第20話 修羅場

 四面楚歌という言葉をご存知だろうか?

 今の僕がまさにそれです。


 アンナ先生は汚物を見るような目で僕を見ているし、男子生徒からは殺意のこもった視線を感じる。勇者一行ですらジト目で僕を見ている。


 好意的な視線を向けてくれているのはベルと学園長だけだ。

 まあ学園長は好意的というよりこの状況を楽しんでいるだけなのだが……

 

 僕をお慕い申し上げてくれているベルはウルドとよく似ている。

 外見だけで言えばすごく好みだし、黙っていればすごく美しい女性だ。ヤカラ飛ばされている時でもドキドキしてしまった前科もある。


 でも、ウルドの妹なのだ。


 僕はウルドに特別な感情を抱いている。

 もちろん恋愛感情だ。

 恋人気分での念話は繰り返しているし、大事な存在ではあるのは間違いないのだが、僕の中の何かが、ウルドに対する恋愛感情にストップをかける。


 もしかしたらそれは、僕の失くした記憶に起因しているのかもしれない。


 でも、それでもウルドの妹である以上、いくら僕がチキンでも、ベル様の想いには応えられない。


 ベルの為にもウルドの為にもそれだけはハッキリ告げようと思っていた。


「アル様……私をあなたの伴侶「ダメですー!」」

 しかし、そんな僕よりも早くユイリがベルの話に割って入って来た。


「恐れながら、神である御身とアルでは……そ…その、御身にアルは似つかわしくありません。不釣り合いです!」


「私はその様なことは気にしない」

 呆気なくユイリが撃沈した。



「アル様、私をあなたの「お待ち下さい!」」

 続いてレイラが参入してきた。


「その……神である御身には非常に申し上げにくいのですが……」

 何を言うつもりでしょうか。


「アルはその、少々、変態じみたところがあり何をするにもテトリアシトリやれなどと不埒な要求をしてきます。」

 やめてください。したことありません。


「そんな不浄な輩は御身に似つかわしくありません」

 なんか傷口が広がった気がするのだけれど……


「そんな事ですか、心得ております。

アル様は、その……はじめての夜から随分激しかったものですから……」


 レイラは赤面の後、撃沈した。


 僕は貝になりたい。



「アル様、私を「お待ち下さい」」

 アンナ先生?


「アルくんはまだ学生で、精神的にもまだまだ未熟です。」

 さすが先生!まともだ!


「彼はまだおっぱいがないと眠れません!

そんな彼を御身の伴侶とするのは人類の恥です」


 つらい……僕、学校に通う自信がない。


「せめて彼の成長をお待ちいただきたく思います」


「ふむ」


「さすがアル様、モテモテですね」


「「「な、な、な、何を」」」


「分かりました。

 貴女たちに免じて今日のところは引き下がりましょう」


 僕は、助かったのか?


「私だけが知っているのは不公平なので、貴女たちにも教えて差し上げます」


 ん?


