第23話 迫る脅威
初日に色んな出来事があり過ぎて、前途多難に思えた僕の学園生活も、部屋割りでの一悶着を最後に、平穏に向かっている。
どうやら僕は学ぶことがとても好きなようで、魔法の授業も、放課後のユイリとの修練も楽しくて仕方がない。毎日とても充実している。
そして夢はあれからも毎日見ている。
夢は僕が日本で過ごしていた時のことが大半で、内容は一貫して僕が何かの知識を求めるというものだ。あれから夢にウルドは登場していない。
僕はそれでも、夢に仮説を立ててみた。
僕の夢は2つに分類できた。
1つはこの僕、蒼井 有の人生……もう1つは、誰かは分からないが、この世界の人物の人生。
僕はこの件の解明を、今すぐにでも行わなければならないとは思っていない。毎日ソースが増えるので、いずれ答えに辿り着けると確信している。
ウルドに夢の話をしようと幾度か世界樹に赴いたが、話すには至っていない。話すことでウルドとの関係にヒビが入るような気がしてならないからだ。
変わらず僕はチキン野郎のままなのだ。
ちなみに僕はアンナ先生と完全に同室になった。僕の部屋についてはベランダ案まで出たが、流石に人目が気になるということで回避された。アンナ先生曰く、消去法で決めたらそうなったとのことだ。アンナ先生の立場になれば、その理由はなんとなくわかる。
「アル………………アル…………」
「アル?」
「ん、あ、うん?」
最近は僕にも友達が出来た。学園のクラスメイトだ。
「どうしたのボーッとして?」
特にアシッドは何かと僕に気を掛けてくれている。
「あぁ、ちょっと考え事を」
「何だよ考え事って、ベルダンディ様のことか?」
スラッシュは基本脳筋なんだけれども、やたらと気が合う。昔ながらの悪友って感じのナイスガイだ。
「違う違う!断じて違います」
「また、傍迷惑な新魔法の研究?」
最近メイは言い直す事なく直球で毒舌だ。
「最近はしてないですよ!」
「失敗したらアンナ先生、怖いもんな……」
「うん……」
「アルこの間、朝から休憩なしで基礎魔法の練習させられてたもんね」
「しかもアンナ先生、アルの存在、完全に忘れてたんだよな」
「アンナ先生の中じゃアルの存在が薄すぎるから、放置プレイにもならないですけどね」
メイの言葉には割とへこまされる。
その後のユイリとの修練がボロボロで、ユイリに対して失礼だと、こっ酷くレイラに叱られた。
「魔王を倒した英雄も先生の前ではかたなしだね」
学園ではこの4人といつも一緒にいる。
「アルは今日もユイリ様と修練?」
「その予定でしたが、急に勇者の仕事が入ったらしく、軍に行ってます」
「それなら光魔法の練習に付き合って欲しいです」
「いいですよ」
「メイ、俺たちはどうする?」
「私は新しい魔法の実験がやりたいので、スラッシュが実験台になれば良いと思います」
「それって…危険じゃね?」
「だからバカ…脳筋のスラッシュが最適です」
たまに言い直すけれど、大半はどちらもディスっている。
なんて会話をしながら食堂から修練場に向かっていると、緊急集会のチャイムが鳴った。
「緊急か、教室かグランドかどっちだった?」
「チャイムの音も聞き分けられ無いから脳筋と呼ばれる」
「グランドだね」
「とりあえず向かいましょう」
ユイリの召集と関係がありそうな予感がしていた。
殆どの生徒がまだ校内にいたようで、比較的スムーズに全校生が集まった。各クラス担任の点呼が終わり、学園長からの話しがはじまる。
「諸君、悪い知らせだ」
みんながザワつきだした。
「ムスタング平原に魔族軍が集結し、この街を目指している」
さらにザワつきが増す。
ちなみにムスタング平原はレイラと出会った場所のすぐ近くだ。
「その数は10万、魔神の存在も確認されている」
この世界の魔神の存在はやはり規格外で、1流の戦士や魔道士が束になっても敵わないそうだ。僕は同じく規格外なユイリやレイラとの戦いから入ってしまったので、誤認を改めるのに時間がかかった。
「魔族軍はゲートを使って転移してきたようだ、もしかしたら決戦の日に別働隊に小細工されていたのかもしれないな」
おそらくアッハーズの仕業じゃなかろうかと思う。
「勇者達にはゲートの破壊に赴いてもらった。援軍が来るのも厄介だが、ゲートを放置するのは戦略上望ましくない」
戦略とは国家レベルの戦略のことだ。もしかしたら国はテレキャスの街を放棄するかもしれない。
「テレキャスの街の守備軍はおよそ5千、王都に援軍の要請はしているが魔神のいる魔族軍相手では、恐らく持ちこたえられない、故に我々はこの街を放棄することを決断した」
衝撃の事実だが、懸命な判断だと思う。ただ……
「この後、街から布令を出し東門から一般市民を避難させる。軍は西門に集結し、防衛戦にあたる」
住民が避難するまでの時間稼ぎだ、魔物相手にこの戦力差では勝負にならない。しかし、人民の命を優先するあたりこの国は
「当学園は防衛戦に参加する。ただ、事態が事態なので諸君等に強制はしない。防衛戦に参加しない生徒達は一般市民らとともに避難し、その警護にあたって欲しい」
「緊急事態だが各自焦らず的確な判断を下して欲しい。以上だ」
生徒達は大混乱だ、20倍の敵が攻めてきたのだから仕方ない。
「アル大変なことになったな」
「そうですね」
「せっかく脳筋に一泡…実験どころではなくなってしまいました」
「今何か怖いこと言いかけなかったか?」
「空耳です」
「アルはどうされるのですか?」
「僕は、ユイリや先生達を置いていけない。戦うよ」
「みんなは?」
「正直俺が残ったところで大した戦力にはならねーと思うけど、
「思う存分実験する予定です」
「私も……戦います」
「生き残れる確率の方が少ないですよ?」
「「「知ってる」」」
「危なくなったらなるべく逃げましょう!」
「10万相手に逃げれるのか?」
「脳筋は大丈夫でしょ」
「アルがいるから大丈夫よ」
「みんなを逃すぐらいの時間は稼ぎますよ」
「謙虚な英雄だな」
「アルくん」
「アンナ先生、大変なことになりましたね」
「そうね、アルくんはどうするの?」
「僕は戦いますよ」
「あなたは問題児だけど、こういう時は心強いですね」
「そんなにですか?」
「胸に手を当ててみて?」
「そっ…それはそうと先生は防衛線の作戦はご存知ですか?」
「まだ聞いていないけど、籠城は決定的よ」
「ということは開戦時、野戦はないのですね?」
「そうね、陣も恐らく街中に作ることになるはずよ」
野戦がなければ『神の裁き』を初手で使える……
「アンナ先生、僕は独自行動でもいいでしょうか?」
「まあ、そうくると思っていたけど……」
「乱戦になると使えませんが、初手で僕の最大火力の範囲魔法を使います。いくらかは削れると思います」
「ある意味魔王軍より恐ろしそうね……」
「大丈夫です!既に実戦でつかってますから!」
こうしている間にも魔族軍の脅威が迫っていた。
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