第8話 テレキャスの街

 僕とレイラは日が暮れる前にテレキャスの街に到着した。


「なんだか、街が騒がしいな」


「確かに、騒がしいですね」


「アルは身分証の手続きを済ませてくれ、私は門番に事情を聞いてくる」


「わかりました」


 事前にレイラから色々と教えてもらっていたので、手続きは問題なく進み、やっとこの世界での身分証が完成した。


 ここまでの道のり……長かった……と言っても全て今日の1日の出来事だ。レイラの事情徴収もタイミングよく終わったようだ。


「レイラさん見てください!できました!身分証です!」


「おいおい、そんなことで騒ぐと変な奴だと思われるぞ」


「それもそうですね」


 レイラは優しく微笑んだと思ったら、神妙な面持ちになる。


「レイラ…さん…」


「なあ、アル……すまないが、ここで解散させてくれ?仲間がこの街に来ている。戻らないと……」


「あ、大丈夫です!」


「すまん……テトリアシトリ教えると言っておきながら……」


「いやいや!それは本当にいいですって!」

 まだ引きずっていたようだ。


「レイラさん、本当に気にしないでください。親切に色々教えていただいたので、僕だけでもなんとかなりそうです。ありがとうございました!」


「アルは……命の恩人だと言うのに……」


 僕はレイラの唇に人差し指を当て彼女の言葉を遮った。レイラは目を見開いて驚いている。


「レイラさん。強すぎる責任感はいずれ自分を壊します。もう少し肩の力を抜いてくださいね」


 僕はそれを告げ街の中へ歩き出す。そして彼女へ振り返り大きく手を振った。


 レイラはしばらくその場に立ち尽くしていた。


(さてと)


 僕が最初に向かうべき場所は決まっている。


 魔石の換金所だ。


 魔石を換金しないことにはご飯も宿もない。


 街の事に明るくない僕は、道中幾度か道を尋ねた。街はまるでお祭り騒ぎで、道を尋ねるだけでもすごいテンションで答えてくれる。

(そう言えばレイラさんに、このこと聞くの忘れてた)


 そうこうしているうちに無事換金所に辿りつけた。換金所も賑わっており長蛇の列だ。そして僕の順番が回ってきた。


「お願いします」


 作法がわからないので、言葉少なめにストレージから魔石ランクSを一つ取り出す。


「換金ですね。少々お待ちください」


「ども…」

 色んな意味で、受付のお姉さんのクオリティが高すぎて、ついついキョドってしまう。


「ランクSの魔石一つですね」


「はい」


「ってランクSッッッッッ!!!」

「あの……少々お待ちください。金額を確認してまいります!」


「承知しました」


 しばらくして受付のお姉さんが戻ってきた。


「ランクSの魔石150万エンになります」


 予想以上の金額だった。レイラの言ってた通りランクSは希少価値があった。


(まだ、ランクSの魔石は660個程ストックがある。

これを全部売っぱらえば…9億9千万エン!!!

流石に全部売ったら値崩れするだろうから、もうちょい下がりそうだけど……

一生遊んでで暮らせる。

これを元手に商売をはじめるって手もある。

もっと世情を知る必要があるな)


 そんなことを考えながら、受け取ったお金をストレージに入れて換金所を後にした。


 懐と心にゆとりのできた僕は、しばらく街を散策することにした。


——————————


「ただいま」

「「レイラ!」」


「戦果は門番に聞いたよ、大勝だってな、みんな無事だったみたいで一安心だ」


「レイラこそ心配したよ」

「迷子のレイラ」


「途中危なかったけど、なんとか無事だ」


「ていうか、よくこんなに早く戻ってこれたな」


「まあ、色々あってユイリが負傷兵扱いになって先に帰還させてくれたの」


「ユイリが!大丈夫なのか?」


「ご覧の通り大丈夫よ」

「ユイリ頑丈」


「アレは何だ?…」


 勇者ユイリが、うつ伏せになってうなだれていた。


「謎の生物」

「今日の決戦が終わってから、ずっとああなの」


「ツンツン」

「ほら、ユイリ、レイラが帰ってきたよ」


「あ、レイラ、おかえり」

 腑抜けた顔でゆるい挨拶を交わす。


「大丈夫なのか???」


「「さぁ」」


「一体、なにがあったんだ?」


「恋する乙女」

「実はさ、ユイリに戦場で運命の出会いがあったの、あれは私も見てたけど、凄かった、惚れるわ」


「何!!!」

(あ……あのユイリが恋だと…)

