第18話 魔法の真理

 学園長は他の生徒達の視察に向かった。


 僕はアンナ先生に、皆んなが使っている魔法の名称や効果などを教えてもらっている。種類が多すぎて詠唱は全く覚えられないが、漠然とでもいいので目に焼き付けておくことにした。


 魔法をじっくり見ているとあることに気付いた。魔法の中にはそれを構成するいくつかのエレメントがあり、個々人でエレメント比率はバラバラだ。例えば火だと『熱』『可燃物質』『酸素』だと思われる。表現が曖昧なのは、見ていて感じるだけだからだ。


 そして、エレメントのバランスが良く量が多い魔法の方が、効果が高い傾向にある。これはステイタスに依存しない魔法の技量といったところなのかもしれない。


 僕はエレメントのことを先生に質問してみた。

「アンナ先生、学園の授業ではエレメントの制御はやらないのですか?」

 何故こんな質問をしたかと言うと、個々人のエレメントバランスのバラツキが大きいからだ。


「エレメントって?」


「あれ?」

 もしかしたら僕以外、エレメントが見えていないのかもしれない。


「もしかしてエレメント見えてないです?」

「どう言うこと???」


「例えば……」

 僕は火のエレメントをイメージし炎を作り出してみた。


「!!!」


「この炎なのですが、炎は3つのエレメントで構成されていまして、そのバランスと量で魔法の効果が違っているみたいなんです」


「ア……アルくん……今、それ、どうやったの?……無詠唱でしたよね?」

 そう言えば詠唱はしなかった。


「今お話したエレメントをイメージしたら出来ました」


「その……エレメントって何なの?」


 そうか、先生たちは化学を知らないから概念がないのか……これを伝えるのは時間がかかるな…


 僕は炎が何故燃えるかを、ざっくりアンナ先生に解説した。先生はなんとなく理解したが、腑に落ちるところまでは行っていないようだ。今までになかった概念なのだから仕方がない。


「じゃ先生、この炎でエレメントの実験をしてみますね」

 僕は作り出した炎のエレメントの量をバランスよく増やし燃焼を加速させた。


「見てください」


「な……なにそれ?……」

 炎が白くなったのだ。


「炎です。

ですが、さっきの炎より断然熱いです」

 理解しやすいように説明もざっくりしたものにした。


「先生やっぱりですよ!おそらくエレメントをコントロールすれば、魔法の効果は上がりますよ!」


「は…はあ…」

 いまいちピンと来ていなさそうなので、実演することにした。


「見ててくださいね」

 僕はエレメントの一つである酸素で、球状の壁を作り炎を包み込んだ。そして壁の中のエレメント量を加速させタイミングを見計らって上空に放り投げた。


「ドォ–––––––––––––––––––––––––––––ン」

 成功だ上空で炎は爆発した。


「ね、先生炎の威力が上がったでしょ?」

「あれ……先生?」


 先生は絶句していた。

「アルくん……ごめん…私、理解できない…」

 先生は頭を抱え込んでいた。


 爆発に絶句していたのは、先生だけではなかった。爆発に気付いたユイリ達やクラスメイトも同様だった。


「……先生、皆んなの実習の邪魔になりそうなので…とりあえず、大人しく見学しときますね……」


「……ええ、それでお願い……」


アンナ先生が上手く仕切り直してくれて、実習は再開された。


 僕は着眼点をエレメントに切り替えてみた。火、水、風、土はそれぞれ3つのエレメントで構成されており、属性間をまたいで存在する共通のエレメントもある。火と風の酸素、水と土の波動などがそれにあたる。


 ユイリとアシッドさんに目をやり光のエレメントを探ってみた。光を構成するエレメントはまるで太陽だ。恐らく核爆弾も作れる。エレメントの数は7つ、7つもエレメントがあるから使える人物が希少なのかもしれない。


 そして光のエレメントの中にはひとつ異質なものがある。


 神威と同質の力だ。


 だから、魔族には光属性が使えないのだ。


 そして僕は属性反応の闇を展開してエレメントを解析した。闇属性はまるでブラックホールだ。


 闇魔法は危険だ……これを理解して行使すると、ブラックホールが作れてしまう。


 惑星の中でブラックホールなんか発生したら、惑星そのものが無くなってしまう。


 闇魔法は4つのエレメント構成だった。その中で光と同じく異質なものが混ざっていた。それは瘴気と同質の力だ。


 なぜ魔族しか使えない闇属性を、僕が使えるのか理由がわかった。


 僕の推測が正しければ属性適正は、あくまでもその属性の持つエレメントを操れるかどうかということで、エレメントの概念さえ知っていれば、属性など関係ないのかもしれない。


 しかし、魔法が使えるこの世界において、概念の知識は危険だ。光の核爆弾もそうだが、特に問題なのはブラックホールだ。


 アンナ先生に炎の概念を教えたのは失敗だったかも知れない。アンナ先生は悪用する事は無いだろうが、教え伝えられた先の未来が心配だ。


「アンナ先生」

「はい、また何か変なことでも考えたの」

 既に信用が無い。


「…いえ」

「魔法の正体がわかってきました」


「は?」


「魔法の正体って?……」

 先生は苦笑いだ。


「従来の魔法とは別の方法で、今と同等もしくは、それ以上の魔法が行使できるかも知れないです!」


「さっきの魔法がそうだってと?」


「そうです」


「何だか末恐ろしいですね…」


「それと、先ほどのエレメントのことなんですが……

僕から話しといて、申し訳ありませんが、忘れてください!」


「忘れるも何も、全く理解していないんだけど……」


「では、エレメントについては、探求しないでいただきたいです」


「…言われるまでもなく、しないと思うけど何故?」


「それを教え伝え、さらに研究が進み、僕が仮説した魔法の真理に到達した時、世界を消し去る力を得ることができるからです」


「……スケールが大きすぎて……」


「僕たちが生きている間は大丈夫だと思います。未来の話しです」


「とにかく危険なのね、その件については了解よ」


「ありがとうございます」


「……ねぇ、アルくん…」

 先生の表情が曇る

「はい」


「もしかして……アルくん、その魔法使えるの?」


「そうですね……理論的には可能ですが、試してみないと分からないです」

 試すことなんて絶対できないけれど…


「ということは……アルくんはある意味、魔王より危険ってことなのよね…」


 うん?なんか雲行きが怪しくなってきた。

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