第9話 勇者パーティー

「改めてまして……アオイ アルです。名前の方がアルです」


「ユイリ・ヘンドリクスです」

「レイラ・クラプトンだ」

「ジーニアス・ペイジだよ」

「ジュリ・ラージ」


「皆さん、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」

「うむ」

「よろしくねー」

「よろしく」


 挨拶一つとっても彼女達の個性が出ている。偶然というか必然の流れで、勇者パーティーと一緒に食事をとる事になった。勇者一行ということで、オーナーが特別に2階にある宿泊用の大部屋を用意してくれた。勇者一行のプライバシーは保護されている。


「ねーねー何食べる?アルさんは何が好き?」


 ジーニアスさんが仕切ってくれている。


「僕はよくわからないので、皆さんのオススメが良いです」


「あっ、ちなみに私の事はジニーって呼んでね」


「わかりました、ジニーさんですね」

「愛称だからジニーでいいよ」


「分かりましたジニー、僕のことはアルと呼んで下さい」

「飲み込みが早くて助かるわ」


 ジニーは親しみやすいフランクな感じの子だ。


「私もレイラでいいぞ」

「私もユイリでお願いします……」

「私の事はジュリ様とお呼び」



「わかりました……レイラ、ユイリ、ジュリ様」


「嘘、ジュリでいい」


 不思議な子が混ざってた。


「アルはお酒いける口?実は私たち今日は飲みメインなの」


「強すぎなければ、大丈夫と思います」


「なんか自分の事なのに曖昧な答えね?」


「アルは隠遁暮らしが長く世情に疎いらしいのだ」


「へー、レイラよく知ってるね」


「い……いや、道中そんな話しになったものだからな」


「ふーん」


「……そう言う事なんです」


「じゃあアルは、お酒飲んだ事ないの?」


「記憶にございません」


 元の世界なら『どこの、政治家だよ!』ってツッコミが入るところだが、普通にスルーされた。


「みんなは、いつもの感じでいいかな?」


「「「うん」」」


「店員さん呼んでくるね」


 こんな時は仕切ってくれる人がいると助かる。


「あ……あの…アル……」


 ユイリがモジモジしている。


「昼間はあの……ありがとうございました、今こうしてここに居れるのも、アルのおかげです」


「あれは大変でしたね、僕は正直、もうユイリが戦えないと思ってました」


「実は無我夢中で、よく覚えてないのです……」


「聖なる光のオーラがユイリを包み込んで、凄いことになってましたよ!きっちり敵将も討ち取りましたしね。ユイリの胆力には驚かされました。さすが勇者様ですね!」


 こうして話している傍ら、ジニーがオーダーを通してくれている。しっかり者だ。


「ところで……私……アルみたいな戦い方、見たことありません!あれは武器なのですか?スキルなのですか?魔法なのですか?」


「それは私も気になっていた、差し支えなかったら聞かせてくれないか」


(あ、この世界には『銃』は無いのか。ウルド様が普通に受け入れていたから、気にしていなかったな)


 僕は自分の能力や正体?について、全てを隠そうとは思っていない。かと言って、『神スキル』が使えると吹聴するつもりもない。


 今はなるべく穏便に、面倒ごとに巻き込まれないようにと考えている。


 だって、まだこの世界の初日だし、何もわからないし、明日目覚めたら自分がどんなテンションなのかもわからない、なるべく普通を装いたいのだ。


 実際には自分から面倒ごとに首を突っ込んで、普通を装いにくくしているのだが……でも、見過ごすことが出来なかったんだから、仕方がない。


(とりあえず、話すか)


「これの事ですか?」


 僕はストレージからビームガンを取り出した。取り出したと言うよりは、銃の持ち手の構えをして、そこにワープさせた感じだ。


 ストレージの中のアイテムは、任意の場所に取り出すことが出来る。


「「「「!!!」」」」


「今の……どうやったの……?」


(あれ?みんなストレージは使えないのか)


「あ、これはストレージという、異空間にアイテムを収納出来るスキルです」


「空間収納ボックスのスキル版ってことか……聞いたことないなぁ」


 僕はそんな便利グッズの存在知りません。


「まぁ……空間収納については一旦置いときましょう。それより、そっちの武器?魔道具?の方が興味あります。」


「同感だ」「同意」「そうよね」


 4人ともかなり前のめりだ。


「これは『銃』って名前の遠距離攻撃用の武器です。流通してないのは自分で作ったからです」


「「「「自分で!」」」」」


「自作って言っても、圧縮した魔力の出力をコントロールして、発射するだけの機能しかない単純なものですよ」


 皆んなポカーンとしている。


「え、え、え、どういいうこと?……」

「私には理解できない……」

「難しいよ……」

「意味不明」


 実のところ、僕もそう言う風にイメージしたら作れたってだけなので、本当の意味での仕組みはわかっていないのだが……とりあえず実演する事にした。


「まず、銃に魔力を込めます。具体的には銃に魔力を送ることをイメージします。」


 4人揃って頷く、みんな興味深々だ。


「すると、ここが光ります」


 みんなに銃身の発光部を見せる。


「これで準備が整った状態です」


「後は力加減を意識して、このトリガーを引けば」


 僕は右手で左の手のひらを「1%」の出力で撃った。


「ズバァァァァン」


 まぁまぁ凄い着弾音になった。1%でも結構な威力だ…… 0.00001%ぐらいでないとダメかもしれない。


「「「「「…………」」」」」


 ちょっと痛かった…


 自分の手でよかった…

 個室でよかった……


「こんな感じです!」


「「「「どんな感じ!!!」」」」


 僕は左手を見せる。

「ほら!怪我してないですよね!」


「何か失敗したでしょ……」

 みんなにジト目で見られる。


「ま……まぁそれは置いといて、理屈的にはそんな感じなんです」


「どちらにしても判らないわ……」

「そうだな……」

「でも凄そうだよね」

「手痛そう」


「実際に撃ってみると、なんとなく判ると思いますよ」

「作り的には魔力さえあれば誰でも扱えるはずです」


「「「「撃ってみたい!」」」」


「い……いいですよ、食事が終わったら外で試し撃ちしましょう」


「ねーこれって作るの大変なの?」

 4人の中でもジニーが特に食いついている。


「うーん、大変ではないですが、魔石ランクSが必要です……」


「「「「ランクS・・・」」」」


「と言うことは……アルはSランク持っていたのですか?」


「はい、いくつか手に入れて武器とアイテムを作りました」

「でも…… Sランクがこんなにも高価だとは知りませんでした」


「私その武器欲しい!私、支援、回復がメインだから攻撃手段が無くて……」


「魔力さえあれば、いいんだよね!」


「は、はい……」


 ジニーの勢いに、気圧されてしまった。


「Sランクの魔石手に入れたら作ってくれる?」


「も……もちろんです」


「ありがとうアル!」

「わっ!」


 ジニーに抱きつかれた。

ナイススキンシップ、僕は嫌いじゃない。


「「ジニー!」」


「なによ」


「ア……アルが困っているぞ……」

「そ…そうよ」


「まあ、いいわ」

 ジニーはニヤニヤしながら、自分の席に戻った。


「そ…そうだ!あの結界は何なのだ?魔神の攻撃をいとも簡単に防いでいたではないか」


「あ、それ私も聞きたいです!私それに包まれている時、すごく不思議な感覚でした…」


 レイラが強引に話題を変え、ユイリがそれに乗った。


「え、あ、結界ですね。少し待ってくださいね」


 目を閉じて、考えこんでいるフリをしつつ、ウルド様に相談だ。


『ウルド、折り入って相談が』

『あ、アルちょっと待ってくださいね』


『お待たせしました』


『大丈夫?都合悪いなら改めるよ』


『大丈夫よ、本当に都合の悪い時は無視するので』


『えーーっ』


『冗談ですよ。で、何かありましたか?』


 僕は、ウルドに事情を説明した。


『もちろん、良いですよ』

『ありがとう!』


『そんな事をわざわざ確認してくるなんて、アルは真面目さんですね』


『いやぁ、親しき中にも礼儀ありとか言うし、ウルドから授かったものだから、許可を得ていないと不安で』


『私とアルの仲で遠慮は無用ですよ』


『ありがとうウルド、ひと段落ついたらそっちに行くよ』

『また後でね』

『え?』

『あ、うん、また後で』


 お許しをいただいた。



「随分待たせるわね……」


「お待たせしました。ここだけの話にしてくださいね」


 4人が頷く。


「あの結界……」


「実は………」


「実は、女神ウルド様にいただいたご加護の力なのです」


「「「「ウルド様!」」」」


「しっ!」


「ウルド様って……世界樹守護神のか……」

「はい」


「ご加護が授けられたって……ウルド様とお会いになられたのですか?」

「はい」


「し…信じられない……本当なの?」

「本当です」


「女神ウルド様美しい?」

「美しいです」


「ねえアル……何故ウルド様の加護が授けられたの?」


「「「気になる」」」


「…そ…それは」


「「「「それは!」」」」


「ウルド様に、聞いてみないとわからないです」


「ま…まあ、そうかも知れんな……」


「あっ、ところでレイラ、街のお祭り騒ぎの理由は、何だったのですか?」


「そうだ、言いそびれたままだったな」


「はい」


「実はな、聖女様の元に、ベルダンディ様より啓示があったのだ」


「魔王パズズが倒されたと」

 あれパズズさんって魔王なの?

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