芸術家とは、モチーフに取り憑かれた者たち

 モチーフに魅せられた絵描きの行き着く先は――。最高の“muse”に出会った瞬間から、死ぬまでカンヴァスに向かい続ける“画家”の狂気と本質を書いた作品でした。

 絵描きの老人と、その絵描きの最後の絵を見てしまった男(絵描きの端くれ)の覚醒?継承?の話です。絵を描いたことがある方、絵に興味のある方に是非おすすめしたい作品です。

 先に、「狂気」と書きましたが、本作の雰囲気は日当たりの良いアトリエと真っ白なカンヴァスのような印象なので、後味の悪さは感じません。


題名:天使を見た爺

作者:蟻喰淚雪

 

https://kakuyomu.jp/works/16818093083523779237


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 絵描きの端くれものである主人公の住む町に、「おれは天使を見た」が口癖の狂った画家がいた。老人は何かに取り憑かれたように四六時中、絵を描いているくせに作品の一つも完成させたことがないという。

 あるとき、この天使を見た爺が亡くなり、彼の最期の作品を目の当たりにした主人公は、まるで啓示を受けたような衝撃を受ける……というあらすじです。

 

 絵描きとは、絵を描くことや描く動機に取り憑かれたような人種だと、私は思うんです。

 私自身も学生時代、美術部で油彩を描いたり、絵の鑑賞も好きなので、世に出て認められている芸術家と言われる人達の狂気性や常軌を逸した集中力に触れる度に、自分との圧倒的な境界線を感じ絶対に“そこ”には辿り着けないと思い知る。受験期に少し迷っていた美術系学校への進路…ああ、でも自分は凡人だ、そう感じて結局、別の道に進みました。そう決めた時のことを思い出しました^ ^

 落胆と安堵が混ざり合った不思議な感覚です。けれど当人の絵描き達はそうは思っていなかったり…ただ己の動機に身をまかせるのみ、そういう純粋さを先人の画家たちからは感じます。


 物語に話を戻しますが、主人公がアトリエで見た老人の絵はある特徴がありました。主人公にとっては明らかに未完の作品たちについて、老人へ尋ねると「完成していないのではなく、失敗作」という言葉が返ってくるのが印象的です。そう、主人公が塗り残しと思っていた箇所にこそ、老人のモチーフが隠されていたのです。

 それまで主人公は老人を惨めな人生を送った爺、くらいにしか思っていなかったんです。しかしその絵を見た後、寂れて哀しいアトリエの描写から、しかし、雷に撃たれたような主人公の描写が素晴らしいです。


 老人は果たして、最期には最高の“muse”に手が届いたのでしょうか。

 その後の主人公が描いていくであろう作品も気になります^ ^


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