第60話 怪談のある学校

 佐久間さんが通っていた小学校には、怖い話がいくつもあったという。


 高学年の時、児童会の仕事のために、下校時刻を少し過ぎるまで学校にいたことがあった。

 日頃から、この小学校の怪談を嫌というほど聞かされていた佐久間さんと友達は、急いで昇降口に向かった。

 幸い、まだ表は明るい。

 下校時刻が過ぎていたため、昇降口には誰もおらず、ひっそりと静まり返っていた。生徒がそれぞれ靴や上履きを入れるための、小さなロッカーが並んでいる。佐久間さんは怖さを誤魔化すために友達と盛んにおしゃべりしながら、自分のロッカーを開けて手を突っ込んだ。

 すると、その手を誰かに握り返された感触がある。あれ? と思った瞬間、ロッカーの中から手を引っ張られた。

「きゃあっ!」

 彼女は叫び声をあげて、何者かの手を振りほどき、自分の右手をロッカーから引っ張り出した。

 扉の開いたロッカーの中には、彼女のスニーカーが入っているだけだ。

「どうしたの?」

 友達が不安げに話しかけてきた。佐久間さんは、今あったことをその場で話すのが怖くてたまらなかったので、「後で話すから、早く学校出よ」と友達を促した。

 二人が靴を履き、外に出ようとした時、すぐ後ろで何かが破裂するような物凄い音がした。

 振り返ると、並んでいるロッカーのすべての扉が開いて、まだゆらゆらと揺れていた。

 二人は悲鳴を上げて、その場から逃げ去った。


 翌日佐久間さんは、学校に着くなりそのことをクラスメイトに話したが、皆「さもありなん」という顔をしていたという。

「そういう学校だったんだよねぇ」

 大人になった今、佐久間さんはどこか懐かしそうに笑う。

 噂の多かった校舎は老朽化に伴って取り壊され、新しい校舎が建てられた。今も怪談があるのかはわからない。

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