実験映画のように描かれる、ディストピア

 海。私たちが想像する、きらきらした水面や癒しの小波といった希望。それらを一切に排除した、酷く荒廃した世界がこの作品には広がっている---。

 悪夢のような出来事が、洗練された美しい言葉で表現されていて、気分が悪いのに読み進めることをやめられない。ディストピアに浸りたい方には是非おすすめの作品です。


題名:海

作者:koumoto

 

https://kakuyomu.jp/works/16816452219057447919


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 主観で語られている人物は、男か女か、はたまた動物か…。いくつもの猫の死体が浮かぶ海の傍を歩いています。この海には、どうして猫の死体ばかりが流れつくのかわかりません。

 そこに一人現れた男は、猫の死体に気味の悪い行為を始める。その行為に意味があるのかさえ語られません。

 無様な姿のピエロ、廃病院、配給の不味いパン、海の向こう側に見える島からは花火が打ち上がり、こちら側に残された人物は、もうすでに生きているのか死んでいるのかさえわからなくなってきます。


 怪奇なのか幻想なのか、もしも自分がこの世界に足を踏み入れてしまったら、きっと気が狂ってしまうことでしょう。

 それでも人は海への憧れや希望を捨てられず、かつて美しかったであろう世界をこの物語に期待してしまうのです。作者さまの表現力も相まって、風景描写が美しく感じてしまいます。


 悪夢を見ているときの感覚に近いのでしょうか。実験映画のような作品なので、ワンカット毎に自分が想像しうる極彩色の地獄の映像が何枚も重ねられて流れていき、あっという間に終わってしまいました。


 主人公は、このまま死んでいきたいのか、まだ生きていたいのか。

 海で死にたいのか、海に懐いているのか---。

 この荒廃した世界は始終、不思議な魅力があります。そして読み進めていくうちに海へのイメージが少し変わっていくのも印象的でした。


 カクヨムで、こういう作品に出会えたことは嬉しいですし、できれば盛り上がってほしいな、なんて^ ^

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