第4話

「だいたい、なんで私? いいとこなんて、ないじゃん」

「そうだね、北沢さん、ワガママだよね」

 カチンと来た。だったら、なんでどうこうなりたいとか思うわけ?

「でもさ、そういうところもいいんだよね」

 変わったヤツだ。


 そんな会話をなんとかつつ、一方で私は自分の大胆さを呪っていた。自業自得だ。そもそも、こんな旅行にノコノコついて来たのが間違いだ。友だちが心配してくれた通りになったのだ。


 そして、ほどなく坂本とその友人が帰ってきて、私はやっと恐怖から解放された。

 翌朝は、前泊など必要なかったかと思うほど晴れ渡り、新田もまた、ケロッとしていた。


——昨夜のアレは何だったのか。


 私だけが言いようのない複雑な気持ちを抱えたまま、坂本の友人に見送られて成田を発った。


***


 最初の観光地はギリシャだった。

 そこに着くまでに、まずはロシアの某地でトランジットを経ることになっている。これはあらかじめ予約を入れていくので、新田と坂本で一部屋、そして私は一人で別に一部屋というふうに割り振られていた。一人でホテルに泊まるのは初めてだった。しかも、それが外国だなんて、信じられなかった。


 翌朝、今度はブルガリアのソフィアで、燃料補給のためなのかいったん降ろされ、そのあと一気にアテネへと向かうことになっていた。この時、じゃんけんによって、私と新田が二人で並んで座ることになってしまった。坂本は、別の列の座席に一人で座った。

 だけど、新田はを一言も口にせず、ただいつもとは別人のようにやさしく、妙に親しげに話してくるだけだった。その中途半端さが、ますます私を居心地の悪い気分にさせた。


 一方の坂本は、たまたま隣り合った席の、これまた大学四年だという緒方という男と仲良くなっていた。彼は一人旅で、やはりまずギリシャを回るという。そこで、日程が許す限りは四人で行動しようということになった。


 私はほとんど旅程に関してはお任せで、まったく口も出さないかわりに、全部やってもらうというお気楽なスタンスだった。だから、誰が同行しようと文句はなかったし、緒方はスラッと背の高い、まるで俳優のような顔立ちをした、そこそこいい男だった。文句のありようもない。


 こうして、男三人、女一人という四人の、ますますチグハグな旅行が始まった。


***


 彼らの計画は、おそらくわざとそうしていたのだろうけど、泊まるところは行き当たりばったりで決める、というものだった。時間いっぱい観光して、夕方くらいに近くの手ごろな宿泊施設と交渉する。英語力を試してみたいというような冒険心もあったようだ。


 それは緒方も同じで、まったく宿などの予約はせずに乗り込んできたという。

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