第36話 始まりの地

 魔王との接触から1ヶ月が経過した。人類は来たるべき日に備え着々と準備を整えている。記憶について特に進展はないが、変わらず毎日夢を見ている。レオフェンの事、日本の事、既に知っている内容も増えてきた感じだ。


 ライリとの魔法開発は一進一退を繰り返している。まだ11ヶ月もあると考えるべきか、もう11ヶ月しか無いと考えるべきかで精神状態が随分変わってくる。


「やっぱり根本的に考え直すべきなのですかね……」


 僕たちは大きな質量を作り出し、その質量を打ち消す方法を模索している。


「まだ全通り試してないわ、あんたは諦めが早いのよ」


「そうですね……」


「それにね、失敗に思える事からも、閃きは生まれるのよ!」


「…………」


「なによ?」


「ちょっと感激しちゃいました……」


「え」


「ライリの言う通りですよ! やっぱりライリに頼んだのは正解でしたね!」


「バカ、まだ結果も出てないのに評価は要らないわよ」


 英雄の僕に最初は遠慮がちだったライリも、最近は容赦が無い。


 一貫性の無い僕の考えに、ライリがいつも道を示してくれる。エレメントが見えるってだけではなく、魔法開発の適任者はやっぱりライリだったと思う。


「今日はこの辺にしといてあげるわ」


「分かりました」


「まだ試したいことも沢山あるけど、根本的な考えをもう1パターン用意するのも悪く無いわね」


「そうですね!」


「私も考えてくるから、あんたも考えて来なさいよ」


「はい!」


 僕はライリは天才肌かと思っていたが、実際の彼女はかなりの努力家だ。しかも切り替えが早く、結果までに掛かる時間も短い。地頭の良さと言うのだろうか……僕は彼女のことを凄く尊敬している。


 ——ライリと一緒に寮に戻った。流石に彼女は相部屋ではない。


「ただいまー」


『『おかえり』』


 今日は僕が1番遅かったみたいで、リビングに皆んな集まっていた。


「進捗はどう?」


「いやぁーなかなですよ……でもライリきっちり軌道修正してくれるので、まだ手詰まり感は無いですよ」


「彼女は優秀よね、普段の授業でもすごいわ」


「そんなに優秀なのか?」


「学園1って言っても過言じゃないわ、ジュリと模擬戦したら、ものすごく強くなると思うわ」


「あ、それは僕も思います」


「出る杭は打つ」

 ジュリはどんな時もブレない。


「打ったらダメです!」


「冗談は抜きにして近々お願いするかも?」


「任せて、アルの仕留め方伝授する」


「しなくていいです!」


「アルは既に射止められてるけどね」


「え」


 そんな感じでライリの話でひと盛り上がりした。色んな意味でライリの評価は高かった。


 ——「ユイリ、次の目的地はエスクワイヤーにします」


「エスクワイヤー?……別に構いませんが、何故あんな何もないところに?」


「大地のヘソでも見に行くの?」


 エスクワイヤーは『大地のヘソ』と呼ばれるクレーターが存在するだけの荒地だ。


「いえ、ウルドの調査で、エスクワイヤーが原初の地だと教えてもらえたので」


『『原初の地』』


「大地のヘソはクロノスがこの地に降り立った時に出来たのかも?とのことです」


「へ————っそれは期待できそうね」


 クロノスの件に関してはジニーとジュリにも話した。


 もともと隠すつもりもなかったし、ある意味ユイリやレイラよりも鋭い2人に、隠し通せるとも思っていなかった。主神とノルンの件については、まだ伏せたままだ。本人達が全く自覚できない間は、混乱しか生まないので、伏せておくつもりだ。


「明日は早めの出発でもいいですか?」


「私は構いません」


「じゃそれでお願いします」


 僕は明日に備え早めの食事と睡眠をとった。しかし、なかなか寝付けずにいた。それは何か予感めいたものがあったからだ。エスクワイヤーはこれまでの候補地とは何か違う。明日は何かしらの変化があると確信している。


(こんなに高ぶっているのは初めてだ……エスクワイヤーには絶対なにかあるはずだ……)


(ユイリはどう感じているんだろう? もしかしてユイリも僕と同じように感じているんじゃないだろうか?)


