第24話 アル、ブチ切れる
『アル、魔族軍のことは既に聞き及んでいますよね?』
『うん、ついさっき聞いたよ』
『魔族を率いているのは奈落の魔王アバドンです』
『また魔王?』
『人間も各国に王がいるじゃないですか、それと同じですよ』
妙に腑に落ちた。
『なるほど』
『これまでの魔王軍との違いですけど……奈落の軍勢はレイスやリッチが中心です。恐らく普通の人間では対抗できません』
『え、なんで?』
『魔力の低い人間はリッチの姿を見ただけで絶命します』
『それは……』
『まあアルの敵はありませんけどね、リッチは神威で退治できます』
『貴重な情報ありがとう』
『問題はアバドンです』
『その力はパズズよりも強大です。気をつけてください』
『わかったよ』
『もし、よろしければベルを遣わしましょうか?』
『あ、それならユイリ達のガードをお願いしたい。
ゲートの破壊に向かっているんだ』
『そうですね、奈落と地上が繋がっているのは、私たち的にもよろしくないですからね』
『そちらはお任せください』
『ありがとう、助かるよ』
僕は今、学園の会議室にいる。学園長を中心に魔法部隊の作戦の最終確認だ。
しかし、どんな作戦であろうが僕のやることは変わらない『神の裁き』を叩き込むだけだ。
そして確認がおわり各員が配置につく、この戦力差で、どれほど足止めできるかは分からないが、定石通り魔術師と弓兵が城壁から遠距離攻撃を行い、程なくしてから撤回戦を開始する。
ウルドの話し通りだと、この攻撃は通用しない。
敵軍が霊体と魔王だからだ。
僕がやるしかない。
「きたぞ————————」
物見の兵士が叫ぶ。
魔族軍10万の襲来だ。
「ま……まてよ……あれは、レイス??」
「リッチもいるんじゃ……」
城壁内が騒然とする。
「……私と、アシッドさん、アルくんの攻撃しか通用しなさそうね……」
「そ……そんな……」
「私も大丈夫だ」
「学園長!」
「霊体への攻撃手段も、少しは持ち合わせている」
「あの、学園長、アンナ先生、皆んな」
『『はい』』
「ここは僕に任せてください」
『『へ?』』
「行ってきます」
『『はいぃ——————————』』
僕は城壁から飛び降り、敵軍にむかう。
「アル!!!いくら君でもこの数では!!!」
「アルくん!!!ダメ!!!戻って!!!」
「アル!それは無茶しすぎだ!」
「アル!!!いっちゃダメ!!」
「アルがいなくなるとモルモットが減る!!!」
聞いちゃいけないセリフも混ざっていた。
みんなの心配をよそに、僕は敵軍に近くまで来た、魔王は前線にはいないようだ。
ステータス1万倍のダッシュで城壁からの距離も稼げた。遠慮なくスキルが使える。
『神威』『神の裁き』『神の雷』
周りに何もないので神威をこれまでにないぐらい遠慮なく展開し、神の裁き、パズズから頂いた神の雷で先制攻撃を加えた。
神の雷の威力は想定通り、数百の魔物を一撃で消滅させた。それよりも恐ろしかったのは『神の裁き』だ神の裁き一撃で、三分の一ほどの魔物を消滅させた。神威の影響で消滅する魔物もいる。
「なっ……なんだ、あれは?」
「ね……ねぇ、……あの光の数…ありえるの?」
「……さすが……魔王殺しの英雄……?」
「さ…三分の一は削りましたよね……?」
「新魔法?抜け駆け?」
「アンナ先生……あれは勇者様の使う聖なる光ですよね?……」
「…そっそうね……私やユイリが操れる数倍、いえ数十倍以上の聖なる光ね……」
先制攻撃が終わると城壁から歓声があがっているのがわかった。
僕はさらに進撃を続けた。奈落の魔物は神威への耐性が殆どなく、神威に触れるだけで消滅していった。残念なことに魔石のドロップはなかった。
(霊体だから?)
そして群れの中から一際強い闇と瘴気が溢れ出してきた。
魔王のお出ましだ。
「神威、貴様は神か?」
(ん?どこかで聞いたことのある声……)
「違います、人間ですよ」
「どちらでもよい貴様は死ぬのだからな」
アバドンがその姿を現す。アバドンは一瞬闇と同化しているのかと勘違いしてしまうほどの闇を身にまとい、その瘴気ははウルドの言う通りパズズの比ではなかった。
(こっ……こいつは…)
アバドンの姿を見た僕は身体中の血が沸き立つような感覚に襲われた。
僕の身体は知っている、僕が奴のことを忘れていても僕の魂がアバドンの存在をその身に焼き付けている。
「お前だけは……」
「何だ?」
「お前だけは許さないぞ!!」
僕の怒りは頂点に達し、アバドンに殴りかかる。
しかし、怒りに任せた拳が通じるほど、甘い相手ではなく、綺麗にカウンターをもらってしまった。しかし、アバドンが僕にできた攻撃はこれだけだ。
僕は耐えた、身体中から沸き起こる怒りが、倒れること許さない。そして渾身の一撃をアバドンに見舞う。
拳はアバドンにクリーンヒットした。数百メートルは飛ばされたであろうアバドンに『神の裁き』と『神の剣』で追撃をかける、僕の進路にいた魔物は激しい神威に触れ次々と消滅していく。
『神の裁き』と『神の剣』によって既にアバドンは瀕死状態だったが、僕は構わず馬乗りになって何度も何度もアバドンを殴りつける。
その一撃、一撃に大地が揺れる。
「こんなものでは、こんなものではまだ足りないぞ!」
「い……いったい……き……貴様……は……」
「お前が知る必要はない」
僕はアバドンをみてから自分が何を口走っているのかわからない。
僕は動かなくなったアバドンの胸ぐらを掴み、吊り上げる。
「お前だ……お前が全ての元凶だ……お前さえいなければ……ノルンは!!」
怒りと悲しみが入り混じった感情が僕の中に流れ込んで来た。
「そ……そうか……貴様は……」
アバドンは僕がわからない僕の正体に気付いたようだ。
僕は、アバドンを無造作に空中に放り投げ『神の一撃』をはなった。
その一撃は成層圏をも貫き、アバドンは消滅した。
それでも僕は、まだ怒りが収まらず『神の裁き』と『神の剣』で残った魔物を皆殺しにした。
「ウルド来い!」
僕はウルドを召喚した。
「え? え? え?」
「こ…ここは?」
「ウルド」
「ア、アル?」
「ウルド久しいな」
「君の世界樹守護の任を解く」
「ご苦労だった、後は我に任せろ」
「え……」
僕はウルドにそれを告げると、その場に倒れ意識を失ってしまった。
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