第16話 左手
「なぁちゃん、なぁちゃん」
自分のあだ名を呼ぶ声を聞きながら、新山さんはふと目を覚ました。真夜中の自室には、常夜灯と充電中の携帯電話のランプしか光源がない。
「なぁちゃん、なぁちゃん」
てっきり夢の中のものだと思っていた声は、彼女が目を覚ました後も続いている。
新山さんはその声を、一週間ほど前に病気で亡くなった、彼女のお姉さんのものだと思った。
「お姉ちゃん?」
部屋を見回すと、廊下に通じる襖が開いている。瞬間、全身の毛が逆立った。
白塗りの女の顔が、襖の間から覗いている。異様に目が吊り上がり、唇だけが赤い顔は、お姉さんとは似ても似つかない。顔の回りには真っ白い手がいくつも添えられており、さらに襖を開けようとしているかのようだった。
「なぁちゃん」
ぽつんと点を打ったような唇が動いた。
新山さんが悲鳴を上げると、女の顔は廊下の方に引っ込み、ばたばたという物凄い音が遠ざかっていった。
新山さんは恐ろしさのあまり、朝まで部屋から出ることができなかった。
姉の死とその女と、何かしら因果関係があったのだ、とは思いたくない。そう新山さんは言う。
それが一体何だったのかはわからない。ただ、襖の隙間からいくつも出ていた手が、すべて左手だったということは、なぜか覚えているのだそうだ。
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