第4話 とある見習い神官

「それじゃあ今日は、神官としてもっとも大事な神の御業を教えるわね」


「お願いしますう」


元気よく手を挙げる、神官見習いの少女。


「では早速だけど、こちらに先日拾った活きのいい死体があるわ。

野盗に襲われたのか、全身を切り刻まれているでしょ?」


「はいぃ。傷跡からピンクの筋肉が覗いていますねえ。

活きが良いのが分かりますう。お肉屋さんに卸せそうですねえ」


「小遣い稼ぎをしては駄目よ。今日はこの死体を

生き返らせる技を見せるからね」


熟練の神官がこめかみに血管を浮き上がらせ

絶叫を上げる。


「きぃえええええええええええ!」


すると全身を切り刻まれていた青年が

傷跡をそのままにむくりと起き上がった。


少女がぱちぱちを手を鳴らす


「すごいですう。本当に生き返るんですねえ」


「はあ……ぜえ……ぞ……ぞうね……

傷跡は残るけど……あとで回復呪文で直せばいいわ」


膝をがくがく揺らしながら、

熟練の神官が少女に頷く。


「やり方はわかったわね。それじゃあ……

ちょ、ストップ! ストップ!」


「へ?」


いやに禍々しい巨大な剣を振り上げた少女に、

熟練の神官が慌てて手を振る。


「何をするつもりなの?」


「何って……あたしもその技を練習しないとですう。

だから新しい死体を用意しないと……」


そう話して、生き返ったばかりの青年を

見つめる少女。その微笑みは朗らかでありながら

隠しようのない狂気が覗いている。


「いけません。神はどのような理由があろうと

人を殺めることをお許しにはなりませんよ」


「でもでも、すぐに生き返らせますよお?

ほら、生き返ったばかりでこの人もぼうっとしているし

今がチャンスですう。大丈夫。あたし

痛みなく殺る方法を心得ていますからあ」


「ダメなものはダメです」


「じゃあ、新しい死体をくださいよお。

練習できないじゃないですかあ」


「そんなホイホイと死体なんて手にはいりませんよ。

これからこの人形を使って練習しますから」


人間大の人形をとりだす熟練神官に

少女がぷうと頬をふくらませる。


「それじゃあ、生き返りませんよお。

練習にならないですう」


「仕方ないでしょ。今度また死体が手に入ったら

あなたに練習させますから、今日はこれで我慢なさい」


「……分かりましたあ」


不承不承、頷く少女。だが少女は納得しながらも、

手にしていた禍々しい剣の柄を強く握りしめる。


(早く一人前になって、勇者様の役に立たないと)


だが人を練習台にはしてはいけないらしい。

つまり――


(人じゃなきゃ良いんですよねえ?)



======================


とある洞穴。その奥にある間に

大量の魔族が集っていた。


その数――五十匹。


魔族らの先頭に立つ一匹の魔族が

声を上げる。


「よくぞ集ってくれた同士たちよ。

勇者がこの近くを旅していることは

君たちも知っているだろう。

今こそ我々の力を合わせ、

やつに目にものを見せてくれようではないか!」


「おおおおおおおおおおおお!」


「これだけの数が集まれば、

いかに勇者といえどひとたまりもあるまい。

今日よりこの世界は、我々魔族のものとなるのだ!」


「おおおおおおおおおおおお!」


集った魔族らが上げる気合の入った声に、

主導的立場の魔族は満足そうに頷く。


「では、いざいかん! 勇者の――」


「た……大変です!」


通路から一匹の慌てた魔族が現れる。


「敵襲です! 敵は入り口にいた五匹の魔族を屠り

こちらに向かっております!」


「何だと! まさか勇者がこの場所を嗅ぎつけたか!?」


おののく魔族。だが襲撃を伝えに来た魔族が

「勇者ではありません」と首を振る。


「敵は女です! どうやら神官の――ぐはっ」


話の途中で、魔族の胴体が両断される。

倒れた魔族の背後に――


神官の少女が立っていた。


「うわあ。これだけいれば練習にはことかかないですねえ」


「なななな……何者だ貴様!」


「心配しなくていいですよお」


少女は禍々しい剣を構え、ニコリと微笑んだ。


「殺してもすぐに――生き返らせてあげますからねえ」




それからしばらくして、

早々に生き返らせる呪文を会得した少女は

立派な神官として一人立ちしたという。

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