「貴女がたが、最も警戒すべきは私ではありません」


「私の姉、ウルドです」


 僕のプライバシー……


「アル様、今日のところはこれで、では、また」


 ベル様は帰っていった。沢山の火種を残して。


「少年、頑張るです」

 聖女様も僕を励まして帰った。聖女様、巻き込んでしまってごめんなさい。


 学校中に広がった騒めきはまだ治らない。


「うん、まあ、想定外の事態ではあったが、

昼休みを挟んで実習は予定通り行う。

各自そのつもりで」


 学園長がこのなんとも言えない空気を無理やり引き戻してくれた。


「アル」

「はい」

 学園長が僕に耳打ちする。

「昼休みの間になんとかしておけよ?」

「…頑張ります…」



「アルくん?」

 口火を切ってきたのは先生だ。

「まあ、とりあえずここに座りなさい」

「はい……」

「正座ですよ?」

「承知しております」


 僕は、アンナ先生、ユイリ、レイラ、ジニー、ジュリにこれまでの出来事を話した。

 記憶についてもアンナ先生にフォローしてもらいつつ、4人に話した。


「へーそんなことがあったのね」

 ジニーはいつもながら、あっけらかんとしている。

「すみません黙ってて」

「なんて言うか、自分から進んで話せる内容じゃないもんね」

「そうなんです」


「水くさいぞアル、それでも私は言って欲しかった」

「レイラに言うと無理しそうだから言わないですよ」

「そ、そんなこと」

「レイラならあるね」

「あるある」

「くっ……」


「そもそも勇者である私がもっと強ければ、アルにこんな想いをさせずに済んだかもしれませんね」

「ユイリ、僕が言えた義理ではありませんが、ユイリは自己犠牲精神が強すぎます。ユイリが傷ついて悲しむ人がいることをもっと知ってほしいです」

「アルも悲しんでくれますか?」

「当たり前じゃないですか!

怒りますよ?」

「ご、ごめんなさい……ありがとう」


「アルくん」

「はい……」

「あなたはそうやってフラグをいくつもいくつも立ててきたのね」

「え」

「アンナはやっぱりわかってるね!」

「アルは天然のフラグメーカーなのよ」

 ひどい言われようだ

「ハーレム野郎」


「「「「・・・・・」」」」


「ある意味ジュリが1番正しいかもね」

「イェィ」

「ウルド様に、ベルダンディ様までアルの犠牲になってるなんてね」

「アルはスケールが大きいな」

「そんなところ褒めないでよ」


「あのー…」

「「「「うん」」」」

「今朝から気になってたのですが、先生とみなさんの関係は?」

「「「「同級生」」」」

「え」

「てことは皆んな同い歳?」


「そうだよ、アンナは大人っぽく見えるけど私たちと同い年だよ」

「私も前から気になっていたのですが」


「アルっていくつなのでしょうか?」

 あ、僕の年齢……いくつだろう?

「ステータスにも載ってないしね」

「私たちと同じぐらいにも年下にも年上にもみえるもんね」


「アルは年齢不詳だな」


「私は精神的にはアルくんは年上だと思います」

「「「「同じく」」」」


「アルは妙に大人っぽく感じることありますからね」

「お酒も飲んでたしね、普通に1番強かったし」

「ジニーその話は……」

「ユイリはやばかったもんね」

「お酒眠い」

「レイラはいっぱい泣いてたね」

「そ……そんなこと!」

「誰がベッドに運んであげたのかな?」

「うぅ…………」


「ここの学園って何歳まで通えるのですか?」

「22歳までだね」

「実際それ以上だと魔法の才能は伸ばしにくいしな」


 みなさんの年齢は?と聞きかけたがやめておこう。


 あっという間に昼休みが終わり、午後の実習がはじまった。

 午後の実習は平和そのもので恙無つつがなく終了した。


 僕も相当数の魔法を知ることができ、ステップアップの切っ掛けになった1日だった。


「ねーアンナ今日はいくでしょ?」

「アンナいく」

「そうね……久しぶりだし行きましょうか」

 同級生同士飲みにいくのだろう、皆んなたまにはハネを伸ばすべきだ。


「では僕はこれで、皆さんまたどこかで」


「アル?帰れるつもりですか?」

「アルの参加は最初から決まっている」


「いや、でも僕学生なんで飲みは……」


「いいではないか、明日は休みなんだし君もハネをのばしてくるといい」

「え、寛大過ぎやしないですか?」


「魔王パズズを倒した英雄をしばりつけるなど恐れ多いだろ?」


「うぅ……」


「行ってきたまえ、対面的に学生服はやめてくれよ」

「さすが学園長話がわかるー!」


 そんなこんなで第2ラウンドの開催が決定した。

(寝不足なのに……)


 あ、そうだ。

 (スキル確認)


『神の一撃』


 ベル様にいただいた加護によるスキルは、何とも彼女らしいスキルだった。

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