哲学を知らない私のための、哲学入門

 題名:存在してきます

 作者:松川 真

 紹介文より抜粋:

「テーマは「存在していくこと」。

 神園篤哉の一人称から、彼の歩みを描いていく。

 神園篤哉(かみぞのあつや)は名ばかりと自嘲する事業を畳み、逃げるように東京から未踏の地、大分に住み始めて3年が立つ。東京生活の反動からか、2年以上、全身の激痛にのたうち回る。篤哉は慢性的な体の故障から徐々に外出の回数を増やしていくが、失った習慣や体、何より人と繋がることに大きな隔たりと絶望を感じていた。

時間をはたいて扉を開いた篤哉は喫茶店に向かう。帰りにひとりの女「浪越紗也加(なおさやか)」が倒れていた。目を覚ました紗也加は病室で篤哉と話す。彼女の何気ない質問に激しく取り乱し、転倒する篤哉。荷物かごにぶつかって、彼女のバッグから出てきたのは、一冊の哲学書だった。

 紗也加の本をきっかけに、会話が変わり始める。彼女は篤哉を試した。篤哉は自分の願いを語る。

 紗也加は篤哉に兄に会って欲しいと提案する。」


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054889075820


 〜〜〜〜〜〜〜〜


 今回は、私が見つけた大好きな作品について熱く語っていきたいと思います。

 しかしながら、先に申し上げておきますが、この作品はおそらく読む人を選ぶ作品だと思います。というのも、この作品の素晴らしいところは、カクヨムの中でまさに光り輝く一等星を見つけるくらい稀有な文学作品だからです。

 私は、こちらの作品がもし、商業ルートで購買できるとしたら、書籍の形で手元に置くと思います。

 ただ、本棚のジャンルは絶対に「ライトノベル」ではありません。現代文学です。文学。

 そこを強調したいのです。


 そして、内容ものっけから、難解ともとれるプロローグ。

 もしも、私のレビューを見てこちらの作品をこれから読んでみようと試みる方がいれば、一つだけ助言があります。

 最初のプロローグは、おそらくこの物語の鍵となるもので最も重要なことを述べています。しかし、最初は文章の意味を理解しようとせずに、文章を純粋に知覚してください。

 物語を読み進めていくうちに、プロローグの意味が自ずと分かってくると思いますので、そのときが来たら、もう一度、プロローグを読み返してみることをオススメします。


 人がなぜ存在するのか……、そして存在とは? この物語のテーマはこの難解な問題を提起することにある、すなわち、哲学です。

 冒頭から、登場人物のやりとりの中でいくつかの哲学書や哲学者が出てきます。

 正直、私は、どの哲学者の名前も哲学書も知りませんでした。

 だから、作者の松川さんはきっと、いろんな哲学書を読んで普段から哲学について親しんでいる方なのかな、と想像いたしました。


 私、たぶん、松川さんと哲学についての話なんて、お恥ずかしくて一緒にはできません……。

 けれど、この物語は、読んですぐ、私の中の何かに引っ掛かり、まさしく、一等星が燃える熱を強く感じました。


 おそらく、松川さんは、このWebサイト用に文章を読みやすく配置したり、構成や設定なども工夫して投稿されていることと思います。

 きっと、書籍でこの作品に出会ったら、また感じ方が違ったかな……。どうでしょう。

 とにかくここで私が言いたいことは、文章自体は決して堅苦しく難しいものではありません。分かりやすく丁寧な文体が、「存在していくことって、どういうこと?」かを考えてみませんか、と誘っています。とても優しい作品。擬人化できるなら、惚れてしまいます。



 こちらの作品は現在も連載中で完結していないため、私の感想も慎重に書いていきたいと思います。


 ストーリーは、篤哉の一人称で描かれており、紗也加と耕平という兄妹との出会いから展開していきます。

 篤哉と耕平の二人は、共通の趣味である「哲学」から急激に仲を深めていき、会う度に自分が今率直に思うことを、投げかけ合いながら哲学していきます。

 このやりとりは、おそらく篤哉や耕平みたいに、社会では生きにくい特性を濃く持った質の人間にとっての魂の叫び合いと言えるでしょう。

 でも、大抵の人は、こういった悩みをいちいち気にして生きてはいないことでしょう。そんなことを気にしはじめたら、きっと潰れて死んでしまいます……。なので、篤哉と耕平のやりとりが続く場面では、少々、「何言ってんの? この二人」と読者は取り残されたような感覚に陥るかもしれません。

 私は、そのある種のオタク感を、ふんだんに描いてくれた松川さんを尊敬しますけど。松川さん、優しいけど容赦ない^^

 私は、この二人の世界から逸脱した滑稽な姿が、この物語の重要な点だと思うのです。

 読者の方には、飽きずにちゃんと付いてきてほしいです。

 なぜなら、現在更新中となっている「陰り」の章で、今まで止まっていた二人の世界が一気に動き始めます。しかも急速に――。


 私は、この物語がこの先どのように進んでいくのか、予測できません。

 登場人物がそれなりに幸せに生きていくかもしれませんし、篤哉なりの、耕平なりの、世界との折り合いを見つける旅の終着点を見つけるのか、見つけないのか、辿り着くのか着かないのか……それも、わかりません。


 プロローグの文章に、共感できる人。意味は理解しなくてもいいんです。それでも何かを感じた人は、ぜひ、この物語を通して、少し「哲学」してみませんか?

 二人について少しでも理解を深めることができれば、身の回りにいるかもしれない二人みたいな人を救えるかもしれません。



 ということで、締めになりますが、私の品評!



 〜〜〜〜〜〜〜〜


 レビューは★★★ Excellent!!!

「自分には書けない」★★★

「心が震える」★★★

「なんという余韻」☆☆☆

 ※まだ完結していないため、ラストの余韻は★なし(未知)としました。


 これが私の最大の褒め言葉^^

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