家を出る
有機 凛太
第1話
小さい頃から親の思い通りにならないと、意味のわからないことで怒鳴られ泣かれ死ぬって脅され時には殴られた。
でも彼女らに自覚はないから、私にも周りにも愛してるって宝物なんだって言う。
それが中学上がるまで続いて、やっと自分のことを考えるってことを初めて経験した私は不登校になった。
そんな私に手を焼いている、私がだめだったのか、愛しているのに、苦しいと周りに嘆く母。
一斉に悪者にされる私。
母をいたわれ、あんな子、って大人からも子供からも。会う人会う人に言われた。
私が大人や先生に相談しても被害妄想だとか、何も言わず放置、だとか。
私にまともに向き合ってくれた人はいなかった。
中学3年まで、ネットに入り浸ってひたすら閉じこもった。
イラストで賞をとっても、高校入試に受かっても父から褒められることは無かった。
母からは完全に腫れ物扱い。
私が悪いのか私が弱いのがいけないんだ、とひたすら自分を責める毎日だった。
そんな今までだからか、私は自己肯定感や自分を労ることが全く無かった。
自分を大切にしない私を見て、大人達はさらに私を煙たがった。
高校に入って、今の彼氏と出会った。
今までネットや現実で出会った人とは違い、考えをぶつけてくれる人だった。
ただ、そこで幸せを、普通を知ってしまった。
今までの生活、人生が不幸で普通じゃないことを知ってしまった。
苦しかった。社会に出ると、あの幸せは普通なのだと、あの普通にすら私は手が届かないんだと。
高校2年生。まだ1年あるのに、私は幸せを知った私は、この家でまた今までのような思いで過ごすことなど無理だった。
苦しかった。無知は罪、でも知らぬが仏。
普通を知らず親に尽くすのが普通だった小学生の頃の私が何万倍もいいように見えた。
与えられる幸せに恐怖しながら、これは何だと手に取り、その温かさに感嘆し、しかしそれは私の生活のほんの一瞬でしかない。
苦しい家での生活と、幸せという温かさに触れる一瞬の時間、そのギャップが苦しかった。
そのギャップを埋め、その幸せを生かすというのが、とても難しかった。
その幸せを理解し、抱きしめることすら難しかった。
それが彼に申し訳なかった、自分の無知さ、異常さに嫌気がさすことも多かった。
無自覚で虐待をする母と、無自覚でストレスを吐く父。トラウマと精神障害を私に与えた両親。
母に愛してると言われ、死ぬと言われ、これがどれほど残酷なものか。
時々母に愛され、ほんの一瞬向けられる笑顔が、どれほど私を舞い上がらせたか。
どれほどそれで幸せを感じたか。
無償の愛は子供から親へ与えられる。
でも、それをもっと寄越せと言うのは、どれほど傲慢で怠惰なのか。
私は強く生きる。
これは両親のおかげだ。
でも胸を張ってこの人は私の両親だと言える人でも人生でもない。
復讐に生きる人生ほど、醜く苦しく暗いものは無い。
だから私は明るくいい笑顔で両親にさよならを言うつもりだ。
強い私になるために。
小中学生の私を救うために。
もうこれ以上、自分が壊れないために、自分が廃れないために、私は家を出る。
学歴や青春を捨て、家を出ます。
家を出る 有機 凛太 @yuki_yakedo_
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