人は愛されたい生き物

 物言わぬ「彼」と、孤独な私との共同生活の終焉---それは喪失の物語なのか、それとも再生の物語なのか。

 謎も残しつつ、解釈は読者に委ねるような余韻を残すラストでした。静かに始まり静かに終わる…


題名:「純愛」

作者:Youg

 

https://kakuyomu.jp/works/16817330651469334621


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 本屋で運命的な出会いと、別れを経験した「私」は、彼女にしか分からない傷を抱えたまま、孤独に生きていく…というあらすじです。


 「私」のもつ熱量も、この物語の温度も、情報量や奥行きも、短編としてちょうど良い。終わりまで、読者としての私はなかなか冷静だったと思います。俯瞰した視点で、主人公がこの先どのように生きていきていくのか…興味が湧いてくる、続きの気になる作品でした。


 「私」の恋人について、色々考えを巡らすのですが、最後まで不可解な部分が残り、考察のしがいがあります。

 私なりの考えを少し語ってもよいでしょうか…間違っていたらすみません。


 主人公と恋人との出会いと別れの場面は必ず本屋です。本屋の店名を訳すと、"空想"となります。ここに作者さんの仕掛けがあるのかな、とか考えたりしました。

 彼は、「私」に優しい言葉をくれるわりに、肝心なときには「私」に対して淡白であり、掛けてくれる言葉も表情もそう多くはないのです。

 後半、「私」と母親の関係性が少し語られていますが、そこからも「私」は孤独で、愛情を渇望していることがうかがえます。

 「私」はずっと愛を求めていて、生き抜く術として、「彼」の支えが必要だったと思うと…なんだか哀しいですよね。

 この物語は始まりと終わりが哀しいんです。そして、"心にぽっかりとできた余白"と、"ラストの主人公の不在"の描写が美しいです。


 私も今まで生きてきて、一番理解してほしい存在に理解してもらえず、心が空っぽになるほど哀しい日々を過ごした経験が昔々ありました。誰も助けてくれない、この哀しみや苦しみは、何かに縋ってでも自分を癒してあげないともう耐えられない…そんな時は、自分で文章を書いたり、漫画や小説などの読み物の空想に浸って、自分を現実世界から避難させることもありました。そうすることで少しだけ癒されて明日も頑張れる…。かつて…そんな日々があったことを、この作品を読んで思い出しました。

 この物語においての「純愛」は、自分の中の確固たる想い、愛する人と一緒に自分もまた抱きしめるような愛、というような感じがするんですよね…。

 誰か、「私」を抱きしめてあげてほしいなぁ。


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