町のおもちゃ屋、それはノスタルジー

題名:個人経営

作者:ユキモチソウ

紹介文より抜粋:

「年月が過ぎて行く」

   https://kakuyomu.jp/works/16817330659021255074


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 さくっと読める文字数の中に、今や絶滅しつつある個人経営のおもちゃ屋さんというノスタルジーがひっそりと、しかし確りと佇んでいる…私もぎりぎり子供の頃に、小さなおもちゃ屋さんや駄菓子屋さんがあった世代なので、この雰囲気すっごくわかります。

 物語は、個性豊かなキャラクターが劇的な窮地に立たされたり、泣いたり笑ったり感情を揺さぶられる展開は一つもなく、ただただ「彼」の幼少期に身近にあったおもちゃ屋の思い出と、「彼」とおもちゃ屋が辿った時代の一片の回想となっています。

 今回の自主企画参加作品の中で唯一無二というか、異質な作品でしたが、私はそこにすごく惹かれました。


 ゲーム機器の変遷と店舗の移り変わりの描写とともに、読み手の私も歳をとった感覚に陥り、とても哀しくなりました。哀しい?とも違うのかな…なんといいますか、年月が経ってしまったんですよ。自分が何者にもなれずただの大人になってしまったなぁ、と、読了後の余韻に佇んでしまった。不思議な感覚です。

 作中に出てきたGEOやTSUTAYAも、いまやサブスクの動画配信サービスに押され、どんどん閉店していっています。時代はどんどん流れていき、それに置いていかれないように必死な自分も、もはや着いていけてはおらず、本当は少し立ち止まったりもしてみたい。

 ああ、懐かしいな。あの頃は良かったな、と。


 本作ではゲームの新作ソフトのエピソードがでてきますが、私の場合は遅くに友人とDVDを選んだり、特典のポスター目当てで予約したCDのこと…そういう思い出が久しぶりに思い起こされて、久しぶりになんかよかったです。

 今はもう、面影もない店舗跡地を通り過ぎる度、かつての店舗の光景がぽうっと胸に燈されて一瞬であの頃に戻される。本作のゲーム屋を私は文字でしか知らないはずなのに、不思議と思い起こすことができる。

 そんな魅力のある作品でした。

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カクヨムで発見した一等星 小鳥 薊 @k_azami

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