第17話 複数属性魔法クラス

 僕とメイさんが同じクラスになったのは、学園長が作為的に行ったわけではなく、僕が複数属性を扱えるからだ。


 全校生徒500名強に対し、複数属性を扱える僕のクラスは、僕を含めて20名だ。


「アンナ先生、このクラスに編入して来たったってことは、彼も複数属性使いなのですか?」


 クラスメイトの1人が質問してきた。


「そうです。

せっかく本人も居ることですし、自己紹介を兼ねて質問タイムにする?


『『『サンセー』』』


 僕の意思を無視して質問タイムがはじまることになった。


 アンナ先生に目配せした。先生は笑顔で無言の圧力をかけてきた。

 どうやら回避不可のようだ。


「では、アシッドさんから、名前と属性、質問一つでいきましょうか」


「はじめまして、アルくん

アシッドです。

私の属性は光、水、風の3属性です」


 いきなり光属性…さすが魔法学園といったところか、いかにも優等生って感じの雰囲気だ。彼女も例に漏れず可愛い、本当にこの世界はけしからん!メガネ美女まで用意しているとは…。


「はじめましてアシッドさん」


「皆んなが気になっていると思いますので、最初はこの質問で、

アルくんの適正属性は何ですか?」


 いきなり来た、先生の方を見ると先生は頷いている。言っちゃって良いって事だな。


「えーと、一応全属性使えます」

 教室はシーンとなっている。

(シラケちゃったかな?)


『『『全属性!!!』』』


「そ……それは闇を除く5属性の事ですか?」


「6属性です」


『『『6属性!!!』』』


「……それは……本当なのですか?…5属性ですら聞いたことありませんし、そもそも闇属性は魔族専用と聞いていますが……」


「では、お見せします」


 とりあえず証明するために、属性反応を6属性同時に展開してみた。


『『『えええええ』』』

 先生含め教室がざわめく……


「アルくんちょっと待って…6属性同時に行使できるの?」

 アンナ先生が珍しく驚いている。

「その辺は大丈夫みたいです」


「本当に6属性……」


「まだ、使える魔法はゼロですが…」

『『『えええええ』』』


「じゃぁあのガンツの火の矢を防いだのは…」

「あれはスキルです」

 僕は防御結界を展開させた。


「これですよね」

 みんなが頷く。


「そんなスキルあるのかよ……」


「じゃぁガンツを沈めた最後の攻撃は?」

「あれは武器です。彼、放っておくと危険そうだったので」

 そう言ってMAG01を取り出した。


『『『それ何???』』』


「これは銃という遠距離攻撃用の武器で、魔力を込めて魔弾を発射することができるものです」


 これの説明にもなれてきた。


「そんな武器きいたことないんだけど……」


「自作なので…」


『『『自作!!!』』』

 みんな一様に驚いていた。


「わ…私はもう大丈夫です……」

 アシッドさんの質問が終わった。


「なんか今の質問でお腹いっぱいになっちゃったね……」

 アンナ先生がなんとか場を取り繕う。


「次、私よろしいでしょうか?」


「あ、どうぞポップさん」


「はじめましてアルさん!

私はポップです!属性は……えーと水と土です。」


「はじめましてポップさん」

 ポップさんは元気印の女子って感じだ。


「私……昨日、アルさんとメイが、女子寮で2人で仲良く話しながら歩いているのを見かけました!

お二人は…もしかして付き合っているのですか!?」


「「「なにーー!」」」


 一部の男子から声が上がる。


「胸を揉まれた関係です」

 うそん…


『『『まじかー!!!』』』

 メイさんの爆弾発言に教室は大騒ぎだ。


「くそーうらやましい!」

「ゆるさないゆるさないゆるさない」

「付き合ってるの?付き合ってるの」

「えっ!どこまですすんですの」



 これはまずい…これはまずい……今朝、注意されたばかりなのに、これはまずい……


 でも、注意される前に起こった事だから、ノーカンって可能性も!?


