第17話 着信
クミコさんの伯母さんは、某大学で教授の職に就いている。
ある日その伯母さんが、仕事でひと月ほど海外に行くことになった。一人暮らしなので、その間家が空っぽになってしまう。そこでその間、クミコさんが毎週お邪魔して、換気や掃除をする約束をした。
さて、伯母さんが海外に旅立って最初の土曜日、クミコさんは約束通り、伯母さんの家にやってきた。二階建ての、小さいが小洒落た一軒家だ。
預かっていた鍵で中に入り、家中のドアや窓を開けて回った。一階に居間と台所、お風呂やトイレなどの水回りがあって、二階は寝室と、伯母さんの仕事部屋と書斎になっている。
何度か来たことのあるクミコさんだったが、改めて素敵な家だなぁと思ったという。
二階の廊下に掃除機をかけていると、ポケットに入れていた携帯電話が鳴った。見ると、伯母さんから着信とある。
「もしもし?」
『クミちゃん? あのね、もし誰かがピンポン鳴らしてきても、無視してちょうだい』
それだけ言うと、電話は切れてしまった。普段の伯母さんからすればかなり不愛想だったが、何せ相手は海外だ。国際電話だからすぐに切ったのだろうと納得した。
その日はインターホンも鳴らず、クミコさんは戸締りを確かめてから、伯母さんの家を後にした。
それから三回伯母さんの家に行ったが、誰も訪ねてはこなかった。
やがて、伯母さんが海外から帰ってきた。たくさんのお土産を抱えて、クミコさんの家にやってきた。
「とってもきれいになってたわ。ありがとう」
その声を聞いて、ふと電話のことを思い出した。
「そういえば伯母さん、五日に私に電話くれたよね?」
「電話?」
伯母さんは怪訝な顔をした。「してないけど。本当に私?」
「伯母さんの番号だったよ。声はちょっと遠かったから、本当に伯母さんかは自信ないけど。誰かがピンポン鳴らしてきても、無視してって言われたの」
「それ、こっちの家にかかってきたの?」
「ううん。伯母さん家にいる時に、私の携帯にかかってきた」
「じゃあ違うわよ。私、クミちゃんの携帯知らないもの」
よくよく考えてみると、クミコさんが「伯母さんの電話番号」として携帯に登録していたのは、伯母さんの家の固定電話の番号だった。
固定電話は、二階の仕事部屋に設置されている。
「伯母さん一人の家なんですよ。仮に誰かが入ってきたとしても、廊下にいたら気付くだろうし」
考えているうちに、どんどん背筋が寒くなったという。
以来、伯母さんの家には行っていない。
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