第4話


「一体、何の騒ぎだい?」


 騒ぎを聞きつけてオーナーの怜も厨房にやってきた。


 股間を両手で押さえながら床で転げまわっている昌彰に視線を向け、ハッと口元を手で覆う。


「ごめん……。君達のプレイの邪魔をしてしまったみたいだね……」


 寂し気に立ち去ろうとする怜を、彰人は慌てて引き止めた。


「待ってください、オーナー!誤解です!」


 彰人は手早くわけを説明した。


「なるほど、そういうわけだったのか」


 怜は納得して頷き、再度昌彰に視線を戻した。


「で、昌彰さん。一体何があったんですか?」


 昌彰はまだ床の上で悶えている。話ができるようになるまでもうしばらく時間が掛かりそうだ。


「たぶん、誰かに殴られて気を失っていたんじゃないでしょうかね」


 彰人はポケットから予告状を取り出し、他の三人に見せた。


「おそらく、この予告状を俺の部屋のドアに張り付けた者が犯人でしょう」


 瞬間、怜が表情を強張らせた。


「そのメモ…僕が書いたものじゃないか…!」


「……え?」


 全員の視線が、一斉に怜へと向けられる。

 

「あっ…いや―――そういうことじゃなくて…」


 怜は両手を振りながら慌てて付け加えた。


「僕が書いたのは、その一行目の文章だけだよ」


 と、“今夜10時”の一文を指差す。


 確かによくよく見て見れば、一行目と二行目は筆跡がやや異なるように思えた。


「だけど…“今夜10時”ってどういう意味です?」


「え?やだなぁ彰人くん…♡」


 怜が顔を赤らめ、身をくねらせる。


「昼間食堂で……僕の部屋で会おうって約束したじゃないか」


(いや…会おうと約束した覚えはないのだが…)


「部屋番号はミカンに書いて教えたけど、時間については話してなかっただろう?だから手紙を書いて、佳月に届けさせたんだ。僕から直接君に伝えてもよかったんだけど、なんだか恥ずかしくてね…。ほら、僕って俗に言う“二度見知り”ってやつでさ…。初対面の時は普通に話せるんだけど、二度目は緊張しちゃうっていうかさ……アハッ♡」


(“アハッ♡”って…)


「だけど十時になっても君が部屋に来てくれないからさ…心配になって君の部屋に行ってみたんだ」


「……もしかして、さっき俺の部屋のドアをノックしまくってたのって…」


「うん、僕だよ★」


 彰人はため息をつき、予告状の二行目に視線を落とした。


「じゃあ、こっちの“ダレカガシヌ”って文章は、誰かが付け加えたってことか。だけど一体誰が…」


「私よ」


 佳月はあっさりと白状した。


「だって雪山のペンションと言えば殺人事件の定番シチュエーションでしょう?予告状があればもっと面白くなるかと思って」


 彰人はまたもため息をついた。


「まぁ、取り合えず予告状の件は解決したからいいか。問題は――――」


 と、昌彰の方に視線を転じる。


「誰が昌彰さんを襲ったか、だな」


「それは直接本人に聞けばいい話だろう」


 恭也はニヤリと笑みを覗かせ、震棒を握りしめたままゆっくりと昌彰に歩み寄っていった。


「おい、いつまでも悶えてないでさっさと犯人教えろよ」


「……う…」


 昌彰が答えないので、恭也は再び震棒を彼の股間に当てた。


「おら!さっさと吐けよ!」


「うぎゃああああ!」


 昌彰は意識を手放した。


 場内はしばし沈黙に包まれる。


「仕方ない。ここは彰人くんの名推理に任せよう」


 ポンと彰人の肩に手を置く怜。


「そうね。そろそろ解決してもらわないと、読者の方をイラつかせてしまうわ」

 

「無駄な前置きなしで、簡潔にわかりやすくな」


 佳月と恭也も丸投げした。


 止む無く彰人は口を開いた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る