「アルくん……」

「はい先生…」


「あなたメイさんにまで、そんな事してたのですか?」


 ノーカンにはならないようだ、先生笑顔が怖いです。


「いえ……それは誤解っていうか」


「また言い訳ですか…」


「えええ…」


「冗談です」


『『『・・・・・・・』』』


 メイさんの発言で教室に静寂が戻った。

 命拾いした……


「アルは私の魅力に下心ありありな感じでしたがチキ……

アルとは何の関係もありません」

 フォローになってないよメイさん。


「つか、さっき先生がメイさんにもとか言ってなかった?」

「うん、言ってた言ってた」

「て、ことは…先生と……」


「言ってませんよ」

「えーでも」


 先生が光球作って威圧する。

「言ってませんよ?」


「「!!!!!!!!!」」


「「気のせいでした……」」

 先生は騒動の鎮圧に成功した。


『ボーン……ボーン』

 古時計のチャイムのような音がなった。


「予鈴ですね、話しが全然進みませんでしたが、ともかくグランドに出ましょうか…」


 なんか………キツかった。誰得だったんだろう。


 それにしても、500人の実習って何やるんだろう?想像がつかない。


 僕はグランドに行く道中、先生に今日のプログラムを訪ねた。


「アンナ先生、さっきは詳しく聞けなかったですが、実習って具体的に何をやるのですか?」


「部隊戦を想定した訓練よ」


「イメージ湧かないです」


「同じ魔法を複数人で使って合体させたり、部隊戦に効率的な魔術の陣形だったり、複数の属性の魔法を掛け合わせたり、色々課題があります」


「なんか凄そうですね」


「でも今日は私たちは、別メニューです」


「なぜですか?」


「複数属性を使える魔術師は、魔法の掛け合わせで、単独でも強力な魔法の行使が可能なの」

「私たちは実戦経験者に、そのレシピと取り扱いの注意点を、レクチャーしてもらうことになってるの」


「学園長がおっしゃってた特別講師ですね」

「ですね」


「あ、そうそうあの子たちよ」


 アンナ先生が指差ししたその先には見知った顔の4人組がいた。他のクラスメイトも特別講師の存在に気付いた。


「あの子達も学園の卒業生なの」

 それを見てクラスメイトが沸き立った。


『『『ユイリ様!レイラ様!ジニー様!ジュリ様!』』』


 みんなは勇者一行の元へ駆け寄って行った。


「すごい人気ですね」

「そりゃ世界の救世主だからね、あの子達に憧れて入学した子も多いのよ」

「そうなんですね」

「うん?アルくんは反応うすいね?」

「僕は、つい最近まで知らなかったものですから」


 なんて話をしていたら……


 ジニーがこちらに向かって猛ダッシュしてきた!

「アルーーーーーーぅ」

 ものすごい勢いで抱きつかれた。


「こ……こんにちはジニー…」

 抱きつかれた勢いで押し倒されてしまった。

「アル!会いたかったよ!」


「……」

 アンナ先生が凍てつくような視線で僕らを見下ろす。


「あ、アンナ久しぶり、元気だった?」

「え、ええ……あ……あなたは元気そうね」

満面の笑みのジニーと引きつった笑顔のアンナ先生。実に対照的だ。


「久しいなアンナ」

「おいジニー!危ないしアルに迷惑だろ早く離れろ!」

 レイラは相変わらずだ。


「こんにちはレイラ」

「久しぶりだな…アル」

 1日ぶりですよね。


「アンナ久しぶりね」

「ジニーやめなさいよ!」

「こんにちはユイリ」

「ア、アルその節は、とんだ失態を……」

 がっつり絡んでましたもんね。

「楽しかったですよ」


「よう後輩」

 メイさんと発想が同じだ。

「こんにちはジュリ先輩」

「アンナ後輩イジメダメ」


「あなた達、アルくんと知り合いだったの?」

「命の恩人だ」「私の窮地を救ってくれたの」「デートの約束してるの」「私の財布」

 なんかメチャクチャだ。


「……アルくん?……説明してくれる?」

 アンナ先生の顔が恐怖で見れない。

「アンナ先生、話すと長くなるので、後ほど…」


「あれ?もしかして、また?」

 ジニーがニヤニヤしながら僕とアンナ先生を交互に見て、ようやく離れてくれた。


「ユイリ、レイラ」

「「なに?」」


「ライバル多いね!」


「「な、なんのことかな!!!」」


 クラスメイトがそんな僕たちの様子を呆然と見守っていた。



「相変わらず、面白いことになっているな」

 そこへまたややこしい人が来た。


「アル、この国は一夫多妻制が認められている、安心したまえ」

 この人はなんてことを言うんだ。


「いや違いますよ!」


「さあ時間が勿体無い、皆んな準備にとりかかるように」


 予想に反して、すんなり職務を全うしてくれた。さすが学園長!


 アンナ先生の指示の元、勇者一行の指導がはじまった。僕はまだ魔法が使えないので見学だ。


 アンナ先生に指導を受けるように指示されていたが、先生自体の手がまだ回らなさそうだ。


「アンナ先生の手が空くまで、話しでもしようか」


「はい」


「君たちが既に出会っていたとは、私も知らなかったよ」


 勇者一行のことですよね。


「ちょとご縁がありまして」


「決戦の日にか?」


「はい」


「なるほど、軍から報告を受けていた、ユイリを窮地から救った謎の少年とは君のことか……」


「君は何者なのだ?」


「ユイリは人類最強と言っても過言ではない。そんなユイリがどうにも出来なかった状況を、君は1人でどうにかしてしまったのだろ?」


「いや、あれは体力の問題ですよ。

ユイリは僕が来た時には相当消耗してましたし」


「助け出されたユイリは血みどろで、君は無傷だったときいている」


「力の差が歴然だと考えるのは私だけだろうか?」


「どう言えば、いいのでしょうか……」


「ん、もしかして君は記憶を失っているのか?」

 学園長、鋭すぎます。


「……はい…」


「なるほどな」「やっぱり」

「!?」

 アンナ先生がこっちに来ているのに気づいていなかった。

「ごめんね盗み聴くような形になっちゃって」


「いえ、先生には今夜にでも話そうと思っていたので」


「私が聞いても大丈夫なのか?」


「まあ、別に隠していたって訳ではないのですが、

あまり自分からベラベラと話すのも、どうかと考えていただけです」


「僕は自分の名前以外のことが、わからないんです。

その名前もステイタスで確認できたから知っているだけで、記憶としては何も残ってないんです」


「世情は少しレイラに教えてもらいましたが、教えてもらった以上の事はわかりません」


「それが君のアンバランスさの秘密か」


「アルくん……」

 先生が肩を震わせている。


「アルくん!あなたはチキンなんかじゃないわ!」


 慰めの言葉ならもう少し違う言葉が欲しかった。

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