カクヨムでは希少な正統派文学、そして私の好み。

 題名:丘の上のマドモアゼル

 作者:日南田 ウヲ

 紹介文より抜粋:

「南仏ニースから戻ってきた百合子は絵画と向きうことができない日々を過ごしていた。そんなある日、自分の部屋へ帰る途中で白い大きな屋敷を見つけ、そこで突然、暗闇の中から老婦人からフランス語で声をかけられる。翌日、百合子はその老婦人のもとへ向かい、そこで老婦人が語る人生を聞きながら自分の向き合うべき芸術とは何かを見つける。この小説は年齢の離れた二人の女性が向き合った芸術とは何かを、見つめる物語です。」


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054891889973


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 今回は、「丘の上のマドモアゼル」という作品の読了した私の感想を語りたいと思います。

 あらすじは、見事すぎるので補足もありません^^

 

 本作は、一話完結の短編で、主人公の百合子の視点から、三人称で描かれていますね。対象年齢的には、少し大人向けかもしれないなと拝読しながら思いました。

 小説の好みって、自分が共感できるかどうかと、自分に受けつける文体かどうかという点が大きく影響するのかな……と私は思うのです。タグにもあるように、こちらの作品は、純文学。ライトノベルのノリで読むと、行間の詰まりや単語や漢字などの情報処理が多く感じるかもしれないですね。

 私は、カクヨム内では久しぶりに文芸書籍を読んでいる感覚を味わいました。


 主人公の百合子は、志半ばで画家への道を諦めかけて帰国するんです。アートでプロを目指す人の現実と苦悩が前半では描かれていて、これは絵描きも物書きも同じだなと思いました。大人になればなるほど、夢を追うことを社会が許してくれなくなってくるんですよね。そんな中で、百合子の人生の転機ともなる出会いが訪れるのですが、ここで登場する老婦人とその環境が、これまた非日常感が漂い素敵です。

 激動の人生を生き抜いてきて、今はひっそりと呼吸するように思い出と芸術と暮らす老婦人――ここでの二人の女性のやり取りが上品でなんとも美しいです。


 先に、共感という言葉を出しましたが、本作では過去の芸術家、モネ、フェルメール、シャガール、セザンヌなどの巨匠の名前がポンポンと出てきます。私は美術が好きなので、これらの名前が持つそれぞれの色の共感によって、たちまち作品の世界が鮮やかな色を持ちました。

 言葉の持つ力ってすごいですよね。単語や文体で、五感を好きにイメージできるのですから。


 本作は、全体の構成として強弱や波の揺れ幅が大きい作品ではなく、穏やかに緩やかに時間や奥行きが感じられる作品だと思います。なので、私としてはまるで二人のお茶会に参加させてもらっているような心地で読ませていただきました。そういう作品が好きな方には是非おすすめですね。


 挫折を味わい、立ち止まり、また歩き出し、そしてこれからも歩き続ける――その様が、短い文章の中にバランスよく、そして読了感もすばらしく描かれていて、まとまりとしてお見事! と思いました^^

 あと、人生のうちに一度でもいいから、「マドモアゼル」って呼んでもらいたいな……。





 ということで、締めになりますが、私の品評!



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 レビューは★★★ Excellent!!!

「自分には書けない」★★☆

「心が震える」★☆☆

「なんという余韻」★☆☆



 これが私の最大の褒め言葉^^

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