度とこねえからな!」
「来るなバーカ! しっし」
髭面男を追い払う白髭老人。
髭面男が視界から消えるまで
親指を下に向けて怒りをあらわにする白髪老人。
だが髭面男の姿が消えた途端
白髭老人はがっくりと肩を落とした。
「また折れちゃいましたか?」
物陰に隠れて一部始終を見ていた青年が、
肩を落とす白髪老人に話し掛ける。
「もうこんな詐欺まがいなこと止めませんか?」
「む? 何が詐欺なものか」
唇を尖らせる白髪老人に青年が肩をすくめる。
「選ばれし者にしか抜けない魔剣だとか宣伝して、
参加費をくすねることですよ。
この剣を地面に刺したのぼくですし、
抜けないのはセメントを詰めてるからでしょ?」
「これは自分も選ばれし者になれるかもと
夢を見させる事業じゃ。決して詐欺ではない」
「まあ、物は言いようですけど」
「それよりも、次の魔剣候補は持ってきておるのか?」
「ん? ええ、まあ。ここに」
そう言って青年が布に巻かれた剣を持ち出す。
少しだけ布を剥がすと、布に収められた
黒い剣の刀身が覗いた。
剣の刀身の輝きに、思わず白髪老人が息を呑む。
「これは……ものほんの魔剣だったりしないか?
どうにも普通の気配がしないが」
「さあ……ただ拾いものですから、
たいしたことないとは思いますよ。
綺麗だから映えるかと持ってきたんですが」
「拾いものか。ならたいしたことないかもな。
しかし綺麗だのう。もっとよく見せてくれんか?」
青年がぱっと剣を引いて頭を振る。
「あ、直接触らない方がいいですよ。
バッチイですから」
「バッチイ?」
「拾った時に、馬の糞が柄に乗ってたんですよ。
一応洗いはしましたが、汚いんで
ぼくも直接には触ってないんです」
「む……そうか。なら仕方ない。
よし、この剣を早速新しい穴に刺しておくぞ。
あとセメントで固めて、取れないようにする」
「へーい」
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選ばれし者にしか抜けないという
伝説の魔剣。そんな噂を聞き
腕に覚えある魔族が現れる。
「くっくっく、我こそが選ばれし者。
その魔剣とやを引き抜いてくれよう」
人間に化けてその魔剣があるという
封印の場に向かう。
封印の場には、いやに愛想のいい白髪老人がいた。
「はいはいはい。ようこそようこそ。
魔剣引き抜きチャレンジの方ですね」
「うむ。我こそ選ばれしも――」
「参加費用はこちらにお支払いください」
ざるを取り出す白髪老人。
話を途中で遮られ、少々苛立つも
魔族は素直にざるに参加費用を乗せた。
「ささ、こちらが魔剣になります」
白髪老人が指し示した先には、
地面に突き刺さった黒い剣があった。
「ほう……悪くない剣だな」
「さすが選ばれしお方。分かりますか?」
白髪老人が手をこねながら調子よく話す。
「制限時間は三分です。その間に
魔剣を引き抜ければチャレンジ成功です。
道具は一切使ってはいけません。
よろしいですか?」
「むろんだ。早速始めさせてもらう」
魔族が魔剣へと近づき、
その柄を両手で握る。
「それでは、チャレンジスタートです!」
「ふぬうううううううううう!」
全力で引き抜こうとする。その直後――
デロデロデロデロデーロ!
そんな音が頭の中にこだました。
疑問に思う魔族だが、制限時間もあるため
すぐに魔剣を引き抜く方に意識を傾ける。
だが――固い。固すぎる!
まるでセメントか何かで、地面に固定されているようだ。
踏ん張り続けるも、魔剣が抜ける気配は一切ない。
それでも諦めず力を入れ続ける魔族。
だが――
「――はい! 残念。チャレンジ失敗です!」
「ぜえ、ぜえ、ぜえ」
結局、魔剣を引き抜くことはできなかった。
魔族は剣の柄を握りつつ、
訝しげに首を傾げる。
「どうなっている? ただ地面に突き刺さった剣が
こうも抜けないものか?」
「まあ選ばれし者にしか抜けませんからね。
抜ける時はもうスポンと軽く抜けますよ」
「……そういうものか」
「さささ、剣から手をお離しください。
もう一度チャレンジするなら
参加費を払ってからにしてくださいね」
もう一度チャレンジしたところで、
剣が引き抜ける気配はない。
魔族は仕方なく魔剣を諦め
剣の柄から手を離そうとした。
――が
「……あれ? ……ん……んん?」
「どうしましたお客様。
早く剣から手を離してくださいよ」
「……いや」
全身に力を込めて、手を広げようとする。
だがなぜか、剣の柄から手が離れない。
「ど……どうなっている!
剣から手が……離れんぞ!」
「は? いやお客様。おふざけはおやめください」
「これがふざけているように見えるか!
全然全く手が離れんのだ! おい! 何とかしろ!」
「何とかと言われましても……」
困ったように眉をひそめる白髪老人。
するとひょっこりと、
白髪老人の背後に青年が姿を現す。
「あの……もしかしてあの剣、
呪われているんじゃないですか?」
「呪い?」
「ほら、呪われた装備品って、一度装備したら
外せないじゃないですか。だから手が離れなくなったんじゃ」
「……おお。なるほどそういうことか」
ゾクリと背筋が冷える。
そういえば剣を掴んだ直後
奇妙な音が脳内に鳴った。
あれは――
(呪われた時に鳴る効果音だったのか!?)
バタバタと足をばたつかせ、
魔族が絶叫する。
「おい! 冗談じゃないぞ! どうするんだコレ!
まさか俺は一生このままか!」
「……そうなりますな。
わしらは呪いを解くことができんので」
「ふざけるな! 神官を呼べ! 呪いを解け!」
「こんな山奥に無理じゃよ。
それに呪いを解く金が勿体ないわ」
「言ってる場合か! え? マジで!
本当に動けねええええ――」
魔族の言葉を無視して、
白髪老人がのんびりと青年と話す。
「また剣が駄目になってしまった。
次の剣を探さねばな」
「そうですか。まだ続けるんですね」
「っておい! どこへ行く! いや!
置いてかないで! 一人にしないでええ!」
涙ながらに絶叫する魔族だが――
その声が白髪老人と青年に届くことはなかった。
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