第19話 身元保証人

 途中ハプニングはあったが、実習は概ね予定通りに進んでいる。特別講師が勇者一行という事で、皆んなが目の色を変え取り組んでいる影響もあるだろう。


 僕もアンナ先生に色々と教えてもらい、従来の魔法への理解も深まって来た。


 しかし、アンナ先生の表情は曇ったままだ。


「やっぱり不安ですか?」


「あの話を聞かされるとね……」


「ごめんなさい……アンナ先生、僕、余計なこと言ってしまって……」


 早まったことをしてしまった。アンナ先生に感じていた親近感が油断になってしまった。


「ううん……アルくんは悪くない……ごめんね……まだ色々整理ができてないの」


「いえ、原因は僕です…」


「普通の人ならね、そんなバカなことって笑い飛ばせるのかもしれないけど、

アルくんは特別よ…

アルくんの言う事なら本当なんだろうなって思うの、だから不安で仕方ないの」


 これは凄いジレンマだ。僕の行動が僕の言葉の真実味を増し、僕への信用が不安を招く。


 どうしよう……


「どうしたんだ、君はまたアンナ先生を困らせているのか?」


 いつも思うけど、学園長の来るタイミングは絶妙だ。


「学園長……アルくんの魔法が世界を滅ぼす魔王なんです!」


 いや、先生いくら混乱してても、それは端折りすぎだから。

 でも、そんな先生をちょっと可愛いと思ってしまった。


 アンナ先生が、ポンコツ化しているので、代わりに僕が学園長に経緯を説明した。


「なるほどな、もし、それが本当だと君は驚愕に値するな……深淵に触れるというやつか、魔法がなんたるかを理解するなど、普通はありえんことだからな……」


「まだ、仮説なんでなんともですが………可能性がゼロではないので…」


「その件については後日、詳しく聞かせてもらおう」


「わかりました」


「しかし、アンナ先生の不安はもっともだな、私も君のことは信用しているが、君が闇属性を使えるというのがな」


「魔族専用だからですね」


「そうだ、せめて君が悪しき存在でないと、証明できる手立てがあれば、アンナ先生の不安も払拭できるのではないか?」

 悪しき存在でない証明……


「そうかもしれません……でも……学園長はこのアルくんの話を聞いて、何とも思わないのですか?」


「思わなくはないさ、しかし思ったところでアルはアルだしな、アンナ先生はどのような着地点を探っているのだ?」


「…わかりません……ただ底知れない不安があります…」


「ふむ、君が不安に思うのなら、君がそういう風にならないように、アルを導いてやればいいだけの話ではないのか?」


「世界を滅ぼすかもしれない強大な力、アルの力の質が異質というだけで、強大な力に限ればユイリや君も同じだろう?」


「…そうでしたね……」


「人は知らないものに恐れを抱くものだ、だが、その恐れで本質を見失ってしまってはダメだぞ、アンナ」


「…はい…」


「私、なんだか吹っ切れました、学園長ありがとうございます!」


「だそうだ、よかったなアル」


「アル?」「アルくん?」


 僕は2人が僕のことに熱く語らっているのをよそに、僕が悪しき存在でないことの証明を少ない記憶から辿っていた。

(えーと、この世界で目覚める、パズズを倒す……いきなりあった)


 そうだ僕はパズズを倒している。

 パズズは魔王だ、それをウルドに証明してもらえば、僕が悪しきものではないと言う証明には充分じゃないだろうか?


 武勇伝をひけらかす事に若干の抵抗はあるが、それでアンナ先生の不安が解消されるのなら……


「お二人ともちょっと待っててください」


「うん?」「どうしたの?」


『ウルド……』

『はい』

『お願いがあるのだけれども』


 僕は、ざっくりウルドに事情を説明した。


『事情はわかりました』

『アルの頼みなので協力したいのは山々なのですが……

私は世界樹を離れるわけには、まいりません、どうしたものでしょうか……』


 なんとなく予想はついていたが、ウルドはやはり世界樹から離れられないか…。


『わかったよウルド、無理言ってごめんね』

『こちらこそ力になれなくて』

『あっ!待ってください』


 ウルドが無理となると、何か実績を作るのが手っ取り早いのかも知れないが、パズズを倒したことで暫く平和だもんな……。


『アル良い知らせです』

『ベルがそちらに行ってくれるそうです』

『え』

『不安しかないんだけど……』

『大丈夫ですよ聖女に啓示を与えているのは、あの子です。

それに……あの子はアルに心酔しきっていますから……

お仕置きがかなり効きましたね』

『あははは……」

『聖女が向かうと思いますので、うまくやってください』

『いつもありがとうウルド』


「お二人ともお待たせしました。

僕が悪しき存在でないということを、証明できるかもしれません」


「何?」「どうやって?」


「もうしばらく、お待ちください」


「それはいいが、もうアンナ先生は吹っ切れたようだぞ」


「え?」


「ごめんねアルくん心配かけて、もう大丈夫よ!午後からはバッチリしごいていくからね」


「…………」


「どうした」「どうしたの?」


「い、いえ……なにも…」

 大変だ、早くベル様を止めなければ……


『ウルド』

『あ、アル、ベルの準備は整いましたよ。もう少しだけ待ってくださいね』

『ウルド、ごめん!今から中止にできない?』

『中止?何とかなったのですね』

『うん』

『わかりました、ベルを止めてきます』

『ややこしい事言ってごめん』


 僕があたふたしていると、聖女がやってきた。ちょっと早すぎくね?