(ま、明日、聞こう)


 そんなことを考えている間に僕は眠りについた。




 ——(レイアここが我らの新たな世界だ)


(見事に何も無いですね)


(これから我らで繁栄させるのだ)


(はい)


(この世界の名はレオフェン、そしてここはエスクワイヤーと呼ぶことにする)


(ここからが始まるですね)


(楽しみだな)




 こんな夢をみたんだ予感的中だろう……エスクワイヤーに行くまでもなく、主神の名前がわかってしまった。でも現地につくまで、ユイリには内緒にしておこう。


 僕とユイリの旅は、基本空の旅だ。最初は僕が空を飛べることにも、そんな僕に抱きかかえられ自分が空を飛ぶことにも面食らっていたユイリだが、最近は慣れたもので楽しんでくれているようだ。


「アル……私、昨日の夜は感情が高ぶって、なかなか寝つけませんでした」


「あ、僕も同じです!」


「やはり、アルもでしたか、なんとなくそんな予感がしていました」


「私はエスクワイヤーは今までと違うと感じています」


「はい」


「エスクワイヤーが原初の地だと知ってから、心がずっと動いている感じです」


「僕もです」


 ——僕たちは、エスクワイヤーに降り立った。


「アル……やはり何か感じます」


「ですね」


「神威を使っていただけませんか?」


「了解です」


 僕は『神威』を使った。すると『神威』の光が何故か2人を包み込んだ。


「「…………」」


「アル……感じましたか?」


「うん、感じました……これは」

 

 人の意思? 神の意思? 人の記憶? 神の記憶? 形容しがたい様々なビジョンが物凄い勢いで僕の中に入ってくる。


「ユイリ、見てください」


 『神威』を使ったことで、今まで見えなかった、数え切れないほどの光の糸が見えた。


「綺麗……」


 とても幻想的な光景だった。


 大地のヘソと呼ばれるこの場所は、レオフェンと、生きとし生ける、全てのものを繋ぐ場所なのかもしれない。



 そしてその中には、僕たちの想い、記憶もあった。



「クロノス……やっと会えました……」


「レイア……」


「やはり、あなたが『異界の天使』から私を解放してくれたのですね」


「ああ、我も肉体を失ってしまったがな……些細な事だ」


「アバドンを倒しノルンも解放された」


「ノルンも囚われていたのですか?」


「そうか、君が囚われている間に起こった話だったな」


『神の剣』

 

 クロノスは神の剣から1振りの神剣をレイアに手渡す。


「レイア、これは返しておくよ」


「はい」


 神の剣を解いてもレイアに渡した剣だけは消えなかった。


「今度こそ『異界の神』を倒しこの地に平和を取り戻しましょう」


「うむ」


「その前にあなたの傷を癒さないとダメですね、神界に戻りましょう」


「そうだな」


「「…………」」



 僕たちは神の記憶を垣間見た。



「アル……」


「はい」


「どうでしたか?……」


「おぼろげに、思い出した感じで、まだ完全ではありませんね」


「私は……全てを思い出しましたよ?」


「ん、え、てことはユイリ? レイア?……」


「基本はユイリです。皆んなのこともちゃんと覚えています」


「あなたも傷を癒せば、思い出しますよ」


「き……傷?」


「はい、あなたの神格は傷だらけです。神界に行きましょう」


「ウルド達にも、そんなことは言われなかったけど……」


「まあ子ども達には分からないでしょうね……」


「えっ……それはどういう?」


「分かってるくせに……私に言わせないでね」


「…………」


 今の一言で色々察してしまった。心の準備がまだ出来ていない……そもそも神界へはどうやっていくのであろうか。


 そんなことを考えているうちにユイリが僕の手を取り神界へテレポートしたのだった。

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