第8話 オンラインゲーム

 辻さんはゲーマーだ。

 休日には同じくゲーマーの彼女と、ローカル通信で協力プレイをするのが楽しみらしい。

「同じ部屋にいるくせに、お互い画面の中しか見てないんだよね」

 本人は自虐気味に言うが、「彼女と趣味を共有できる」という意味の惚気としか思えない。

 そんな辻さんが見た、幽霊らしきものの話。


 その日も辻さんは、彼女を部屋に呼んでゲームをしていた。

 ターゲットを探して、二人はそれぞれ単独行動をしていた。隣で彼女が「いないなぁ」などと呟いていた。

「五分くらいは探したかなぁ。そんなに見つからないことって、普通はないんだけど」

 だから、もしかしたらあれはバグかもしれない、と辻さんは自信なさげに言う。

 彼が見慣れた草原のフィールドを駆け回っていると、澄みわたる青空をバックに黒い人影が立っていた。なんだか黒い紙を人型に切り抜いたように真っ黒で、髪型も顔もわからない。

「そんなキャラクター、いないはずなんだけど」

 隣にいた彼女をつついて、自分のゲームの画面を見せると、彼女も驚いた。

「何これ? こんな設定あるの?」

「いや、俺も初めて見た」

「誰かオンラインで入ってきてるとか?」

「まさか。途中からなんて無理だし、第一ここに名前が出るだろ?」

「ねぇ、ちょっと、何かしてみなよ。話しかけられるかもよ?」

 彼女がそう言ったとたん、黒い人物がぶわっと黒いもやに包まれたようになった。そのまま消えてしまったという。

「ものすごく埃が積もったところに息を吹きかけたみたいな。で、埃が消えたらいなくなってたみたいな」

 首を傾げながら辻さんは説明する。

「何か、気持ち悪いね」

 彼女が眉をひそめた。彼も同感だった。


 その後も何度も同じフィールドに行ったが、同様のバグが起こったことはない。インターネットでも検索したが、同じ現象を体験した、という人はいないようだった。

「ただね……近所の公園でその前の日、焼身自殺した人がいたんだよね」

 その話と、真っ黒な人影がリンクした時、全身に鳥肌が立ったという。

 ゲームに付き合ってくれなくなると困るので、このことは彼女には内緒だそうだ。

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