第14話  魔王の真実

 ウルドとの話は楽しい。色んな意味で心が躍る。彼女の事をもっと知りたいし、他愛のない話しをしているだけでもドキドキする。


 でも1つだけ、そんな会話に紛れさせてはいけない話しがある。


 それは魔王の矛盾だ。


「ウルド、世間では魔王って言えばパズズだよね?」


「はい」


「でもそれだと、ウルドの言ってた話しと矛盾するよね?」


「新しい魔王のことですね」


「うん」


「パズズとは別に、新しい魔王が誕生しているのは事実です。しかも魔力はパズズより数段上、真の魔王です」


「真の魔王?」


「パズズが元々仕えていた魔王です」


「それって誕生って言うより復活?」


「そうですね、より正確には転生です。魔王の魂が新しい依代よりしろに転生しました」


「依代?」


「魔王が復活するための器です。魔王は現在、依代に馴染むため、眠りについていると聞きます」


「だからパズズが倒されても出てこないのか」


「恐らくそうだと思います」


「そんな凄い魔王も転生ってことは、討たれたんだよね?」


「はい、魔王は原初神様と相討ちしました」


「それでも、魔王が滅びなかったのは何故?」


「原初神様も、魔王の魂までは滅ぼせなかったようです」


「魂……魂と肉体は別ってこと?」


「はい、私も神なので何かの原因で死んでも、魂を滅せられない限り、復活することができます」


「そうなんだ……」


「まあ復活にはかなりの時間を要しますが」


「かなりの時間?」


「魔王の場合で、ざっと1500年は掛かってますね」


「気が遠くなる年月だね……」


「人間にはそうでしょうね」


「で、原初神様は?」


「残念ながら原初神様の気配は、魔王と相討ちなさってから、感じ取ることができません。もしかすると、原初神様は……」


「そうか……」


 衝撃の真実だ。実質、原初神の敗北じゃないか。


「魔王復活のタイミングも分かってるの?」


「魔王転生確認時点では、現在から5年後でした。私のもう1人の妹、スクルドが調査にあたっているので、人類にはスクルドが戻り次第、伝えることになりますね」


「まだ幾分かは、時間があるって事か…」


「ええ、でも、そんなに長くはありません。その間に魔王に対抗出来る戦力を整えなければ……」


「人類は滅亡か…」


「人類だけではありません」


「このレオフェンの世界そのものです」

 この世界の名前をはじめて知った。


「世界そのものって?」

「魔王の目的は全てを無に帰すことなのです」


「えっなんのために?世界征服とかじゃないの?」

「それは私達にもわかりません」


「だから神々も人類と共闘するのか……」


「そうですね」


「その時……アルはどうされますか?」


「僕の答えは決まってる。ウルドを守るよ」


「………………」

「ありがとうアル、期待を大きく超える答えでした」


 その後、上機嫌なウルドと他愛のない話しで盛り上がった。


「じゃあ、そろそろ行ってくるよ。何かあったらすぐ連絡してね」


「はい、アルもお気を付けて、フラグに……」


「はい………」


 今日もウルドの上目遣いは可愛かった。


 僕は街の広場にテレポートした。案外人混みだと気付かれないものだ。


 そして、その足で魔法学園に向かった。


 指定の時間までもう少しありそうだったので、学内をぶらつくことにした。


 この時間は自主練なのか、至る所で生徒同士がグループを作って練習している。


「おい、部外者は立ち入り禁止だぞ」

 いきなり男子生徒に声を掛けられた。


「あ、すみません」

 説明するのも面倒なので、そのまま立ち去ろうと思った。


「待てよ」

 面倒ごとになりそうな予感がしてきた。


「お前ここで何してたんだよ」

「ちょっと見学を…」


「妙な格好だし、怪しいやつだな」

 僕の世界では普通の格好だ。


「僕は明日からこの学園でお世話になることになってまして…その下見がてら、見学に回ってました」


「ほう、この時期に編入か、てことは相当な実力者ってことか」


「いえ全くダメダメですよ」


「フッ ちょっと俺の自主練に付き合えよ」

 なんでそうなる。


「学園長との待ち合わせの時間もありますので、僕はこの辺で…」


「いいから付き合え」

 この世界の人たちは、僕の住む世界の住人よりカルシウムが少なめなのかもしれない。


「模擬戦形式な」

 いきなり練習に付き合わせて、模擬戦形式って、明らかあれですよね。


 僕たちが揉めていると、次第にギャラリーが集まって来た。知らないよ、僕、魔法使えないのに。


「じゃぁ、はじめるぞ、手加減できないから怪我すんなよ」

 言ってることが矛盾してるって気付いて欲しい。


 絡んできた男子生徒は火属性の持ち主だった。火の玉を軽快に打ち込んでくる。次々に火の玉を作る、魔力量は大したものだと思うが、攻撃速度が実戦レベルに達していない。そんなもんで苦もなく避け切れる。