「具体的に!!!」


「今日の戦い、敵軍の作戦にモロハマっちゃってさぁ、ユイリが敵軍の中に孤立しちゃったの」

「孤立無援」


「救援に向かおうとしたんだけど、敵の壁が厚くて無理だったの……」

「上級魔法でも、無理」

「ジュリの魔法でも、穴をあけれなかったのか」


「私の遠隔支援魔法も届かなかったの」

「ジニーの支援魔法も無しか……そ…それは、さすがのユイリも絶対絶命だな……」


「そう絶体絶命」

「助け出されたユイリ、髪の先まで血だらけだったもんね」


「それは酷いな……」


「その絶体絶命の状況を、どこからともなく現れた彼がひっくり返してくれて、ユイリが敵将を討ち取る時まで完璧にユイリを守りきってくれたの」

「白馬の王子さま」


「凄いなぁ……」

(もしかして…………アル?

いや、流石にあの距離でほぼ同時刻だから別人か)


「ユイリね……お姫様抱っこで助け出されたんだよ」

「ユイリ顔真っ赤」


「お姫様抱っこ?!」


「そう敵将を討ち取ったユイリが、その場に倒れこんだらしいの、戦闘はまだ継続中だったから、もちろん敵軍の的になったんだって」


「でも彼がそんなユイリをお姫様抱っこして、敵軍から大ジャンプで逃れてきたの」

「お姫様もびっくり」


「それ……人間なのか……にわかには、信じ難いな……」


「本当だって!私も敵軍から飛んでくるところ見てたもん」

「事実」


「容姿はちらっとしか見えなかったけど、爽やかな感じだったよ」

「イケメン」


「で、その彼はどうしたんだ?」


「名前も告げず戦場へ戻っていっちゃった」

「照れ屋さん」


「それは完璧な白馬の王子様だな!」


「ユイリ、そんな展開に憧れてたからね」

「勇者を助ける王子」


「なるほど……世界は広いな……」


「いや私もな、今日ユイリと似たような体験をしたんだよ。流石にお姫様抱っこは、なかったがな………」


「「えっ何それ?」」


「ユイリを庇って転移させられた後、魔族の部隊が待ち構えていて戦闘になったのだが、結構キツイ戦いでな……そんな時に私の元へも白馬の王子が現れたんだ……」


「もしかして同一人物?」

「同じ人」


「それは私も考えたが、場所と時間を考えるとそれはないと思う」

「彼は私の飛ばされた西の街道から、徒歩でこの街を目指していた」


「あ、それは無理だね」

「無理」



「しかも魔族の部隊隊長は魔神で、私は死を覚悟したよ」


「「魔神!」」


「情けない事に、私は魔神との戦闘中に、意識を失ったんだ。

消耗しすぎたせいで、瘴気に耐えられなくなってな……」


「瘴気ダメ」

「やばいじゃん!」


「そして目覚めたら、彼が側にいて……魔神は彼が倒してくれていたんだ」


「ええええええええ、まじ!」

「びっくり」


「「その彼は?」」


「西門で別れたよ」


「なんでさ!連れてきたらよかったのに!」

「レイラにビックリ」


「いやいや、流石に陣幕には無理だろ、彼は軍人ではないしな」

「私たちだって軍人じゃないよ!」

「冒険者」


「でもいいなぁ、二人とも素敵な出会いがあって」

「運命的の出会い」

「いや、違うからな!私はまだ惚れてないからな!」


「まだ?」

「レイラ顔真っ赤」


「う……うるさい!」


「なんかそういうのいいね」

「素直になれよ」


「なぁ2人とも、ユイリもあんなだし、街に飲みにいこうか?」


「「「さんせー」」」


「「「ユイリ?」」」


「私も、飲みたい気分なの」



—————————


 街を散策してきた僕は、ご飯を先にするべきか宿をとってからご飯にすべきか考えていた。宿屋の下にちょっとした居酒屋みたいな場所があれば最高なんだけど、と思っていると。


 『宿・酒・食事処クロスロード』と書かれた看板が飛び込んできた。なんという都合の良さ、と思いつつも僕は店に足を運ぶ。


「「「あ」」」 


 前から歩いてきた4人組の女子の2人は見知った顔だった。


「あなたは昼間の!」「アル!」

「「「「え?」」」」


「あれ?勇者様とレイラさんは、やっぱ同じパーティーだったんですね!なんか、そんな気がしてたんですよ」


「「彼?」」


「ん?」


「「うん」」


「「世界は狭いね」」


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