「雨音」の奥行き ≒「川」≒「世界との隔たり」。メタファーは成功したのか?

 題名:止まずの雨

 作者:七沢ゆきの

 紹介文より抜粋:

「アル中で処方薬ジャンキーでラリリだったどうしようもない男と、その男を愛してくれた女のお話」


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054889625295


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 今回も、このレビュー集のために立ち上げた自主企画に参加してくださった作品からの一作です。


 こちらは1話完結の短編で、恋愛要素ありのヒューマンドラマです。

 ある雨の日の何気ない日常に、主人公の男が自分の人生に想いを馳せる……というストーリーですね。

 時間としては、すごく短い場面を切り取った話なので、場面展開は少なく主人公の回想と語りが大半を占めています。


 七沢ゆきのさんの作品は初めて読ませていただきましたが、文章力のある筆者さまだなと思いました。


 この作品を、取り上げた理由としましては、読み終えた後のすがすがしさが他作品と比べてずば抜けており、「平和」とはこういう瞬間を言うんだろうな、と、しばらく浸ってしまったこと。

 もう一つに、雨音から主人公が川音を連想させ、さらに川が世界と自分を隔てる壁として表現されている。このメタファーが成功しているか否か……。

 この二つについて語りたいと思ったので、私なりに感じたことを好き勝手書いていこうと思います。七沢さん、どうか温かい気持ちで見てください……^^


 まず、どうしようもない男が見つけた幸せ……八重の存在感です。「どこにでもいそうな平凡な顔の年下の女」と表現される八重が、洗濯を干すことへのこだわりを語るシーンが、私にはなんとも平凡の象徴で、どうでもよいことなのに、逆にそれが特別なことのように感じました。

 主人公は、そんな八重の凡庸性に対して、この日常の中の幸せを確かに噛みしめている……。

 そんな魅力ある八重の描き方が、とてもステキです。


 そして、雨が世界と自分を隔てる存在であり、主人公はそれが好きだと語っていることについてです。

 作中に「雨音」が「静かだ」という表現があります。そして雨音は川の音に似ている、自分は川の内側、世界は川の外側……と続きます。

 雨音が静か、という描写は、雨音が静かなのではなく、雨音が世界の音を消してくれるから「静か」という意味でいえば私も共感できます。

 雨の日は、外出できなかったりと、外の世界との距離ができるような感覚ってわかります。だからなんとなく孤独。でもそれがいいなっていう気持ち、私も感じることがあるんです。

 そういう雨音の奥行きを、七沢さんは川も同様のように描いているのでしょうか? 私はそこへの変換のアグレッシブさに少々違和感がありました……そこはさておき、主人公が語るに、「川の外側に世界、内側に主人公」、「八重は内側に流れ着いた女で、いつかは川を渡って外側に行ってしまうかもしれない女」なので、「流れ着く」「渡る」という表現を尊重するのなら、雨よりも川の方が隔たりをイメージしやすいので、雨から川への変換が、ここで活きてきているように思うので結果的に成功かな、と。

そして、川は流れていくものなので、時間軸での奥行きは雨より川の方が圧倒的に上ですよね。

 だがしかし、タイトルが「止まずの雨」というところも、意図的なギミックなのかな……私は、雨音の奥行きが世界への隔たりと捉えたので、その雨が止まないということは、そこでも時間がずっと続くのかな、続いてほしいと主人公が願っているのかな、と感じました。


 終わりに、ラストですが、私はこの作品の最後の文章の不透明さが物凄く好きです。

 主人公が今までのどうしようもない人生を語り、今ある平凡な幸せを噛み締め、この幸せの意味を考え、これは愛ですか?……答えは、読者さん、考えてくださいね。

 カッコイイぜ。

 世界の内側は今日もこんなに平和だぜ。イェーイ!って感じです^^



 ということで、締めになりますが、私の品評!



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 レビューは★★★Excellent!!

「自分には書けない」★☆☆

「心が震える」★☆☆

「なんという余韻」★★★


 これが私の最大の褒め言葉^^

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