第38話 初恋
大川君が小学四年生のとき、近所の空き地に真新しい家が建てられた。
学校の行き帰りに、きれいな家だなぁと思って眺めていると、ちょうど見上げた辺りにある窓から、こちらを見ている顔があるのに気付いた。
大川君より少し年上らしい女の子で、長い髪を顔の横に垂らしている。色の白い、可愛い子だった。
目があった、と思った次の瞬間、女の子がにこっと笑った。
大川君はとっさに顔を伏せ、耳まで真っ赤になりながら駆け出した。
そうやって逃げてしまったものの、家に帰ってからも、あの女の子の顔が忘れられない。
次の日も、学校の帰りにその家を見ると、同じ窓から女の子が外を眺めている。
目をあわせないように通りすぎたが、やけにドキドキした。
何日か経って、大川君のクラスに転校生の男の子がやってきた。もしかしてと思って話しかけると、例の新築の家に引っ越してきたという。
「俺ん家近くなんだ」と言うと、転校生は「じゃあ遊びに来ない?」と家に招いてくれた。
早速その日に、ワクワクハラハラしながら遊びに行った。例の窓を見ると、女の子の顔がちらりと見えた。
「な、なぁ、お前んち、兄弟とかいるの?」
「あぁ、姉ちゃんが一人いるよ」
内心、お前姉ちゃんに全然似てないな、と思った。転校生は鍵を取り出すと、玄関のドアを開けた。
もしや彼女が出迎えにくるかと身構えていたが、誰も出てこない。転校生は「俺の部屋二階だから」と、大川君を階段へ案内した。
と、階段の途中にある窓にかかっているカーテンに、見覚えがあった。窓の大きさや形、方角から考えても、この窓が例の、女の子が覗いていた窓だろう。
ただ、やけに高いところにある。家の外からはわからなかったが、大川君の頭よりもずっと高い位置だ。階段の途中なので、脚立や踏み台を置くのも難しい。
あの女の子は、どうやってここから顔を出していたのだろう。
その時、玄関から「ただいまー」という声がした。
「あ、姉ちゃんだ」
数歩先を歩いていた転校生が振り返った。
玄関に現れたセーラー服の少女は、やっぱりあの女の子とは似ても似つかなかった。
それから十五年が経った。
「でもね、未だにあいつの家の窓見ると、あの女の子がいるんですよ」
気味が悪そうな、でも何だか嬉しそうな、妙な顔で大川君は言う。
女の子の顔は、十五年前とまったく変わっていないという。
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