第13話 魔法学園入学

 周りが騒々しい。僕がメイさんに運び込まれたのは、魔法学園の女子寮だったからだ。


 女子寮の中に男が1人、まぁ普通に注目されるシチュエーションだ。


 なんだろう、別に悪いことをしている訳では無いのに背徳感が半端ない。自然と挙動不審になってしまう。


「もっと堂々としていればいいですよ」


「は、はい」


 それは僕には無理な相談だった。


「アルさんは予想通りチキンや……案外心配性ですね。」


 正直な感想、ありがとうございます。


「誰も取って食べたりしませんよ」

 むしろ、そんな熱い展開なら大歓迎だ。


 しかし、そんな展開など起こる筈もなく、学園長室の前まで来た。


「コンコン」

「学園長、メイ・フェイです」

「入りたまえ」


「「失礼します」」


 メイさんがババァなんて言っていたが、学園長は大人の魅力が溢れ出る美人さんだった。


 黒髪に紅い瞳が妖艶さを醸し出している。


「メイ、そちらは?」


「修練場で拾ってきた実験……修練場で倒れていたので、介抱して差し上げました。アルさんです」


「はじめまして、アオイ アルです。名前がアルです」


「はじめまして、学園長のルーシアだ」


「それで、用件は何だね?」


「そうでした、学園長、大変なのです!アルさんは無能……アルさんは魔法が使えないのです」


 ディスられるのにも慣れてきた。


「……それの何が大変なのかね?」


「間違えました」

「アルさんが全属性適正者なのです!」


「なに……それが本当なら、大変だな」


「アルさん、学園長にも適正を見せ付けて……お見せして下さい」


 僕は学園長にも魔法適正を見せた。


「…信じられん…」


 学園長はしばらく考えこむ。


「そうだな、とりあえず君は、この学園に入学すべきだ」


「え!」「当然です」


「不服なのですか?」

「いや、そう言う訳じゃなくて…」


「メイ、そんな言い方をするな、彼には彼の都合があるのだ」


「はい…」

 さすが大人の女性だ。


「では、理由を聞かせてもらおうか」


「はい、まずは生活です」


「学園で、負担しよう。衣食住から必要なもの全てだ」


「他には?」

 食い気味だったな、案外この人、大人じゃないかも……。


「で、では……いくつか、質問させてもらってもいいですか?」


「いいだろう」


「あの……入学した場合、僕の自由時間はどの程度ありますか?」


「授業時間以外すべてだ、授業時間は9時から4時ごろまでだ」

この世界にも時計があったのか。


「授業の日程は2日出て1日休み、2日出て2日休みの繰り返しだ」


「他には?」


「普通に考えて破格の待遇だと思うんです……そこまでして僕を入学させて、何か学園にメリットがあるのですか?」

 理由も無く高待遇だと怪しんでしまうのが人のさがってもんだ。


「そうだな、君の場合、学園にとってのメリット云々では無く、人類にとっての損失を防ぐためだ」

 人類……また大きな話に……。


「メイに聞いたかもしれないが、神を含め、全属性を扱えた存在など過去に例がないのだ、そのような稀有けうな存在が、魔法そのものを行使出来ないなど、人類にとっての損失以外の何者でもないだろ?」


「そうなんですね……」


「なんだ、他人事のようだな?」


「いや、あまりにも突然のことで、まだ理解が追いついてないというか……」


「フッ、まあいい、まだ他にもあるのだ……魔王パズズが倒されたのは知っているな?」

 あれ?パズズさん魔王なの?


「はい」


「しかしな、魔族はまだまだ健在で、戦いが終わった訳ではない。実は、勇者達は私の教え子なのだ、死なせたくない。私的な理由ではあるが、将来的に君の力を貸して欲しいのだ」


「なるほど……もう一ついいですか?」


「なんだね」


「僕は世間知らずで、この世界の真理を知りたいんです。この学園に入学することで、その願いは叶いますか?」


「真理か……それはまた大きく出たな」

 すごく軽い気持ちで聞いたのつもりだった。


「近道になる事は間違いないと言っておこう」

(条件は悪くないし、魔法学園なら色々都合が良さそうな気がする。ステイタス1万倍問題があるが……)


「わかりました。お世話になります」


「英断だ、歓迎する」


「早速だが明日からでいいか?」


「はい」


「では、夕刻頃までに君の部屋を用意しておく、それぐらいに、ここに戻ってきてくれたまえ」


「君にも都合があるだろうからな」


「承知しました」


「アル、これから宜しく」

「メイさん、こちらこそよろしくです」

「アルは後輩だからメイ先輩と呼ぶのです」


 呼び捨ては親しみが込められたものではなかった。



「「失礼しました」」

 僕たちは学園長室を後にした。


「メイさん、色々ありがとうございます。僕は夕刻までに、諸用を済ませてきます」


「わかりました。では、また。」


 今日も急展開だ。そして色々方向性も決まったので、ウルド様に逢いに行くことにした。


『ウルド…』

『あ、アル!あの後、念話で呼び掛けても返事が無かったから、すごく心配しましたよ』


『ご、ごめんウルド、睡魔に負けて寝落ちしちゃった』


『まあ何事も無く一安心です』


『何事も無くは無いんだ…』


『え?!』


『色々報告したい事もあるし、今すぐそっちに行っていい?』


『今すぐ?』


『別に構わないけど、そんなに速く飛行出来るようになったの』


 僕はテレポートでウルドの元へ向かった。

「違うよ、文字通り今すぐ」

「ア、アル!」

「あれ?言ってなかったっけ?テレポート使えるんだよ」


「知らなかったです……おかえりなさい」


「ただいま」


 今にも抱擁がはじまりそうな雰囲気。


「姉貴ーーーっ」

 絶妙のタイミングでベル様が来た。


「あーーーーー!」


「ア…ア…アル様!」


「「へ」」


「いら…いら…いらしていたのでね……」


「「……」」


 ウルド様と2人、目が点になった。

どう言う心境の変化か分からないが、嫌な予感しかしない。


「昨日は…本当に、ごめんなさい…私、反省しています」


「べ……ベル?あなた、何処か具合でも?」


「大丈夫です。お姉様」


 僕のメンタルが大丈夫じゃない。


「アル様……今度、昨日のお詫びをさせて下さい!」


 それだけ告げるとベル様は脱兎のごとく、ウルドの部屋から飛び出て行った。


「「………」」


「ねえアル」

「はい」

「あなた、昨日どんなお仕置きをしたの?」

「よくある伝統的やつなんだけど…」

「あの子…」

「乙女の顔になってたね…」

「はは…」


 悩みの種がつきない。


 僕はウルドと別れてからの出来事を全て話した。


 彼女は呆れ顔で僕の話を聞いていた。


「また、沢山のフラグ立ててきましたね…」

「えっ…」

「アルにはもう少しだけ冷静に、自分の価値を考えて欲しいです」

 その観点はなかった。


「わかりました……」


「ねえウルド、此処で時間まで、ゆっくりしててもいい?」


「もちろんです」

 

 ウルドとは、どうしても話さなければならない事がある。

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