第3話

***




 ドンドンドンドン!


 ドンドンドンドン!


 激しいノックの音で彰人は目を覚ました。


 きっと昌彰に違いないと思い、両目をギュッと閉じて彼が立ち去るのをひたすら待った。


 ほどなくしてノックは鳴り止んだが、彰人は不安で仕方がなかった。


 ゴクリと生唾を飲み込み、恐る恐るドアの覗き穴から外の様子を確認してみる。


 誰もいない。


 念には念を入れ、ドアを開けて廊下も見回してみる。


 やはり昌彰の姿は見当たらない。


 どうやら諦めて部屋に戻ってくれたようだ。


 が、ホッと胸を撫でおろした矢先――――


 一階の方から、悲鳴のようなものが聞こえてきた。


(な…なんだ…?!)


 彰人は部屋を飛び出し、一階に向かって階段を駆け下りた。


 こじんまりとしたロビー兼談話室。客やスタッフの姿は見当たらない。


 壁にかけてある時計の針は十時十分を指していた。


(まさか…)


 昼間の殺人予告の手紙が脳裏を過る。


 彰人はロビーの奥にある食堂に視線を向けた。

 なんとなく、あの辺から嫌な気配が漂ってくるような気がしたのだ。


(本当に殺人事件が?いや、そんな馬鹿な…)


 彰人は首を振り、恐怖四割、興味六割の面持ちで食堂へ向かった。



 薄暗い食堂の中をスマホのライトで照らしながら、慎重に歩を進めていく。


「誰もいないみたいだな…」


 が、油断したその時――――



 ――――ズルリ!


 ――――ドッテーン!



「うわっ!!」


 彰人は床に落ちていた何かに足を滑らせて転倒した。


「一体なんなんだ?」


 スマホのライトで床を確認してみると、そこにはミカンの皮が落ちていた。


「は……?」


 彰人はわけがわからないままミカンの皮を見つめた。


 ちょうどその時、食堂の明かりがパッと灯った。


「おいおい…」


「あらあら…」


 背後から冷笑混じりの声。


「コメディなんだからバナナの皮で盛大にコケろよ」


「ミカンの皮なんて絵にならないわ」

  

 緊縛師の恭也と媚薬師の佳月だった。


 彰人はわなわなと唇を震わせた。


「せっかくのシリアスな場面を乱すなよ!」


「さて、さっきの悲鳴の出どころを探ろうか」


「そうね。まずは厨房を覗いてみましょう」


 二人は彰人のツッコミを華麗にスルーし、厨房の中へと入っていった。


「あ、ちょっ…待てよ!主人公は俺だぞ!」


 彰人も慌てて二人に続く。


 が、厨房に一歩足を踏み入れた瞬間――――彰人はその場に凍り付いた。


 業務用冷蔵庫の前に、眼鏡をかけた男が仰向けに倒れていたのである。


 それは見紛うことなく昌彰であった。


「なんてことだ……本当に予告状通りになるなんて…」


「まだ死んでるとは限らないだろう」


 恭也はどこからともなくシリコン製の棒を取り出し、その先端を昌彰の股間にあてがった。


 カチッと電源を入れる音と共に、棒が激しく振動する。


 と、次の瞬間――――


「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 昌彰が絶叫しながら飛び起きた。


 どうやら気を失っていただけのようである。


「残念。死体じゃなかったのね」


 佳月がぼそりと呟いた。



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