第14話 とある終盤に立ち寄る神殿の女王と従者
足元の地面が突然はねて、
体が宙に浮いて天井に頭をぶつける。
その様子を見てケラケラ笑う女王に
従者の女性は激昂した。
「女王様! 悪ふざけはおやめください!」
「だって面白いじゃない」
腹を抱えて笑う女王に、
だんだんと地団太を踏む従者。
「ここは神聖な場所なんです!
変な罠とか勝手に造らないでください!」
「変じゃないわ。これは勇者にいずれ渡す
『光すぎの玉』を守るためのものなんだから」
祭壇に置かれた『光すぎの玉』を
指差して、女王がひょうひょうと言う。
「これはいずれ魔王を倒すときに
必要となるものなんだから
しっかりと守らないといけないわ」
「それはそうですが……こんな罠だらけの
神殿ではろくに歩くことも――きゃあ!」
突然足元にあいた穴に、落下する従者。
咄嗟に縁に手を掛けて難を逃れるも
穴の底に見える先を尖らせた竹やりを見て
従者は顔を蒼白にする。
「魔族の前に、私達が死んでしまいます!
というか勇者だって道具に近づけないじゃないですか!」
「勇者だから、何とかするんじゃない?
噂では彼、頭からヘリコプターみたいなの生えているらしいわ」
「それはあくまで噂です!
罠ばかりで道具を掃除することも
できないんですよ! いい加減にしてください!」
「掃除は私がするわ。
貴方が気にするようなことじゃないのよ」
「女王様にそんな真似を――ぎゃあ!」
突然に巨大な鎌が、頭上すれすれを通過する。
「もう、罠のクオリティが悪ふざけの範疇をこえています!」
「夜なべして作ったから」
「夜なべして作るのは手袋だけにしてください」
「手袋もあるわよ。中に剣山を仕込んだ特別性だけど」
「優しさと狂気のハイブリッド!?」
頭を抱える従者に、女王は肩をすくめる。
「だってこの神殿、誰も尋ねてこないんだもん。
これじゃあ退屈で死んでしまうわ」
「大事な道具を守る神殿です。ほいほいと
来れる場所に作ったらありがたみないでしょ!」
「だからってなんで山に囲まれた場所に作るわけ?
食料の買い出しだけで何日かかると思ってるのよ」
「私に言われましても――」
「とにかく、これは私の唯一の趣味なんだから
止める気はないわよ」
「こんなことばかりしていると、
へたをして『光すぎる玉』を壊しちゃいますよ!」
「そんな馬鹿じゃないもーん。べー」
「女王さ――ふげええ!」
輪っかのついた縄が首にかかり、
従者は頭上へと持ち上げられた。
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深夜の神殿。
そこに魔族の絶叫がこだまする。
「ふごおおおおおおお!」
床が火を噴いて、魔族の体を丸焦げにした。
「にゃああああああ!」
通路の壁から槍が無数に突き出し、魔族を串刺しにした。
「ふごごごごごご!」
密室の部屋に閉じ込められ、魔族を水責めにした。
「ぎひぃいいいいい!」
なんか筋骨隆々の男が登場に、魔族をしこたまに殴ってきた。
――そんなこんなで
魔族はついに『光すぎる玉』の祭壇に辿り着いた。
「ぐへえ……ぐへえ……噂通りの難攻不落の神殿……
しかし俺はついにやった」
魔王を脅かす『光すぎる玉』これを破壊したとあれば
昇進間違いなしだ。
祭壇に登り、『光すぎる玉』に手を伸ばす。
魔族の手が――
『光すぎる玉』を掴んだ。
「やった! ついに『光すぎる玉』を――ん?」
掴んだ『光すぎる玉』が、半分に割れて
地面に転がった。
「……あれ? まだ何もしてないのに――」
「――知ってしまったのね」
ぞくりと背筋が冷える。
ゆっくりと背後を振り返る魔族。
そこには――
禍々しい剣を肩に担いだ
妙齢な女性が立っていた。
「従者の子達にバレないよう……
誰にも触れられないようにしていたのに……
知ってしまったのね」
「あ……ああ……」
禍々しい剣を頭上に掲げる女性。
女性の瞳が怪しく輝く。
「誰にも……勇者にだってこの秘密は
知られるわけにはいかない。
『光すぎる玉』でボウリングをしていて
誤って壊してしまったなんて……
言えるわけがないもの」
「あ……ああああああああああああああ!」
――こうして
『光すぎる玉』は魔族の手から守られる。
――永遠に
――永遠に
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