第3話 とある武器屋の店主と下っ端

「おう、ついに手に入れたぞ。伝説級の武器をな」


「やりましたねオヤッサン」


「なにせ勇者様が近くにいるってからな、

こんぐらいんもんは仕入れとかんといかん」


「しかしこんな田舎村の武器屋に

よくそんな伝説級の武器がおろせましたね?」


「うん……まあ、あれだ。色々あってな。

一応念のため、今から一ヶ月ほどは新聞とかに目は通すなよ。

仮に見るにしても、野盗とかの記事は無視しろ。いいな」


「よくわかりませんが、わかりました。

しかしその……剣? ですか。どういった武器なんです」


「聖なる力とかなんとか……そういったものを持っているらしい」


「あやふやっすね。まさか偽物じゃないでしょうね?」


「バカいえ。さっき近くの魔族を狩って、その威力は確認済みでい」


「ならいいですけど」


「あとな、これには戦闘でものすごく役立つ、能力も秘めてんだよ」


「なんです? それ」


「それは……おっと、お客さんだ。やや……あれは勇者様じゃねえか?」


「本当です? 随分と都合よく来ましたね」


「近隣の村に、この武器屋で伝説の武器が買えるって噂を流しといたからな。

おら接客だ接客。なんとしてもこの武器を売っぱらうぞ」



========================ー


営業スマイルを浮かべた武器屋の店主を見て、

勇者に?化した魔族は内心でほくそ笑んだ。


(くくく、下等な人間め。まんまと騙されてやがる)


この武器屋に、伝説級の武器が卸されたと噂を聞き、

上司の命により、彼はその武器を奪うために来ていた。


(襲ってしまえば手っ取り早いがな……あまり騒ぎ立てして

勇者に感づかれてもまずい)


魔族はそう思いつつ、耳につけられたピアスに意識を向ける。


(兄さんは頑張って仕事をして、上司に認められて偉くなるからな。

見ていてくれよ、最愛の妹よ)


唯一の家族である妹とおそろいのピアス。

下っ端魔族として苦労ばかりかけてきたが、

この仕事が成功すれば妹を少しでも楽にさせることができる。


武器屋の店主が早速、一振りの武器を取り出した。


「どうですか? この美しい刀身は。この武器があれば

どのような魔族もイチコロですぞ」


そう話す店主に適当な愛想笑いを浮かべつつ、

魔族は心内で首を傾げる。


(まいったな……俺に武器の良し悪しなどわからん……

これが噂に聞く伝説の武器なのか?)


懐疑的なこちらの気配に気づいたのか、店主が慌てて売り文句を重ねてくる。


「この武器は聖なる力を秘めていましてね。

この武器はアンデッド系の魔族には特に有効ですよ。

つい先程、試し斬りをしてきたのでね間違いありません」


店主のこの言葉に、魔族の背筋がぞくりと冷える。

彼はまさにアンデッド系であり、この近辺を根城にする魔族だからだ。


「……試し斬り? あの……差し支えなければ

どの辺りの魔族で試されたのですか?」


店主が指差した方角は、まさに彼と彼の妹が住んでいる地域だった。

一抹の不安がよぎる。


「もしかして……その魔族の中に、こんなピアスをしている魔族はいませんでした?」


「ピアス……ああ、いましたな。魔族の分際で高価なものをつけていましたから

成敗した後に頂戴したので、よく覚えていますよ。はっはっは」


瞬間、魔族は頭の中が真っ白になった。


微笑む妹の姿が、脳裏に浮かんでくる。


「人間との戦いが終わったら……あたしね、結婚するの」


そう笑っていた妹。

今考えればあれはどう考えても――死亡フラグだった。



――殺す!


殺意をたぎらせる魔族。

目の前の勇者がそんなことを考えているとは露知らず、

店主が武器の宣伝をさらに続けた。


「あ……それにこの武器はね、もう一つ能力がありましてね。

見ててください……ほい」


気楽な調子で、店主が剣をかざしてくる。

剣がキラキラと輝き、魔族の体を光に包み込んだ。


その直後――


魔族は血を吐き出し、バタリと倒れる。


(な……これは……攻撃された? まさかこいつら……

俺の正体に気づいていたのか)


困惑する魔族。だがその魔族以上に困惑した様子で

店主と若い男性の話す声が聞こえる。


「ちょ……オヤッサン。勇者様たおれちまったじゃねえですか!

一体何をしたんですか?」


「な……何って、この武器の特殊能力を使っただけだが……」


「特殊? それってなんです?」


「ただの回復魔法だよ。一振りでどんな怪我もたちまち治るっていう」


回復魔法。

それはアンデッド系の魔族にとって、

強烈な毒となる。


「ただの回復魔法で勇者様がこんなことになるわけないでしょ。

きっとそれ偽物ですよ」


「そうか……くそ、危険な橋をせっかく渡って手に入れたってのに」


「もう……それでオヤッサン。勇者様はどうします?」


かすれてゆく意識。ピクリとも動かなくなった魔族を見下ろし

店主とポツリという。


「とりあえず……埋めるか」


「……ですね」


あっさりと店主に同意する若い男。


そんな二人を見て、魔族は死に際に思う。


――人間って怖い

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