第6話
事情を話してからの坂本は、何かと私を気づかってくれて、人にそんなふうに扱われるのがこんなに気持ちがいいものなのだと初めて知った。言葉で意識したわけではないが、その旨味を存分に啜っている自分がいた。
緒方もそれとなく新田に警戒の目を向けてるような感じで、まさに二人のボディガードに挟まれたどこかの令嬢のような気分だった。
事情を知ってる人が見たら、あまりにあからさまな状況を滑稽に感じただろう。常に私は二人にエスコートされていて、新田が私に近づく隙がないくらいだった。
写真をみんなで撮るとなれば、二人が私を挟んで立つので、必然的に新田が写す係になってしまう。緒方が撮影係を交代すると、坂本がすかさず新田と私の間に立つような形を取る。今にしてみると、そこまでしなくても……と思わないでもないくらいだ。
そして、そんな状況に気づいてないとでもいうように、新田はイヤな顔一つせず、楽しそうにしていた。
ある時、次にどこに行くかという話し合いの際に、意見が分かれたことがあった。私は自動的に坂本について行くことにしていたのだけど、緒方もこちらに同行したいと言った。
道中、私たちは新田のことを話題にしながら、男女関係について知ったようなことを話していたものだった。
一方、一人で別のスポットへ行った新田は、夕方合流すると、見てきたことを快くみんなに話してくれた。そんな姿を見ていると、少し不憫に思わないでもなかった。
実は、坂本と私は研究室では犬猿の仲と言われていたのだった。
二人の間にわだかまりがあると皆に思われるに至ったきっかけは、私たちが研究室に入ってきた時の歓迎会にあった。坂本が幹事をつとめてくれたのだが、貧乏学生だった私は会費が高いことに不満を漏らし、それが本人に伝わってしまったのだ。
とは言え、口をきかないほどではなく、ただお互いに何かを言えば周りが面白おかしく取り沙汰するので、何となく犬猿の仲っぽく振る舞っていたというだけなのだ。
というわけで、私たちがいっしょに旅行するとなって、「あの二人がいっしょで大丈夫か!?」と心配こそすれ、まさか、こんなふうに守り守られる間柄になるとは、誰も予想しなかった。もちろん本人たちも。
ましてや新田は、私と坂本が不協和音を発したら、それをなんとか取り持つ役割として見られていたはずだった。
***
『スノースマイル』に戻ろう。
そんなこんなで私たちのギリシャの旅程が終わり、緒方はそのまま一、二日ギリシャに残ると言うので、私はボディガードの一人と別れることになってしまった。
これが、かなりさびしかったのだ。何と言っても、俳優ばりのいい男だった。いや、顔じゃない。爽やかで、大人っぽくて、泰然としていて、何かに付けて
そんな男に守られるなんて、人生初だった。私は、いつの間にか惚れていたのだろう。
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