第7話 二刀流の剣士レイラ
夕方に差し掛かる頃、女剣士は目覚めた。
「おはようございます、体調は如何ですか?」
「お……お前……まだ居たのか!
そうだ!
ま……魔神は!
魔神は……どうした?!
……私は確か……光が……」
目覚めた女剣士は記憶が混濁していた。
「あのー
魔神のことなんですが……
僕が倒してしまいました……
横ヤリ入れてしまって、すみません」
この世界のルールは判らないが、MMO等は、横ヤリがご法度なので一応謝罪した。
「た……倒しただと……
あの……魔神をか……」
彼女は何かを思い出したかのように、僕の両肩を掴み揺さぶる。
「私は問題ない、そ……そんな事より、お前だ!
魔弾の影響はどうなのだ!
お前の身体はなんともないのか!?」
すごく真剣な眼差しだ、めちゃくちゃ心配してくれている。
「だ…大丈夫です!
ダメージも状態異常の影響も、特になさそうです」
「そ…そうか……よかった……」
彼女はホッと胸をなでおろす。
「レイラだ」
「へ?」
「私の名だ。
お前は?」
「あっ…アルです。
アオイ アル名前がアルです」
「アル………お前は強いな………」
レイラは伏し目がちで、少しの間沈黙が続いた。
「アルは、テレキャスに行くつもりだったのか?」
「はい」
「そうか…」
レイラは何やら思案しているようだ。
「私も同行しよう」
「え」
少し睨まれた。
「早速、出発しよう。あまり遅くなると街に入れん」
同行は決定事項のようなので、僕は逆らわなかった。
「そうなんですね、わかりました」
ここからだと歩いても1時間弱で到着する。今からならそう遅くはならないはずだ。
しばらくの間は、ただ歩くだけで会話はなかった。
沈黙を破ったのはレイラだ。
「アル…
本当に、助かった…
あ……ありがとう」
あまりの態度の急変に、戸惑ってしまう。
「お……お役に立てて幸いです」
全く気の利いた台詞が思いつかなかった。
「アルが来なければ、私は死んでいたのだろうな」
遠い目で空を見上げるレイラ。
「いや、でも凄い剣技でした。
見惚れてしまうほどの…」
「お前が回復しサポートしてくれたからだ」
「正直、あの負傷では……
仮に奴らを撃退できたとしていても、助からないと思っていた。
アルは命の恩人だ……」
「とんでもないです」
ジト目で見られた。
こんな時に気の利いた事を言えるように、ボキャブラリーを増やさないと。
「わ…私は、アルにお礼がしたい」
「お礼……ですか…」
「そんなに気を使ってもらわなくても、大丈夫ですよ」
「気を使っているわけではない、本心からだ!」
「何なら、カラダを求めてもらっても、良いんだぞ?」
「へ?」
なんてこと言うんですか……この人は…
レイラは確かに出るところ出てて、引っ込むところ引っ込んでいるナイスバディ、しかも超美人だ。
「なっな・な・な・な・何を言ってるんですか!
からかわないて下さい!」
「ん、でも今……私のカラダをガン見したろ?」
「え……」
バレてる。
「まんざらでも、ないんだな」
レイラが、無邪気に笑う。戦闘時とは、まるで別人だ。
「そりゃそうですよ!レイラさんみたいな綺麗な女性にあんな事言われたら、男は普通、理性が爆発するもんです!」
「き………キレイ?!わ……わ…私がか!?」
あっ、この人耐性が無くて自分の価値も知らない人だ。
「レイラさん」
「はひ!」
わかりやすく噛んだ。
「お礼と言うのなら、折り入ってご相談があります」
レイラは固唾をのんで頷く。
「僕は世情に凄く疎いのです!」
「今回テレキャスに向かうのも情報収集のためです!」
「レイラさん、僕にこの世界のイロハを教えていただけませんか?」
「なんなら、手取り足取りで!」
レイラが頬を赤らめる。
「テトリアシトリ……」
「そこ!?」
普通に突っ込んでしまった。
「わ……わかった。
命の恩人の頼みだ。
手取り足取り教えてやろう!」
レイラの目は本気だった。
僕は少し怖かった。
そして僕は、解決しなければならない疑問を彼女にぶつけた。
身分証、ステイタスの基準値、通貨についてだ。
まず、身分証はマストアイテムだと教えてもらった。
身分証が無いと街の出入りも出来ないらしい。
パスポートのローカル版って感じだ。
身分証は、係りの者にステイタスを提示し、専用の道具に手をかざす事で発行できる。
手数料は5000エン、大きな街の門番に頼めばOKで、これから向かうテレキャスの街でも問題なく発行できるとの事だ。
手持ちの資金が無くて、いきなり詰んだと思っていたら、魔石が換金できるので先の戦闘の分け前から差し引いてレイラが立替てくれる事になった。
戦闘で得た魔石は、Aランクが2つ、Bランクが5つだった。
実際に倒したのは全てレイラなので気が引けるのだが、彼女が是非にと言うので受ける事にした。
魔石の換金率は変動はするが概ね決まっている。
Cランク1000エン
Bランク5000エン
Aランク10000エン
因みに、ランクは魔物の強さに比例している。
Sランクは、魔物の存在そのものも希少で、倒せる者も少なくドロップする事も殆ど無いので、100万エンぐらいだそうだ。
なんだか期待に胸が膨らむ。
通貨の単位は、馴染み深い『エン』。
話を聞いている感じでは、通貨価値も日本と大差なさそうだ。
ステイタスは他人にも、開示できる。
身分証作成にも必要なぐらいだから、この世界では当たり前なのだろうが、その感覚に慣れるのには、少し時間がかかりそうだ。
僕は、自分のステイタスをレイラに開示し、ステイタス値の査定をお願いした。
蒼井
LV 25
HP 248
MP 255
STR 232
INT 249
AGI 266
DEX 268
LUCK 300
レイラ曰く、一般的な成長曲線だが、これだけ平均的に伸びるのは珍しく、ラックが異様に高いらしい。
一般的にラックはレベルアップの影響を殆ど受けず、100を超える事がまずないらしい。
レイラが、ステイタスを見せてくれた。
レイラ
LV 60
HP 766
MP 342
STR 759
INT 238
AGI 767
DEX 528
LUCK 88
聞いていた通り、レイラでもラックは88だった。
「はぁ……」
レイラが、大きなため息をつく。
「どうしました?」
「アルのステイタスを見て、自分の不甲斐なさに気付いたよ……」
「え」
「だってそうだろ?
アルはステイタスに依存せず、スキルをうまく駆使して、駆け引きや技術で魔族と渡り合っていた。
回復から、防御、攻撃の支援まで……
私はパーティーメンバーにだってあれほど戦いやすいサポートを受けたことがない。
レベルだけでは得られない、技量の差を思い知ったよ……」
いやいやレイラさん、実はステイタス1万倍なんだからだよ、とは言えず苦しい誤魔化しが続いた。
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