第18話 よくある

「全然怖い話じゃないかもしれないんですが……」

 東野さんはそう話し始めた。


 専門学校に通う東野さんは、学校近くのイタリアンレストランでアルバイトをしている。ごく小規模な個人経営のお店だが、地元ではそこそこ有名らしい。

 ある日、カウンターに近いテーブル席に座った二人組がいた。会社員風の若い女性で、談笑しながらランチを食べていたという。

 東野さんはその時、カウンターの近くに立っていた。フロア内に視線を配っていると、例の二人組のうち、一人の女性が突然口を押えた。

 少しの間もごもごと口を動かしていた彼女は、親指と人差し指を口元につけて、ゆっくりと何かを取り出した。

 黒々と太い、髪の毛だった。女性が引っ張るにつれ、どんどん口から出てくる。ざっと見て50センチはあったという。

 女性はナプキンに髪の毛を丁寧に包むと、テーブルの端に置き、深い溜息をついた。

「とっさにクレームになるだろうと思って、ちょっと緊張してたんですが」

 彼女たちは、近くにいる東野さんを呼ぼうとはしなかった。

 身構えつつも、彼女も変だと思っていたという。店にいるのは短髪の男性スタッフ数人と、ショートカットの茶髪にバンダナを巻いた東野さんだけ。髪の長い人物はいなかった。

 口から髪が出てきた女性の、向かいに座っていた女性が言った。

「また?」

「うん……もう、嫌になっちゃう」

 慣れた口調だったという。


 女性の二人組は時々姿を見せるらしいが、ごく普通の、おしゃれな若い女性だそうだ。

「すごく感じのいいお客さんなんですけど、この間また、きっちり包んだナプキンがテーブルに置いてあって……」

 それが一体何なのか、聞いていないのでわからないという。

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