第11話 ながーい1日

 僕はベル様に街の外まで連れ出され、人気のない場所でボコられている。


 心当たりは全く無い。

 好意的に解釈すれば、女神である彼女が同じ女神のウルド様と話をしていて、いきなり激昂した結果なのだから、僕に何か落ち度があったのかも知れない。


 ちなみに自動治癒が付与された上着は、生意気だってことで剥ぎ取られた。


 しかし、さすが神の拳だ。

 ステイタス1万倍の僕でも、しっかりダメージを受けている。

 実際問題、このまま問答無用で殴られ続けられると危ないかも知れない。何処かで会話のきっかけを作らなければ……


「ベル様やりすぎです、死んでしまうのです」

 違うよ聖女様、僕が普通の人ならとっくに死んでるからね。


 ベル様は聖女が静止しても止まる気配が全くない。


 でも、そろそろ頃合いのようだ、流石のベル様も拳が鈍ってきた。結構殴り続けている、体力的には相当キツくなっているはずだ。


 プロボクサーですら、ずっと殴り続ける事はできないのだから。


 まぁ相手は神だから、人間の体力と比べてはダメだとは思うが…


「ハァ、ハァ」


 やっと息が上がってきてくれた。

 このチャンスを逃すわけにはいかない、僕の命がガチでかかっている。


「べ…………ベル…さ…ま」


 ヤバイ、思ったよりダメージ受けてる。まともに喋れない。


「り…………り…理由を……教えて……くださ…い」


「ハァ、ハァ」

「理由だぁ?そんなもの簡単だ、テメーが姉貴をたぶらかしたからだろ!胸に手あててみろ!」



「た……たぶらかすだ、ブッ」

 話しの途中で殴ってきた。

 この女神、絶対頭おかしい。


 にしても……

たぶらかした?

僕が、ウルド様を?

とりあえず言われた通り、胸に手を当てて考えた。


 確かに僕はウルド様からヒモ提案をうけたが、それはキッチリ断り僕が自立してから再考する事になっているはずだ。


 もしかしてウルド様は、お優しい性格だから、哀れんで僕にしたくもない気遣いをしてくれているのか?


 それに甘えた僕は、事ある毎にウルド様と念話を繰り返し、さも恋人気分でお互いの事を話してあっている気になっていたのか?


 確かに、冷静に考えれば僕は人間でしかもニートだ。

 そしてウルド様は神であり、世界樹の守護神だ。


 2人の歴史も今日一日だけだ……ぼ……僕は、とんだ勘違い野郎だったのか?


 そんな事を考えていた矢先に、ベル様から衝撃の事実が伝えられる。


「テメーは姉貴をたぶらかして、姉貴の手料理たらふく食ったそうじゃないか!」

「俺なんか何百年も食ってないんだぞ!」


「お……俺も食べたかった!!!」

 ベル様涙ながらの訴えだが……


「え……」

 頭が真っ白になった。


「も……もしかして……ウルドの…………手料理たべられなかったから……怒ってるの………ですか?」


「そうだ!」

「そんなことで、僕は殴られていたのですか?」


「そうだ!」


「……」


 こいつは……ダメだ……


 深読みしていた僕がバカだった。

いや、むしろ真のバカが目の前にいる。


「……びっくりです」

 僕もびっくりだ。


『ウルド………』

『大丈夫でしたか?』

『いや、ボコられた』

『ええええ』

『なぁウルド……』

『は……はい』

『ベル様………いや妹の怒っている理由がつまらなさすぎた……お仕置きしてもいいよな?』

『い……いいですよ……お手柔らかに』

『また連絡する』

『はい…………』


「聖女様」

「はいです」

「今からこの駄女神にお仕置きします。念のために結界に入っていてください」

「わかりましたです」


『結界』

 聖女は察したのか、結界から動かない。


「テメー、何先から偉そうな口聞いてんだ?あぁ?」


『神威』

 神対神スキルのガチ勝負だ。


「くっ…、なんつー神威だ!」


「お仕置きタイムです」


『跪け』

 とりあえずベル様を跪かせて、動きを封じた。

「テメぇーくそ!何しやがった」


「『言霊』ですよ、僕の方が神格が上みたいですね、さぁー覚悟して下さいね!」


「テメー人間のくせに、何が神格だ!」


 僕はベル様の傍に片膝立ちで座った。

お仕置きの定番と言えば、やっぱり・・・


「ぱちーーーーーーーーーーーーーーん」

「いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 お尻ペンペンだ。


 ステイタス1万倍の力で、思いっきりぶっ叩いた。

 跪きに抵抗して、四つん這いになっているから丁度いい。


「言っときますが、謝るまで許しませんよ?」


「くそ!誰があやま……」

「ぱちーーーーーーーーーーーーーーーーん」

「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!」


 手加減は一切しない。


「ちゃんと人の話は最後まで聞きます。もう2度とこんな暴走はしません。って言わなきゃやめないですよ?」


「てめぇー俺が誰だがわかってんのか!」

「駄女神」


「ぱちーーーーーーーーーーーーーーーーん」

「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!」


 ベル様は389発目のお尻ペンペンに屈した。


「うぅっ………うっ……ひどい……」

「酷いのはベル様です。

おイタが過ぎたです」


 聖女様、よくぞ言ってくれた。

ベル様は聖女に連れられ、泣きながら帰っていった。


「ふぅ……なんだったんだよ………」


 さすがに疲れた…………このイベント要らなくね?と心の底から思った。


 僕はその場に大の字で倒れこんだ。


 身体中が痛む……


 パズズ戦より、ダメージが残っている。

ぼーっと空を見ていて思う。


 この世界は星が綺麗だ。


(この後、ウルドに連絡して、宿探して……なんだっけ………)


 僕はそのまま眠りに落ちてしまった。

この世界に来てからの初日。

密度の濃い長い1日が終わった。

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