第6話 病の魔神アッハーズ
先ほどの反省を踏まえ、出発前にゴーグルと夜間の飛行に備えローブを作った。勇者達の戦場を迂回し空から『テレキャス』の街を目指している。そんな僕の視界に、魔族部隊と二刀流女剣士の戦いが飛び込んできた。
魔族部隊は指揮官、トロール2体、オーガ複数といった構成だ。女剣士はトロール2体の攻撃を凌ぎつつ、オーガの数を減らしている。指揮官は魔法で女剣士を牽制しているようだ。
(つか……あの剣士凄いなぁ)
見事な多対1の戦いだ。勇者といい、女剣士といい、この世界の女子は凄い。しかし、体力に限界がある以上、いつまでも、もつ訳ではない。倒しきるにしろ、逃げるにしろ、援護は必要だ。
僕は女剣士を認識し、テレポートで彼女の傍らに立った。女剣士は空から見ていたよりも深手だった。
「なんだ、お前……お前も、こいつらの仲間か?」
女剣士は、煌びやかなブロンドの髪をなびかせ、琥珀色の瞳で僕をにらみつける。
美しい彼女の容姿と相まって、近寄りがたさすら感じる。
「ち……違います。助太刀に来ました」
気圧されてしまった。
ゴーグルをストレージに格納し、ビームガンを手に取る。
「私に助けなど必要ない!関係ない者は消えろ!」
素気無くあしらわれてしまった。
とは言え、そんな状態の彼女を見捨てるなんて出来ない。
その表情にも余裕が感じられないので、僕はそっと『神の癒し』を使った。きっとアドレナリンが出ているだろうから直ぐには気付かれないだろう……
女剣士は全快したが状況は好ましくない。
変化の無い状況に、とりあえず僕は後方から指揮官の魔法を無効化させ、トロールの攻撃を弾き、直接的な介入は行わず彼女を支援することに徹した。
徐々に状況は好転し、一体、また一体と彼女の双剣の前に魔物が霧散する。
そして、ついには指揮官を残すのみとなった。
「ハァ……ハァ………」
女剣士は肩で息をしている。体力的な限界が近そうだ。
「残すはお前だけだ……観念しろ!」
客観的に見て追い詰められているというのに、指揮官は余裕の笑みを浮かべる。
「あなた方は、なかなかお強いですね」
「あなた方だと?」
「ええ、見事な連携でした」
女剣士に睨まれた。この人、圧がすごい。
「あなた方は、パズズ様が眷属、魔神アッハーズの相手にふさわしい」
指揮官は魔神だった。
「ちっ……やはり魔神か……」
女剣士の表情は厳しくなる。
「期待していますよ」
アッハーズは瘴気を展開する。人間にとって瘴気はデバフだ。
そして、数え切れないほどの禍々しい色の魔弾を自らの周りに展開し、無造作に放った。
「チッ!」
咄嗟の事で反応が遅れてしまった。
『防御結界』
何とか彼女には結界が間に合ったが、僕自身は幾つか被弾してしまった。
ダメージは大した事ないが身体中の力が抜ける。
「フフフ、その魔弾はあらゆる病や状態異常を引き起こす効果があります」
「貴方の使ってる高ランクの回復魔法でも回復することは出来ませんよ」
なんて厄介な。
「馬鹿かお前は!自分の身も、守れないくせに……私に余計な手出しは不要だ!」
こっ酷く叱られた。
「不思議な術を使う貴方から無力化出来たのは幸いです」
「そりゃ、どうもです……」
魔神と僕の声をかき消すように女剣士が叫ぶ。
「なめるなよ!」
女剣士が鋭い太刀筋でアッハーズに斬りかかる。二刀流ならではの連撃で、アッハーズに反撃の隙を与えない。
上着に付与した治癒が機能し傷はすっかり治っているが、力が抜ける感覚は治らない。僕は、神の癒しを使った。
『神の癒し』
……
この感じ……回復するそばから状態異常になっている?状態異常と神の癒しの効果が相殺しあっている。
神の癒しは効くが状態異常に上書きされる、そしてまた神の癒しで状態異常が消される、これをエンドレスで繰り返しているようだ。
「何をしている!早く逃げろ!」
戦いの最中、彼女が叫ぶ。
「私の戦いに巻き込まれる必要なんて、お前に無い!」
僕のことを心配してくれているのか……口調はあんなのだけど、根は優しい人なのだろう。
そして、徐々に彼女の動きが鈍くなる。瘴気の中心で戦っているのだから当然だ。
むしろ凄い。
アッハーズは連撃をかわしつつ、掌にひときわ大きな魔弾一つを作り出していた。
浴び続けた瘴気の影響で女剣士は技のキレが落ち、アッハーズに反撃の隙を与えてしまったのだ。
そして、それを彼女に打ち込もうとした刹那、僕は介入した。
『神の剣』
「なっ!」
女剣士とアッハーズの間に、神の剣を顕現させ魔弾を防いだ。
「それを彼女に当てさせませんよ!」
『神威』
神威を展開させ瘴気を無効化すると、僕の状態異常はみるみるうちに回復した。
「くっ………」
神威を展開させると女剣士は気を失ってしまった。
(神威も人には毒なのか?)
僕は神威解いて神の剣でアッハーズを追撃した。
「くっ」
「貴方は何者なのです!」
僕的定番のセリフだ。
「ごめんなさい。僕にもよくわからないのです」
「……」
「おかしな事を言いますね……」
アッハーズは苦笑いだ。
神の剣が徐々にアッハーズを追い詰める。
そして遂に捌ききれなくなり、12本の神剣に蹂躙された。
「私もついていないですね……こ……こんな化け物と出会ってしまうなんて……」
アッハーズ、最期の言葉だった。
僕は、女剣士の元へ駆け寄った。かなり消耗しているが問題なさそうだ。
うん?……
何故、問題無いってわかったのだろう?
(スキル確認)
『病の魔弾』
『神の診断』
『ワクチン』
アッハーズからは医者になれそうなスキルを簒奪していた。
ストレージからローブを取り出して彼女に掛けた。
放って置けないので、彼女が目覚めるまで待つ事にした。
(そうだっ!神威の事をウルド様に教えてもらおう!)
『ウルド、今大丈夫?』
『何かありましたか?アル』
『実は人前で神威を使ったら、気絶してしまって……』
『神威も人には毒なの?』
『あぁー
神威は毒では無いけど、プレッシャーが凄いのです』
『アルの神威は…アレだから……
消耗している人や一般人は、失神してしまうかもしれませんね?』
『なるほど…』
『それよりも……また神威を使うような事態が起こってしまったのですか?』
『魔神アッハーズを倒しました!』
『……病の魔神ね……』
『アルは、トラブルに愛されてますね』
『あははは……嫌だなぁ』
その後も他愛のない話を繰り返した2人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます