第22話 勇者の力

 今日も夢を見た。


(私も連れて行って下さい)


(ダメだ君達はここを守ってくれ。ここが、落とされれば全てが終わる、わかるね?)


(でも……)


(大切な事だ。

大丈夫だ我らは必ず帰ってくる)


(それまで君達はここを守り通してほしい)


(…分かりました……)


(必ず帰ってきて下さい)


(ああ、必ず帰ってくる)


 …………


 今日の夢はいつもと違う。

 何故なら、今日の夢には僕の知っている人物が登場していたからだ。

 もしかして、夢という形で失くした記憶を見ているのだろうか?

 でも、それだと矛盾がある……夢に登場したのは『ウルド』なのだから。


(色々考えるにはデータが少な過ぎるな)


 僕は夢のことについて考えるのは一旦やめた。仮説を立てるにも、データが少なすぎるからだ。

 今の所、毎日夢は見ているので、焦らずとも有用な情報が入手できる日が来るかもしれない。


(そんなに飲んでないけど、頭痛いなぁ……寝不足かな)


 2夜連続のお説教で寝不足は当たり前だ。とりあえずリビングでくつろぐことにした。


「やっほー」

「おはようございます」

「おはようアルくん」


 リビングには訪ねてきたユイリとジニーとアンナ先生が居た。

(アンナ先生タフだなぁ……がっつり朝までお説教してたのに)


「おはようございます」


「調整お願いに来たよ」

(あ、そうだったな)


「了解です。

僕、ちょっと顔洗って来ます」


(ユイリは何しに来たんだろう?まさか本気でこの部屋に住むつもりじゃないよね……)


「本当に相部屋だったのですね……」


「びっくりだね」


「ちゃんと彼に魔法を教えるって名目があるの!彼は独自解釈で、いくつかの魔法を行使できるけど、それ以外の魔法はまだ何も使えないの」


「それもびっくりだね」


「アンナはアルの資質をどう見ます?」


「理解は早いけけどね、まだわからないわ」


「アルに学園長の仰るような、個人レッスンって必要?」


「うーん学園の授業について行くには必要かも?でも彼の場合、学園の授業が必要なのか怪しいところだけど」


「必要ですよ」


「お、ご本人お墨付き」


「必要ってどっち?」


「どちらもです

僕だけでは、間に合わないかもしれないですから」


「何に?」


「え?」

(そうだ、何に間に合わないんだろう?)


「まだ、頭がボーッとしてるのかな……ど忘れしちゃいました」


「ねーねー皆、とりあえずランチしない?」


「いいですね、腹ペコです」

「学食で大丈夫よね?」

「私は大丈夫です」

「わたしもー」


「じゃぁ学食で」


 僕には聞かれなかった……扱いがぞんざいだ。


 ランチを軽く済ませて、模擬戦も行える修練場を借りれることになった。


「ねえ、アル」


「はい」


「ジニーの銃の調整が済んだら、私と模擬戦をしていただけませんか?」


「え」


「パズズを倒したあなたの力に純粋に興味があります」


「それは私もあるわね」


「ダメですか?」


(ステータス1万倍どうしよう……MAG01だけなら大丈夫か…)


 僕は、MAG01を使っていいと言う条件で模擬戦を引き受けた。


 まずは、ジニーのMAG02の最終調整からだ、僕が想定していたよりもMAG02の威力は高く、ジニーも喜んでくれた。


「すごいよアル!この威力でこの魔力消費なら全然実戦で使えるよ!

本当にありがとう!」


 今日もジニーはいつものようにスキンシップで喜びを表現してきた。


 僕は2人の視線が怖かった…


「では、アルはじめましょうか」

「はい」


「アル、模擬戦とは言え様子見はしません。

私は最初から全力でいきます」


「分かりました」


「じゃぁ2人とも準備はいい?」


「「はい」」


「はじめ!」

 アンナ先生の合図で模擬戦がはじまった。


 ユイリは宣言通り最初からフルパワーだ。

 ユイリの体が聖なる光につつまれ、超スピードで僕に向かってくる。


(速い!)


 ユイリの戦闘スタイルは両手剣と光魔法が中心だ。ユイリの斬撃は両手剣と思えないような速さだ。ステイタス1万倍の僕でも余裕をもってかわせているわけではない、結構ギリギリだ。


(凄い!これが勇者の力?!)


 ユイリの斬撃をかわしつつ距離を取りMAG01で反撃する。そのパターンの攻防がしばらく続いた。


 ユイリが攻撃パターンを変えて来た。斬撃に加え、光魔法の光弾を使いはじめた。


 僕はMAG01で光弾を撃ち落とし、ギリギリのところで斬撃をかわしていた。

(参ったな……スキルなしでは勝てない…)


 僕は彼女との純粋な実力差を思い知った。ステイタス1万倍といってもまだまだ鍛える余地はありあそうだ。


(ユイリに感謝だな)


 そんなことを考えているとユイリが光弾の数を倍ほどに増やして来た。


(まじか!)

 MAG01で迎撃するも、いくつかは被弾してしまった。


 その隙にユイリの両手剣が僕の首元に…勝負ありだ。

「ま…参りました……」


 僕はあっさりユイリに敗北喫した。


「凄い戦いだったね、よく見えなかったよ」

「確かに……すごかったですね」


「ユイリ……強いですね…

僕も少しは自信があったのですが、届きませんでした。

まだまだです」


「可笑しなものですね…ハァ

勝った私の方が……息を切らせていると言うのに……ハァ」


「スタミナだけは勝っていたと言うことですかね」


「アル……ハァ

よろしければ、私があなたに体術を指導しましょうか?……」


「それは願ってもない申し出ですが……アンナ先生、問題はありませんか?」


「学業に支障が出ない範囲なら大丈夫じゃない?学園が関与することでもなさそうだし」


「そういうことならユイリ、よろしくお願いします」


「では、私もあの部屋に移らせていただきますね」


「「はいぃーー?」」


(もしかして、これが目的だったのか……)


「体術に大切なのは日々の修練です。毎日の放課後をその時間にあてますよ」


「ちょ、ちょっと待って」


「何か問題でも?」


 ジニーはニヤニヤしている。何か知っているようだ。


 ジニーの様子を見て僕は静観を決めた。


「あなたは、確かにここの卒業生だけど、もう関係者じゃないのよ?」


「関係者です」


「え?」


「臨時講師としての契約を結んでいます」


「臨時?私は聞いてないけど」


「今朝、決まりましたので」


「もしかしてジニーも?」


「まあ一応」


「と言う事はレイラやジュリも?」


「勿論だ」

 レイラとジュリと学園長が修練場に入って来た。


「部屋の件も学園長からご許可いただいています」


「はぁぁぁぁぁ?」


「すまんな、アンナ先生今日から2人部屋ではなく6人部屋だ」


「学園長!!なぜでしょうか?部屋はまだ余っていますよね?」


「うむ、大恩ある勇者達に是非にと頼まれて、それを断る国民はいるのか?」


「あなた達!」

 アンナ先生が4人を睨む。


「それにだ」

 みんなが学園長に注目した。


「6人一緒の方が見ている方としては面白いからな」

 最低だ。


 そんなこんなで今日からみんなと一緒に住むことなった。僕の安らぎは遠い。

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