第2話


 食事(?)を終え、彰人はふらふらと二階へ戻っていった。

 

 が、部屋の前で彼はハッと息を呑んだ。


「な…なんだコレは…?」


 ドアの前に、四つ折りにされた紙がテープで張り付けられていたのである。


 不審に思いながらも紙を剥がして中身を改めてみると、流麗な文字で、こう書かれていた。



〈今夜10時  


 ダレカガシヌ・・・〉

 

 

 彰人は紙から顔を上げ、素早く周りを確認した。

 誰もいないかと思いきや、背後に男が立っていた。

 

 先ほど廊下でぶつかった、あのメイド喫茶中毒の男であった。


「うわっ!」


 彰人はギョッとして飛び退すさった。背中がドアにぶつかり、持っていた紙がハラリと床に落ちる。


「すまない。驚かすつもりはなかったのだが…」


 男は紙を拾い上げ、サッと中身に目を通した。


「殺害予告…?ふん…馬鹿馬鹿しい」

 

 眼鏡のブリッジを押し上げ、ふっと笑みを溢す。


「こんなものはただの悪戯だ。殺人なんて起こるわけないだろう」


 男は朗らかに笑い、彰人の肩にポンと手を置いた。


「ああ、そういえば自己紹介を忘れていた。私は昌彰マサアキだ」


「彰人です」


「よろしく、彰人くん。それと、君に一つ聞きたいことがあるんだが…」


 昌彰は言葉を切り、鋭い眼差しを彰人に向けた。


「さっき私の財布を盗んだだろう?」


「……。さ、さぁ?知りませんね…」


 一応しらを切ってみせたが、無駄だった。


「いいかね、彰人くん。あのキャンディーは押しメイドの【ひまりん】からもらった命よりも大切なものなんだ。後で必ず返しなさい」


「は…はい」


「言っておくが、私は財布の中のキャンディーの個数をキチンと把握しているからね。もしキャンディーが一つでも減っていようものなら――――」


 昌彰は彰人に詰め寄り、壁ドンならぬドアドンをした。


「……貴様を、二度とお天道様を拝めない場所に沈めてやろう」


 それだけ言って、昌彰は去っていった。


 “これはまずい”と彰人は思った。


 GU○CIの財布は部屋に保管してあるが、中身の飴とポイントカードは廊下に設置してあるごみ箱に捨ててしまったのだ。


 ゴミ箱を漁るのは気が引けるが、このままではあの殺害予告が現実になってしまう。


 止む無く彰人は踵を返した。



 だが、彼の不運はさらに続く。


 なんと、すでにゴミの袋は回収されたあとだったのだ。


「人生終わった……」


 彰人はとぼとぼと部屋に引き返した。


「こうなったら朝まで部屋に閉じこもって、明日朝イチでチェックアウトするしかないな…」


 つまり、バレる前にさっさとズラかることにしたのである。


 彰人はさっそく荷物をまとめ、明日に備えて早く就寝することにした。

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