『『聖女様だ』』


 学園中が大騒ぎだ。僕にとっては予定通りの登場だが、予定外だった生徒達は聖女の登場に面食らっている。

(これは間に合わないかもしれないな……)


 聖女は僕たちの元へ歩みを進めてきた。


「アイシャ殿、わざわざこのような場所においでくださるとは珍しい、如何されたかな?」


「女神ベルダンディ様より啓示があったです」

 聖女はこちらを見て含み笑いをしている。何か嫌な予感がする……


「ベルダンディ様から?」


「ベルダンディ様に、ここに来るようにと告げられたのです」


 ユイリ達も聖女の存在に気付き駆けつけてきた。


「アイシャ何かあったの?」

 ユイリと聖女は顔見知りのようだ、結構親しげだ。


「あったといえばあったです」

「なにそれ?」

 ジニーが怪訝な表情を浮かべる


「正確にはこれから起こるのです」

「何が起こるというのだ」

 レイラも知り合いのようだ。勇者一行皆んな知り合いなのだろう。


「見てればわかるです」

「アイシャ変な喋り方」

 僕が聖女ならジュリには言われたくない。


『アル悪い知らせです』

『はい』

『間に合いませんでした……ベルはもう降臨の準備にはいりました……』

『…ですよね……ごめんね面倒ばかりかけて…』

『うまくやってくださいね……』


 ウルドから正式に間に合わないと知らせが入った……もう覚悟を決めるしかない……


「あ、そろそろです」


「「「「何が?」」」」


「ベルダンディ様が降臨されるです」

『『『ベルダンディ様が降臨!』』』


 これには聞き耳を立てていた他の生徒も驚いている。


「ベルダンディ様の降臨って、以前はたしか300年ほど前?」

 一昨日です。


「いや500年だろ?」

 いえ一昨日です。


「女神の降臨って本当にあるのか……」

 普通に夜中に街中歩いてました。


 アンナ先生が僕をジトメでみている。


「ねぇアルくん……ベルダンディ様の降臨って何かタイミングよすぎるよね?」


「何のことでしょうか?……」


「また、とぼけるつもりですか?…」


「…………」


「いいでしょう、連夜のお説教です……」


「…はい……」


「来るです!」


 聖女の言葉を皮切りに、空から眩いばかりの光が降り注いだ。

 そして天空から地上に向かって一際大きな一筋の光が差し込む。


 光の粒子をその身に纏い、優雅にベル様が舞い降りる。

 なんという幻想的な光景だろう。


 みんな言葉を失っている。

 僕も同じだ。


 この幻想的で神々しい光景に、僕は心が奪われてしまった。


 ベル様なのに……


 女神が地上に降り立った。


 固唾を飲んで見守る周囲をよそに、ベル様が僕の元へ歩みを進める。


「アル様」


『『『アル様!?』』』

 その言葉に周りがどよめく。


「本来ならすぐにでも駆けつけるべきでしたが、参上が遅れてしまい、申し訳ございません」

 うん、一応すぐに駆けつけてきたけどね。別件で……


「とんでもないです」


「アル様、この世界の一柱として、改めてお礼を言わせていただきます」

「魔王パズズの討伐、誠にありがとうございました」


 静寂の後、大歓声が沸き起こった。


 パズズが倒されたことはベル様の啓示により知らされていたが、誰よってかは伏せられていた。

 それがついに明かされた。


「「「「やっぱり」」」」


「やっぱり?」

「私たちはアルだと思っていたました、その、あまりにもタイミングが良過ぎたもので」


「勇者達も大義でした。

魔族もあなた方に幹部の魔神2人を討ち取られ、随分弱体化が進んでいます」


「「もったいないお言葉です」」

ユイリとレイラはベル様の言葉に即座に反応していたが、ジニーとジュリは、ただ呆然としていた。


「アル様」

「はい」

「あなたには心ばかりのお礼として女神の加護を授けます」


 歓声がさらに大きくなった。


 ベル様が両手を僕の首に回し抱きついてきた


 歓声のボルテージがもう1段階あがった


 そしてベル様は僕にキスをした。


『『『ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ』』』


 歓声のボルテージが最高潮になった

 僕の近くからは声にならない声が多数あがっていた。


「ベ…ベルダンディ様!何を?」


「ベルとお呼びください」


 な…なんだこれ?


「アルさま」


「は…はい」


「お慕い申し上げておりました…」


『『『ええええええええええええええええええ」』』


 何だこの展開……

 あ……あの時の聖女様の含み笑いは、この事だったのか。


 繰り返しやってしまった僕の軽率な行動で、今日が歴史に刻まれる1日となってしまった。

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