原初神編

第25話 父さま

 いつものように夢を見た。

 それが楽しかったのか、嬉しかったのか、悲しかったのかすら覚えていなかった。


 目が覚めると、ウルドの部屋だった。


「アル……」


「ん…ウルド……」

「こ…ここは……ウルドの部屋か」


「そうですよ、一週間ほど眠られていました」


「あの戦いから?」


「はい」


「ウルド…

僕は、あの戦いのことは、よく覚えていないんだ……

アバドンを見て、わけが分からなくなって、ブチ切れてしまって……」


 ウルドは僕を見て微笑むだけだ。


「それでも…それでも、君を呼んだ事と『ノルン』と言う名前だけは覚えている。

何か心当たりは?」


 ウルドは頷いた。


「アル…あなたは恐らくクロノス様です」


「クロノス?」


「以前お話しした、魔王と相討ちした、原初神様です」


「え」


「そしてノルンはクロノスの妻、私達姉妹の母です」


「え」


「えーと、つまり……」


「私はアルの娘ですね」

 


 






 衝撃の事実だ……頭が真っ白になった。








 でも、これで色々合点が行く。

 ウルドに今一歩踏み込めなかったのは……自分の娘だったからだ……

 

 本能的に守りたくもなるのも当然だ。

 

「む……娘……」


「はい父さま」

 

 父さま……へ…へこむ……


「実は、はじめてパズズとアルの戦いを見た時から、そうではないかと思っていました」


「え、そうなの?」


「アルの技は父さまの技と一緒だったので」


「な…なるほど……」


「でも、アルからは父さまの気配は感じられませんでした。それは今もです」


「ん、僕はクロノスであってクロノスでない?」


「そうですね、アルはアルなんだと思います」


「でも、アルは私と父さまの2、人しかしらない約束を知っていました……間違いなく父さまです」


 何だか禅問答のような会話だ。


「…ところでノルンは今?」


「父さまと一緒に戦いに赴き、戻って来ませんでした。母さまの行方については恐らく父さまが知っていると思われます」


「つまり僕がクロノスの記憶を取り戻すしかないわけか……」


「頼りにしてますね、父さま」


 これは思ったより衝撃が大きい、ウルドに父さまと呼ばれるなど夢にも思ってみなかった。


「ウルド、僕は、はじめて会った時から君に惹かれていたんだ。

一目惚れってやつだ。

でもね、君と言葉を重ねるごとに、親密になればなるほど、ストップをかける存在があると気付いてね」


「…………」


「きっとそれがクロノスだったんだな…」


「実は私もです」

「アルをアルとして感じる時と、もしかして父さまでは?と感じる時がありました」


「え、そうなの?」


「はい、神の中には自分の娘を娶るものもいるので、私は構いませんが……それは母さまが帰って来てからの話しです」

「私は泥棒猫のようなことはしたくありませんので」


「なるほど…」


「でも、ハーレム作りは程々にしてくださいね、母さまが帰ってきていきなり修羅場は嫌なので……」


「な、な、な、なんのことかな?」


「ベルに聞いているので知っていますよ?」


「ぼ、僕はまだ誰にも手はだしてないよ!」


「アルはチキン野郎ですからね」


 娘にチキン野郎って言われるのは結構きく。


「学園に戻られますか?」


「とりあえずそうするよ」


「なら、早い方がいいかもですね」


「うん?」


「あれから一週間経ちますので……」


「もしかして?」


「はい、世間的にアルは消息不明ということになっています」


「マジか」


「ベルに、このことをベルに知られたくなかったものですから……黙っていました……」


「正しい判断だったと思うよ……」



「ウルド」


「はい」


「もう一晩泊まっていってもいいかな?」


「ダメです!」


「ですよね……」


「しっかりしてくださいね、父さま」


「少ししたら行くよ」


「わかりました、がんばってください……」


「ありがとう」



(と、その前に)

アバドンから簒奪したスキルを確認だ


(スキル確認)


『ゲート』

『漆黒の闇』


(漆黒の闇って……ゲートは使えそうだな)


「ウルド、ちなみに今何時ぐらい?」

「夜の11時ぐらいだと思います」


「アル、クロノス様は原初神であると同時に時間の神でもあります。

そんなあなたなら、時間のことなど手に取るようにわかるのでは?」


「え、そうなの……」

 僕は今の時間を思い浮かべてみた。


「…………」

 ウルドの話は本当だった。

 僕の眼前に時計のウィンドウが開いた。何やら色々設定できそうだが今はスルーだ。


「本当だったよ、ウルドありがとう!」

「はい!」


「じゃぁ行ってきます」


「いってらっしゃい」



 僕は自室、つまりアンナ先生との相部屋にテレポートした。


 部屋はとても静かだった。


「アルくん……どうして……」


アンナ先生のすすり泣く声が聞こえてきた。


「……私が止めていれば……」


(もしかしてアンナ先生、僕に何かあったと……)


 確かに何かはあったが至極無事だ。

 

 僕は居た堪れなくなった。



「アンナ先生」


「ア……アルくん?」


「はい、アルです」


 アンナ先生が僕に抱きついてきた。


「生きててよかった……」


 アンナ先生が声を殺して泣いている。


「先生、ごめんなさい」


「いいの」


「……いいの、生きていてくれれば……」


「……私……あなたが居なくなって、とても不安だった……」


 僕は、何も言えなかった。

 何も言えなかったけど、アンナ先生を抱きしめた。


「アルくん……みんな心配してるよ……」


「……はい……」


「事情徴収はみんなの前でね」


「はい……」


「じゃぁ行こうか」


「はい」


 僕たちはリビングに向かった。

 リビングには誰も居なかった。この寂しい光景を僕が作り出していると思うと胸が痛む。


 僕は声を張り上げて言った。


「ただいま——————————っ!」


 みんなの部屋からドタバタと音が聞こえた。


『『アル!!』』


 なぜかベル様も居た。


「アルさまぁ生きておられたのですねー」

 ベルがギャン泣きだ。


「アル、良かった。本当に良かった」

 ユイリは声を押し殺して泣いている。


「アル、お前は!お前は!……」

 レイラは泣きながら怒ってた。


「アル…もう勝手に居なくならないでね」

今は泣いていなかったがジニーの目は真っ赤だった。


「アルこれから大変」

 ジュリの言葉で現実に引き戻される。


 確かに色々大変になりそうだ、派手にやらかしてしまったから……


「アルくん、とりあえず、ここに座って」


「はい」


「正座だからね」


「はい…」


「みんなが納得する答えが聞けるまで、今日は眠れないからね?」


「は…はい……」


 

 僕の取り調べはやっぱり朝まで続いた。

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