五分後に一人残された読者は何を思う?

題名:最後の五分間

作者:鴉

紹介文より抜粋:

「西暦2999年07月XX日――廃墟と化した瓦礫の街にて。1945年の夏、沖縄に向かう米艦隊に、一機の爆装した零戦が向かう。

その零戦のコクピットには、一枚の写真と、布製の人形があった。

弾丸が交差する中、その零戦は弾丸をかいくぐり、攻撃を仕掛ける――」


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054886505498


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 戦闘、歴史、伝記ものに疎い私は、進んでこれらを題材にした作品に挑戦したことは今までない。正確にいうと、書いてみようと思い立っても、浅い内容にほとほと嫌気がさして物語を完結させたことがありません。

 そんな私でも、零戦や神風特攻隊という言葉は知っています。今からもう七十年以上も前になる一九四五年、日本は第二次世界大戦に惨敗し、終戦を迎えました。

 今までに、小説や有名な映画でも、戦争を題材にした作品に触れることはありましたが、なんせ自分がその時代を体験していないため、自分でその世界を描くということはかなりの難題だと、自身では思っています。


 前に、どこかの話(自分で書いておいて、出てきません^^)で書いたことがあると思うのですが、身の周りには当たり前のように物で溢れかえっているこのご時世。情報もわざわざ自身の身体を使わなくても、バーチャルで体感できるし、物だって買える。日常を生き抜くことで精一杯、という時代とは違います。

 戦時中に散っていった若者の残した手紙や写真をテレビなどで見ると、今の若者よりもだいぶ大人びています。これから国のために死んでいくと決意した者、今日を死なずに生きようと懸命な者、皆がこの世界に生きてきた意味を、そして自身の役割を自覚し生きるのが当たり前とされていた時代――。

 その者たちの描写を、すごくリアルに表現されていらっしゃる作品があります。

 前置きが長くなりましたが、今回は鴉さんの『最後の五分間』です。


 本作は一話完結の短編で、零戦という戦闘機で、これから特攻を遂行する若者の最後の五分間をまとめています。

 読んでいる間ずっとこの若者と戦闘機の中で運命をともにすることになった私は、経験したこともないはずの操縦機からの景色や、空母から放たれた砲弾によって受けた衝撃、ガソリン油と人間の血液に染まった不気味な海の色を、主人公と一緒に体感しました。


 主人公には、愛した人もおり、その人に想いを馳せる回想シーンも挿入されており、戦闘機はただの殺人兵器ではなく、自分と同じ「魂」の入った機体であった、ということを自覚させられます。


 我が国日本は戦争に負け、特攻機の多くは「国の誇り」に命を捧げて散っていった、という過去は変えられない事実です。

 本作も、それがテーマですので……語るまでもなく、結末は静かに終焉へと向かっていきます。


 私がここで語っておきたいことは、本作のラスト三行で表現された情景とその視点です。あなたは、主人公と運命をともにして、ラストに用意されている光景を、自らもその視点になって見つめることができますでしょうか?

 本作は、そこまでの誘導がとても巧みに構成されているので、きっと多くの読者が共感できるのではないかと、私は思いました。



 ちなみに、鴉さんの作品で、『血弾ー真打版』という作品の方を先に読ませていただいており、私はこちらもすごく面白かったです。本作同様、戦争ものですが、「人体を使って兵器をつくる部隊」というフィクションを混ぜた長編となっています。

 短編では描けない、人物の心情の移り変わりや、時間の流れを細かく表現されているので、より人間味あふれた主人公の人生が描かれています。


 戦争は、絶対に繰り返してはいけない過ちだと私は思いますが、それが自分たちにとって他人事のような、ただの歴史の一ページとなっていく怖さも同時に感じずにはいられません。


 昨日の「えちえちおねえさん」の記事に比べるとひどく真面目な文章になっちゃいましたね^^

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