「くそ!ちょこまかと!」

「おとなしくしやがれ!」

 そのセリフを聞くたびに思うのだが、それで大人しくなるバカは世の中に存在しない。


 時間が経つにつれ、火の玉が大きくなり速度も上がってきた。

 手加減できないとか言いながら、きっちり手加減していたようだ。


「くそ!なんで当たんねーんだ!」

 遅いからです。


「こうなったら!」

 男子生徒はさらに魔力を高め、火の矢を作った。


「おい、あれやべーんじゃない?」

 周りが男子生徒の魔法にざわめきだす。


 火の矢は1本にとどまらず、数十本作り上げられている。


「これならどうだ!」

 つくづく周りが見えていないやつだ。


 もし僕がこの矢を避けたら、僕の後ろのギャラリーが火だるまになるってところに、頭が回っていない。


 周りから悲鳴が上がる。


 僕はダッシュで彼に距離を詰める。

『結界』

 僕は彼が魔法を放つ前に、結界で魔法を押しつぶした。


 そして男子生徒の背後に回り込み、MAG01の最低火力で意識を刈り取った。


 想定通りの出力だった、大惨事にならなくてよかった。


 僕の足元で転がる男子生徒を見て、ギャラリーから歓声があがった。


「こら!そこ何やってるの!」


 教師のお出ましのようだ。いいタイミングだ。


 ギャラリーが解散し、僕は教師に事情を説明した。


「あなたが例の編入生ね、丁度この後、私があなたを案内する事になっていたのよ。あなたの担任のアンナです」


「ガンツ君を、医務室に運んだら、一緒に学園長室に行きましょう」


 男子生徒の名前はガンツ、学園内の実力は中の上といったところらしい。


 アンナ先生が周りの男子生徒に声を掛け、のびているガンツを運ぶ指示をしていた。


 運んだらって、自分で運ぶわけじゃないようだ。


 そんなこんなで学園長室前まできた。


「コンコン」

「学園長、アンナです」

「どうぞ」


「「失礼します」」


「おや、君も一緒か、丁度よかった。聞いているかもしれないが、君の担任になるアンナ先生だ、よろしくやってくれたまえ」


「はい」


「ちなみに、君のルームメイトでもある」


「はいぃーーーーーーーーーーーーーーーーー?」


「不服かね?」


「いえ、不服とかそう言う問題ではなくて………。男と女ですよ?」


「ルームメイトと言っても、寝室は別だ、安心したまえ」


「ええええ………アンナ先生は嫌じゃありませんか?」


「あら、別に問題ないですよ。先生と生徒ですからね、それとも何か心配ごとでも?」


「そりゃ、ありますよ!

アンナ先生は、その…とても魅力的なので………僕としては、間違いを犯してしまう可能性はゼロではないと思います」


「アハハハ、君は正直だな」


「笑い事じゃありませんよ」


「しかしな、君はそのようなタイプではない、メイも君のことはチキン野郎と言ってたではないか」


「………………」


 そんな安心感いらない。


「冗談はさておき、理由もなく君たちを同室にするわけではない、君が授業について行けるよう、アンナ先生にサポートしてもらう目的でもある。個人レッスンってやつだ」


「アンナ先生との共同生活の中で魔法がなんたるか、学ぶといい」


「はぁ…………」


「なに?アルくん、私じゃ不服なのかな?」


「いえ……内心はめちゃくちゃ嬉しいのですが、対面的に……」


「我が学園の正義は魔法力だ、対面を気にするなら魔法力を磨きたまえ。それにアンナ先生は数少ない光属性の使い手だ、アンナ先生が適任なのだよ」


「そう言うことですよ」


「わかりました、覚悟を決めます!」


「いい心がけだ、我が校は魔法という性質上、女生徒の方が圧倒的に多いのだ。君はアンナ先生との相部屋をきっと感謝するはずだよ」


 なんか色々察してしまった。


「よろしくね、アル君」

「よろしくお願いします、アンナ先生」

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