第27話 日曜日

「後で考えたら、俺、やっぱり夢を見てたか、寝ぼけてただけなんじゃないかと思うんだけどね」

 でも怖かったから、と三輪さんは話し始めた。


 三輪さんは、八階建てのマンションの四階で一人暮らしをしている。

 ある土曜日の朝、ふと目が覚めた。

 時計を見ると、朝の六時を少々回ったばかりだった。せっかくの休日なのだから、と二度寝をしようとしたが、妙に目が冴えてしまって眠れない。それに、何となく表がざわざわするような気がする。

 仕方がないので、起きて新聞をとりにいくことにした。

 郵便受けに挟まった新聞を引っ張るが、どこかが引っかかってしまったのか、うまく抜くことができない。仕方がないので玄関を開け、外から新聞を引っ張り出すことにした。

「あっ、おはようございまーす」

 ドアを開けた瞬間、マンションの隣人と鉢合わせした。何度か顔を合わせたことのある若い男性が、ジャージ姿でエレベーターの方から歩いてきたところだった。

「おはようございます」

「ちょっ、大変らしいですよ。外!」

 元々人懐っこい性格の隣人だが、いつになく間を詰めてくる。

「自殺だって! 上の階に住んでた女の子らしいっすよ。同棲してた男と別れ話になって、飛び降りたらしいっす。いやー、嫌っすねー」

 と言いつつ、あまり嫌がっている様子でもない隣人は、「じゃ!」と言いながら三輪さんの前を通り過ぎ、自分の部屋に戻って行った。

「噂好きなオバサンみたいな男だな……若いのに」

 そう思いながら、三輪さんも新聞を持って中に引っ込んだ。

 何となく自殺があった建物にいるのが嫌で、朝食をとるとすぐに出かけることにした。

 マンションを出る時、ゴミ集積所の辺りに黄色いテープが張られているのがちらりと見えた。


 三輪さんはコーヒーショップや映画館で時間を潰した後、日が暮れてから友人数人と落ち合って、居酒屋をはしごした。

 かなり飲んだはずなのに、何となく酒が回らない。途中で友人たちと別れ、マンションに着いた時には日付が変わっていた。

 自分のベッドを見た瞬間、どっと眠気が押し寄せてきた。部屋着に着替えると、そのまま三輪さんは眠ってしまった。

 ふと目が覚めた。

 時計を見ると、朝の六時を少々回ったところだった。

 何となく外が騒がしいような気がした。

 もう一度目を閉じるが、なかなか寝付けない。諦めて起き上り、いつも通り玄関に新聞を取りに向かった。

 どこが引っかかったのか、うまく取り出せない新聞に業を煮やして玄関を開けると、エレベーターの方から隣人が歩いてきた。

 見覚えのあるジャージ姿だ。

「あっ、おはようございまーす! ちょっ、大変らしいですよ。外!」

 そう言いながら、どんどん近づいてくる。

「自殺だって! 上の階に住んでた女の子らしいっすよ。同棲してた男と別れ話になって、飛び降りたらしいっす。いやー、嫌っすねー。じゃ!」

 そう言いながら自分の部屋に消えていくのを、三輪さんはぽかんと見送った。

「何だ、今の……」

 思わずつぶやいたところに、突然ポーン! という音がした。

 エレベーターが到着した時の音だった。

 思わずそちらの方向を見ると、エレベーターの扉が開くところだった。

 ワンピースらしきものを着た人影が乗っていた。

 とれかかった頭が、胸の前にぶら下がっている。


 自分の悲鳴で目が覚めた。

 枕元の携帯電話を見ると、日曜日の朝六時を回ったところだった。

 三輪さんはベッドの上に体を起こした。もう一度眠る気はしなかった。

 嫌な夢を見たな、と思いながら、ふとダイニングテーブルの上を見た。

 新聞が載っていた。

 取りに行った覚えのない、日曜日の朝刊だった。

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