第10話 ベル様と聖女

 酒の肴に彼女達から詳しい話を聞いた。


 今日が世界の運命を決占う決戦の日であったこと。


 世界各地で人間と魔族との戦があったこと。


 その決戦の主戦場がユイリ達の居た戦場で、魔族軍撃破の後、世界樹奪還作戦も予定されていたこと。


 魔王パズズが倒されたことで、世界各地の魔族軍は撤退したこと。


 まだ魔族の脅威が無くなったわけではないが、魔王パズズを失ったことでしばらく世界に平穏が訪れるとのことだ。ちなみに神託では、誰がパズズを倒したのかは明かされていない。


 僕は一つの矛盾を感じていた。


(ウルド様は確か、パズズが魔王だったのは今の魔王が誕生するまでと言っていた。普通に考えるとパズズの他にも魔王がいる。まだ、魔王は倒されていない?!)


「なに辛気臭いツラしてやがるんですか!アルゥ」

 ユイリは完全にできあがっていた。

 結構絡んでくる。

 こんな勇者様の姿、他の人には見せられない。


「ユイリ、飲み過ぎ、良くない」

「Zzzzz…..」

 ジュリは寝落ちしながらも、たまに突っ込んでくる。


「アル!私はまだ、お前との約束を果たせてない!なのに私は……うぅ……」

 レイラも完全にできあがっている。

 泣上戸だ。


「あはははは、みんなバカだね〜」

 ジニーは案外ケロッとしている。


「あ、そうだ、僕今の間にちょっと部屋おさえてきます。ジニーさん達はどうされますか?」


「私ら陣幕に戻った方がいい気がするんだけど……これだからねー」


「わかりました。とりあえず取っておきます」


 絡みつくユイリを振りほどいて1階のカウンターに行き、オーナーにここまでの会計と、今使っている部屋の宿泊と、それとは別に個室の用意をお願いした。


 しかし残念ながら、部屋は今僕達がいる大部屋しか空いていなかった。前払いだったのでとりあえず大部屋の支払いだけ済ませて部屋に戻った。

(野宿か……多分はじめてだな、ウルド様にあまえてみようかな?)


「お待たせです」

「大丈夫だった?」

「はい、バッチリです。みなさんはこの部屋をそのまま使ってください!

ってか、もうしっかり使ってますね……」


 部屋に戻るとジニー以外はベッドでご就寝だった。


「いつもこんな感じなんですか?」


「そう、いつもこんな感じ」

「ねえ、アルは楽しめた?」


「はい、楽しかったです」


「ならよかった」

「ここ何日か、みんなプレッシャーすごかったからね」

「勇者だ、勇者の従者だって言っても、光属性が使えてみんなより少し身体能力が高いだけなのに」


 これが彼女たちの本音だろう。


「切られたら痛いし、大きなダメージもらうと、死んじゃう」


 僕は何も言えなかった。彼女達の心情は、彼女達にしかわからないのだから。


「そうだアル!銃撃たせてよ」


「それはいいですけど・・・皆んな放って置いて大丈夫ですか?」


「何言ってるの?アル

勇者とその従者よ?何の問題ないよ」


 身もふたもない、先の僕の感動を返して欲しい。


「でも、一応念のため」


『防御結界』


「わぁ!これが先話してた、女神様の結界?」

「そうです。勇者一行とは言え、女の子だし、睡眠中はさすがにキツイでしょ?僕の魔力が尽きるか、僕が解除するまで大丈夫です」


 僕は万が一に備えて結界を張った。


「アルはやっぱり凄いね」


 ジニーと色々な話をしながら、街外れの試し撃ちができそうな場所まで歩いて来た。


「はいどうぞ」


 ジニーに擬似ビームガンを手渡す。

「うー緊張する」


「大丈夫ですよ」


 ジニーが擬似ビームガンに魔力を込める。


「あ、光った!」


「その状態であの的に狙いを定めて、トリガーを引いてください!」


「ピシュン」


「あたった!あたりましたね!」


「うん!あたった!」


「まだまだ、やってみましょう!」

「うん!」


 その後しばらく試し撃ちを続けた。ジニーは筋が良く、殆ど的を外さなかった。


「すごいですね!ジニーはセンスありますよ!」


「本当!嬉しい!」


「でも、すごく疲れる……」


「魔力消費しますからね。魔力対策しないとですね」


 帰り道ジニーがビームガンに名前をつけた。

MAG01《マグゼロワン》

Made Aru Gunの頭文字を取りその一作目だから、01。


 僕はこの名前が妙に気に入った。今後のアイテムもこの命名規則を使おうと密かに思っている。


 そうこうしている間に部屋についた。


「じゃぁ、そろそろ僕は行きます。結界どうします?」


「あ、もう大丈夫よ」


「わかりました、じゃぁ今日はこのへんで、とても楽しかったです!おやすみなさい」


「おやすみー」


 僕はクロスロードを後にして、街の広場までやって来た。広場の中心にある噴水に座って街を見渡す。


 もう夜中だってのにお祭り騒ぎは続いている。


(そりゃ滅びるかもしれない、未来から解放されたらそうなるよなぁ)


 僕も少し眠くなってきた。時計がないから正確な時間はわからないけど、20時間ぐらい連続で稼働しているはずだ。


(やっぱ、ウルド様にあまえよう……)


 そう思った矢先。


『アル、アル起きていますか?』

『起きてるよ』

『大変です!』

『何かあった?』

『私は、大丈夫です』

『大変なのはアルです!』

『え?』

『妹が、ベルダンディが、アルをぶっ飛ばすとか言ってそっちに向かいました。』

『え?なぜ?』

『ごめんなさい、私のせいなのです。

私がアルのことを妹に話したら、いきなり激昂しだして……』

『え……』

『何を話したんですか!』

『普通の話です!

でもあの子はせっかちで、人の話を最後まで聞かないので、何か勘違いしてるのかも……』

 とても残念な女神だ。

『聖女を介して、その街に顕現していると思うので、女性の2人組には注意してください』

『わかりました』

 でも、多分遅い。背後から殺気のこもった視線を感じる。

『ちなみに、容姿は?』

『私の目を少しキツくした感じです』

『わかりました、また連絡します』


 殺気の発生源が近付いてくる。


「おいテメー、今誰と念話してた?」

 イキナリきたぁぁぁぁぁぁぁ

 僕は振り返る。

 ビンゴだ、ウルド様をちょっと怖くしたような容姿のお姉さんと、青い髪に青い瞳のおっとりとしたお姉さんが立っていた。


「な……何のことでしょうか?」


 とぼけてみたらイキナリ胸ぐらを掴まれて、頭突きをかまされてしまった。


な…なんだろう?この感じはじめてじゃない気がする……


「痛っ」

「ベル様、暴力はダメです」


「テメー何とぼけてんだ?しばかれたいのか?」

「しばいちゃダメです」


 顔と顔がゼロ距離だ。

ウルド様に似ているせいか、こんな状況なのに少しドキドキしてしまう。


 聖女もおそろしく美人なのに、なかなか濃いキャラっぽい。


「おい、テメー少しツラかせや」

「ベル様もっと優しくです」


 怖い……僕は元の世界でもこの手の人達に耐性がなかったのかもしれないと思った。

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